61.えらいえらい
聖女スキルの重ねがけによって、壊れた橋が元通りになった。
「ヨル様すごい!」「さすが神獣ですなぁ……!」
その場にいた人たちが口々にヨルを褒める。みんながヨルをよしよしする。ヨルはぱたぱたと尻尾を振って嬉しそうだ。
「にゃう……」
『【馬鹿犬……舞い上がりやがって。ヤスコのおかげなのに……】』『いや、それ言ったら騒ぎになるから、身代わりになってもらったんじゃないですか』
「しゃー!」
『【あたしのヤスコが正当に評価されないのはそれはそれでむかつくのよ!!】 って、あっあっ、八つ当たり猫パンチやめてっ……!』
今日もましろのサンドバッグになる愛美さんである。
「ましろたん、愛美しゃんたたきすぎでしゅ。パーになっちゃいましゅ」
「にゃー!」
『【元からパーでしょ?】って、ひどい〜』
そんな風に雑談していると、ちょこちょことシュナウザーさんが近づいてきた。
「助かりましたわ。ありがとうございますわ」
ぺこ、と子犬姿のシュナウザーさんが頭を下げる。
「いえいえ。放っておけなかったので」
視線を感じて振り向くと、さっきの騎士の獣人——バセンジーさんだ。
「殿下。この方たちは……?」
「わたくしや、拉致された獣人たちを助けてくださった、旅の冒険者さま達ですわ」
バセンジーさんは私とアメリアさんを見ている。愛美さんと貞子さんは霊体なので一般人には見えていないため、彼の視界には二人組に見えるのだ。
「そうでしたか。殿下を、そして国民を助けてくださり、ありがとうございます!」
てっきり怪しい者扱いされるかと思ったが、礼を言われて少し驚く。
「バセンジーと申します。以後、お見知りおきを」
「あいっ。コネコでしゅ」
「アメリアだ。よろしく」
バセンジーさんがアメリアさんをじっと見つめる。
「もしかして……かの有名な、姫騎士アメリア様ですか!?」
そう言えばアメリアさんはゲータ・ニィガの王族で、騎士団の出身。隣国にまで名が知れ渡っているようだ。
「見知っていただき光栄だ」
「いえいえ! こちらこそ! ……アメリア様。こちらの少女は?」
当然の問いに、私は短く答える。
「あたしと一緒に冒険者をしている相棒さ」
「あいっ! アメリアしゃんと一緒に冒険者してましゅ!」
聖女であることはできるだけ隠している。だから口ぶりもそれに沿っている。
するとバセンジーさんの表情が急に崩れ、ぽろりと涙をこぼした。
「こんな幼いのに……冒険者をせざるを得ないだなんて……かわいそうに……おお、かわいそうに……!」
どうやら彼の中で、両親を失って冒険者になった子という筋立てが出来上がってしまったらしい。まあ嘘ではない——現実世界で私を待つ者はいないのだ。
「幼いのに冒険者として働くなんて、嬢ちゃんは偉い! 偉いぞ……!」
「あ、ありがとでしゅ……」
「本当に偉い! しかも受け答えもしっかりしてるし!」
自分が幼女の姿であることを忘れそうになる瞬間だ。第三者から見れば、私はとてもしっかりした子に映るのだろう。
「ほ、ほめしゅぎでしゅ……」
少し照れてしまう。中身はOLだしね……。
「ところで……アメリア様たちは、これからどうなさるおつもりで?」
「シュナウザー殿下を城まで送り届けるつもりでした」
私たちのミッションはまだ終わっていない。姫を王城に送り届け、子犬化&拉致事件の犯人を突き止める必要がある。
「逆に、バセンジー殿はこんなところで何を?」
「無論、行方不明の殿下の捜索に専念したいのですが、実は少々厄介な問題を抱えてまして」
「厄介な……問題?」
アメリアさんと私は同時に首をかしげる。
「はい。最近、毒蛙〈ポイズン・フロッグ〉が大量発生しておりまして、その対処に追われているのです」
「毒蛙〈ポイズン・フロッグ〉……?」
魔物だろうと見当はつく。
『瘴気を分泌する超ヤバ毒蛙ですよ。放置すると分泌した毒が気化して瘴気になり、緑地や水を汚染するんです』
さすが全国を巡った古の聖女、愛美さんは物知りだ。
「行方不明者の捜索もしつつ、毒蛙の駆除にも追われ、騎士団はてんやわんやなんです」
陰謀の臭いがする。
『寧子さんも同意見です。おそらく拉致成功率を上げるため、誰かが毒蛙をわざと増やし、国内にばらまいているのでしょう』
国内を混乱させ、その隙に獣人を拉致する——黒幕は巧妙な手を使っているようだ。
そのときヨルがぽてぽて近づいてきた。
「ひゃうん?」
『【ごはん? まだ?】だそうです』
違うから……。ましろといい、神獣たちはマイペースすぎる。
『で、どうします?』
毒蛙の件は放置できない。瘴気が広がったら被害が拡大する。
「毒蛙〈ポイズン・フロッグ〉、どうにかしましょう」
こっちには聖女が三人いるのだ。毒の浄化は難しくない。
サクッと浄化してサクッと王城へ向かおう。
「ありがとうございますわ……何度も国を助けてくださり、感謝の言葉が尽きませんわ……」
「いいでしゅよ。乗りかかった船でしゅ!」
寄り道は多すぎるが、浄化で解決できる問題が目の前にあるなら、放っておけない。ましろも不機嫌そうに横を向いているが、我々は動く。
「よし、橋を渡って、毒蛙をぶっ倒しましょう!」




