65.げきやば
毒蛙を倒し、さらに瘴気も浄化した(波ぁ……! により)。
「ひゃんひゃんひゃんひゃーん!」
馬車の中で、ヨルが私の体にやたら飛びついてくる。
『遊ぼって連呼してますね』
「後でね、後でね……」
今は毒蛙の問題をなんとかしないと。
貞子さんにテイムした鳥を使って、周囲の様子を見てもらっている。
『……毒蛙は、ネログーマの西側に集まってます』
『ゲータ・ニィガ国境付近に集中してるってことですね』
愛美さんから地理を教わる。ゲータ・ニィガとネログーマは隣接していて、ネログーマの西にゲータ・ニィガがあるらしい(それ以外は海と接している)。
「なんで西に、毒蛙が集中してるんでしょうね」
『すみかが西に集中してるからですかねー』
私と愛美さんがうーんと唸る。一方で貞子さんが目を開けて言う。
『……なんだか、作為を感じます』
「作為?」
『……はい。魔物を操ってる人がいる気がします』
「どうしてわかるんですか?」
『……わたくしの勘、です、としか』
貞子さんは調教師。ケモノを操るものとしての勘がそう告げているのかもしれない。
「にゃふ……」
『【ヤスコ、猫耳可愛い】 のんきですねー』
うう、まだ猫神モードが解けない。
「ましろたん、これいつ解除されるんでしゅか?」
「にゃーお」
『【そんなのあたしがわかるわけないでしょ】ですって。元凶なのに……あっ、やめてっ、連打やめてっ!』
元凶って言い方が気に入らなかったようだ。
「でも西側に集中してるなら、都合がいいな」
アメリアさんが言う。
「我がいるのも、ネログーマ西側だ。王都へ向かう道すがら、毒蛙も倒せる」
「でしゅね……ん?」
ぴん、と私の尻尾が別方向を向く。
『やすこにゃん、どうしたんです、猫尻尾なんて動かして。萌えを意識してるんです?』
「ちがいましゅよ。なんか、体が反応して……」
すると、げこ、げこという音が聞こえた。
『今度は猫耳を動かして……やっぱり萌えを意識してるんでしょ?』
「ちがいましゅって。貞子しゃん、こっちに何かいますか?」
私が指さす方へ、貞子さんに索敵してもらう。
『……毒蛙の群れがいます。どうやら獣人の騎士たちが戦っているようです』
これってつまり、魔物の位置を特定できたってこと? まさか……ましろのスキル、猫のひげ?
『猫神モード中は、バステト神と力を共有できるって鑑定に書いてありましたからね』
「にゃるほど……。アメリアしゃん、敵がいます!」
アメリアさんは頷き、馬車をそちらに向ける。
『波ぁ……! はしないですか?』
「しましぇんよ……愛美しゃん」
『なんだぁ、かっこいいのに』
のんきだなあ。まあ、愛美さんは霊体だし。
波ぁ……! をすると、近くにいる獣人の騎士たちをびっくりさせてしまう。だからしない。
「ひゃん~。ひゃん~」
ヨルがぴょんぴょん跳ねて私に飛びかかってくる。どうやら遊んでほしいらしい。
「後でね」
「う~……」
とても不満げ。そんなに遊んでほしいのか……。
『……毒蛙、かなり数が多いです』
『とのことですが、ましろ様。さっきみたいにカエルをすぱぱーんってできます?』
愛美さんの問いかけを、ましろは無視してあくびをしている。
『ほんとにこの猫、やすこにゃんの言うことしか聞きませんねぇ……あっ! あっ! やめてっ、そうですよね、猫じゃあないですよね、神! 神ぃ! 仰せのままにぃ~!』
じゃれてる愛美さんをよそに、毒蛙の対処法を考える。
「体から毒を出してるってことは、直接攻撃はやめたほうがいいでしゅよね?」
「そうだな」
アメリアさんが同意する。だが——
『……寧子さんの遠距離攻撃手段って、どれも火力高すぎますよね』
火遁にしろ、月は無慈悲な夜の女神にしろ、強すぎる。もっとちょうどいい力があればいいのだが——あっ、そうか。
「今……ましろたんの力が、わたしにもあるってことは、飛爪が使える!」
なるほど。ましろがやらなくても、私がましろの力を使って戦えばいいのだ。
「コネコちゃん、見えてきたよ」
馬車が止まる。少し離れた森の近くで戦闘が行われていた。バセンジーさんと同じ鎧をまとった獣人たちが、カエルと相対している。
「助太刀せねば……!」
「待ってください、バセンジー。コネコさんが遠くから攻撃するとのことですわ!」
シュナウザーさんがバセンジーさんを止めてくれる。助かる。
「嬢ちゃんが……って、なんだい、その耳と尻尾」
「そこには触れないでほしいでしゅ」
私は荷台の端に立ち、両手を広げる。
「飛爪!」
ましろの攻撃スキル、飛爪。斬撃を飛ばすスキルだ。
しーん……。
「あ、あれ? 飛爪! あれぇ~?」
スキルが発動しない……?
「なう」
『【爪でひっかくポーズしないと発動しないわよ】ですって。それ早く言ってくださいよぉ~。あっ! あっ! 痛い痛い! パンチやめてパンチ!』
「しゃー!」
『キックにしてって意味じゃあないですからぁ……!』
なるほど。発声だけでなくポーズも必要なのか。私は両手を広げて、ぶんっ! と振る。
「あ」
ましろさん!? その「あ」は何!? 嫌な予感しかしない!
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
「「「えーーーーーーー!?」」」
私、アメリアさん、シュナウザーさんが声を上げる。とんでもなく大きな斬撃が前方めがけて飛んでいったのだ。
狙いが外れ、獣人たちやカエルたちの頭上を斬撃が通過した。だが、その背後の森の木々が、ずっぱーん! と一気に吹き飛んだ。
それを見て、獣人たちもカエルすらも呆然としている。そりゃそうだ。
「ましろたん、さっきのあれなに!?」
「にゃうん」
『【強すぎ】ですって。な、なるほど……力を入れすぎたんですね。やすこにゃんこれ使うの初めてだから、力の入れ具合がわからなかったと』
結果、あんなやばい斬撃が出てしまったらしい……怖い。ましろ、こんな激ヤバスキルを軽々使ってたの!?




