63.浄化ってレベルじゃあねえ!
ネログーマ王都へ向かう道すがら、毒蛙を倒しに来た。
もっとも、ましろの斬撃(爪)でワンパンだったけども。
「でもこれで終わりじゃあないでしゅね」
『ですねー、むしろこっから本番ってかんじですよぉう』
愛美さん、そして私が見やる先には——毒蛙によって汚された大地が広がっていた。
地面には、毒蛙の体液が溜まっている。粘性のある紫色の液体で、こぽこぽと泡立ちながらガスを発していた。
これが……瘴気。人体に有害なガスだ。
「ひゃぅう~……」
「……なんだか、具合がわるくなってきましたわ……」
ヨル、そしてシュナウザーさんがその場にうずくまる。
馬車は瘴気から離して止めている。距離があるにも関わらず、二人は体調を崩していた。直接嗅いでしまえば……具合が悪くなるどころじゃないだろう。
『やすこにゃん! こーゆーときこそ、浄化スキルですよ!』
~~~~~~
浄化
→邪悪や汚れ、呪いを取り除き、正常な状態に戻す
~~~~~~
『やすこにゃんの聖なるパワーで、瘴気をぶっとばしちゃいましょう!』
『……浄化は別にぶっ飛ばすスキルではないような……』
貞子さんに注釈を入れられる愛美さん。
『わかってますよぅ。ただノリで言ったまでですわ。さ! やすこにゃん!』
「あいっ」
私は荷台の上に立ち、結界や治癒と同じように手を差し伸べた。
スッ……。
「にゃむ」
「? ましろたん、なんでしゅそれ……?」
気づけば、ましろの顔には——
『サングラスですかね』
『……いつの間に』
『スキルで取り寄せたんでしょうか? でもなんでサングラス……』
ましろだけがサングラスをかけてたたずんでいた。
どういうことだろう……まあ、いいか。
「浄化……!」
そのときだった。
きゅぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい……。
「『『へ……?』』」
聖女たちが目を丸くする。私の手の中の光が、どんどん大きくなっていく。
『ちょーいちょいちょい! なんですかこのすさまじいエネルギー量!』
「や、ちょ!? とめられにゃいでしゅぅううううう!」
光が、ほとばしった。
ビゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
……それは、どこぞの格闘漫画の「なんちゃら波ァアアア!」のようだった。
数々の強敵を葬り去ってきた「波ァ……!」と同じく、私の手からすさまじいエネルギー波が照射される。
白銀の光は大地を照らし、汚れを押し流していく。
「と、とま、とまらにゃぃ~!」
全力でやったのがまずかった。手から出るエネルギー波が止まらない。
……どれくらい時間が経っただろうか。
「『『目がぁ~! 目がぁ~!』』」
ましろ以外の聖女たちが床に転がっていた。きょうれつな光を至近で浴び、完全に目をやられたらしい。
「だ、大丈夫かい、みんな……?」
アメリアさんの声がする。姿は見えない。ああー……。
「だいじょうぶでしゅ……多分……」
「にゃ?」
『【ほらね、あたしの言ったとおりでしょ?】って、ましろ様なにも言ってないですよぉ……』
『……サングラスって、これの対策だったんですね……』
なるほど。ましろめ、分かってたなら先に教えてくれればいいのに……。
「アメリアしゃん……外、どうなってましゅ……?」
目がしばらく使えないので、無事なアメリアさんに聞く。
『そういえば、アメリアたんなんで無事なんですかぁ?』
「ちょうど後ろを向いていたからな。どれどれ……」
あんな超エネルギー波をぶっ放したのだ。森がどうなってるか心配だ。前にも似たようなことがあったよね……。
「瘴気だけが無くなってるな」
「!? 森の木々は?」
「これが不思議なことに、木も地面も変わったところは見られない」
ぼやけた視界で外を見る。……確かに、地面がえぐれてもいないし、木々も吹き飛んでいない。
「どうなってるんでしょうねこれ……?」
『浄化は攻撃スキルじゃあないですからね』
「にゃるほど……だから物理的な被害は出てないってことしゅね」
愛美さんがうなずく(多分)。
『……十分ダメージはありますけどね』
貞子さんが目を細める。たしかに……。
「体の不調がなおりましたわ!」
シュナウザーさんの声。良かった、毒を治せたらしい。
「…………」
「ヨル様? ヨル様ーーーーー!?」
シュナウザーさんが騒ぐ。ヨルがどうしたんだろう。
「…………」ちーん。
「ヨルしゃぁあああああん!」
ヨルは仰向けで泡を吹いて倒れていた。
「にゃうん」
『【馬鹿犬はあの光を直視しちゃったのね】……なるほど。動物は人間より感覚が鋭いですから、被害も大きかったんでしょうね』
そんな……!
「ヨルしゃん、大丈夫でしゅか!」
ゆさゆさと揺さぶる。神獣を殺したなんてシャレにならない……!
「ひゃん?」
しばらくして、ヨルが目を覚ました。何事もなかったかのように、ましろに飛びかかる。
「しゃー!」
『【心配して損したわよ!】ですって。いちおう心配してたんですね』
ましろは自由気ままな子だが、ヒトデナシではない。友達が倒れて、やっぱり心配していたんだろう。
「と、とにかく……浄化、せいこうでしゅね!」
『しかし……普通、浄化の射程範囲は目の前だけですが……』
『……これ、どこまで浄化したんでしょうね。とんでもない範囲を浄化してますよ』
『やすこにゃんには三人分の聖女パワーが入ってるから、出力が通常より凄かったんでしょうね。さすにゃん』




