表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/89

60.橋を直す


 壊れた橋を、みんなで協力して直すことにした。


「皆さん、聞いてください……!」


 シュナウザーさんが、その場にいた人たちに向かって言う。


「な、なんだぁ……?」

「お、おい……なんか、犬が喋ってるぞ……!?」

「まじかよぉ!?」


 事情を知らない人たちからすれば、シュナウザーさん(犬)が喋っていることに驚き、戸惑うのは当然だ。


「わたくしはネログーマ王の娘、シュナウザーですわ!」


 みんな困惑している。犬が喋る上に自称王女だと言うのだから、信じる方がむしろおかしい。


「わたくしが王族であることは……この方が証明してくれます! ですよね、ヨル様!」


「ひゃんっ!」


 ぽてぽてとヨルがシュナウザーさんに近づく。


「なんだ、子犬がもう一匹現れたぞ……?」

「犬が増えたところで何だっていうんだ……?」


 誰もが困惑している中、一人の獣人がこちらに近付いてきた。鎧を着た騎士だ。


「失礼します! 私はネログーマ城に仕える騎士の一人、バセンジーです。確かに見覚えがあります……間違いない。この子犬は国を守る神聖なる獣、神獣フェンリル様そのお方です!」


 ざわ……と周囲がざわつく。騎士がそう言ったことで、発言に少し説得力が生まれたようだ。


「まじかよ」「フェンリル……?」「あんな子犬が……?」


 騎士はヨルの前に跪く。


「貴方様は、フェンリル様でございますな?」


「ひゃんっ!」


 ヨルが小さくうなずくと、信用する者の割合は増えていった。


「人間の言葉がわかってる!」「いや、そんな犬はいないだろ」「いるわけねえだろ、馬鹿かよ」


 ヨルを神獣だと信じる者もいれば否定する者もいる。やがて獣人騎士・バセンジーはシュナウザーさんの前に跪いた。


「フェンリルをお連れになっている……。貴方様はシュナウザー殿下でいらっしゃいますか?」

「はいですわ。わたくしは貴方を城で拝見したことがございます。たしか……バセンジーさんでしたわね」


 バセンジーが小さく頷く。


「騎士の名前を知っていたぞ、あの犬……」「いや、名前くらい知ってるだろ」「つまり神獣を連れ、喋り、しかも王国騎士の名を知るなんて」


 周囲の人たちは、シュナウザーさんを王女だと信じ始めた。


「おお! シュナウザー殿下! よくぞ……ご無事で!」


 バセンジーは感激して涙を流している。拉致されていた姫が見つかったのだ。騎士として嬉しいのだろう。


「バセンジー、今は泣いている暇はありません。わたくしは一刻も早く王城へ戻らねばなりません」


 王城では獣人を犬に変え国外に売り払う悪事が行われている。シュナウザーさんはその陰謀を止めようとしているのだが、その事情はとりあえずここでは省く。


「しかし姫、橋が壊れております」

「そこで……ヨル様の出番です!」


 ヨルが「ひゃんひゃーん!」と自分の尻尾を追いかけ回している。無論、ヨルに橋を直す力はない。


「神獣ヨル様は、そのお力で橋を直してくださるそうです」

「おお! それはありがたい! ヨル様、お願いします!」


 ヨルは後ろ足で耳をかくしぐさをしている。了承したようには見えないが、シュナウザーさんは押し通すつもりらしい。


 シュナウザーさんとバセンジーがてくてくと橋に近づくと、ギャラリーの反応はこうだ。


「まじか、神獣が橋を直すらしいぜ」「できるのかそんなこと……?」「まあ気になるし、見てみるか」


 狙い通りだ。名付けて『聖女の力がばれないように、神の仕業にしちゃおう』作戦である。


 みんながヨルに注目しているその間に、聖女である私が力を使う。


『準備オッケー! ばっちこーい!』

 愛美さんが霊体で中空に浮かぶ。


「いきましゅ、結界!」


 まず私が結界を張る。壊れた橋の部分を覆うように。


『引き継ぐよーん!!』

 私から結界の主導権を愛美さんに渡す。彼女に結界を維持してもらう。


 ここから私は別のことをしなければならない。


「【結界】+【治癒】」


 私は二つの聖女スキルを同時に発動させる。


「おお! なんか橋が光り出したぞ!?」「神獣の力か……!?」


 周囲はヨルが橋を直していると思っているが、実際に頑張っているのは私たちだ。念のため、外から見えないように貞子さんにも結界を張ってもらっている。


 私の結界と治癒が作用すると、空間内にある壊れた橋が——。


「み、見ろ! 橋がぁ……!」「元に戻っていくぞぉ!?」

 

 まるで時間を巻き戻すかのように、壊れた部分が修復されていく。結界はやがて砕け散るが、中の橋は元の状態のままだ。


「うそおお!?」「橋が治った!」「うぉおお! 神獣すげえぇー!」


 沸き立つギャラリー。私はその場にぺたんと尻餅をつきそうになったが、アメリアさんがすぐに抱きかかえてくれた。


「お見事だ、コネコちゃん」

「ぜえ……はあ……どーもぉ~……」


 上手くいってよかった。


「しかし、どういう理屈だったんだい? 結界と治癒を組み合わせたようだけど」


 治癒は本来、細胞を活性化させ壊れた細胞を元通りにするスキルだ。つまり非生物には効かないはずだ。


「結界で作った空間を、治癒したんですわ」

「空間の……治癒?」


「あい。治癒は生物に効く。それをそのまま非生物に適用するのは難しい。だが結界で作った“空間”には適用できるかもしれない、と考えたんです」

「……つまり、橋そのものを直したのではなく、橋を覆う結界の内部の空間を、壊れる前の状態に戻した、ということですね」

「あい。できるかどうか微妙でした」


 だいぶ屁理屈だが、治癒が非生物に効かないなら“空間”ならどうか——という発想は理にかなっていた。結果はご覧の通りだ。


「すごいぞ、コネコちゃん。壊れたものを瞬時に直すなんて、まさに神の奇跡じゃあないか……! 神獣の力を借りなくても、奇跡を起こすなんて!」


 いつの間にか、ましろが私のおなかの上に現れていた。ふふんと鼻を鳴らす。


『【すごいでしょ? うちのヤスコは】って、今回はましろ様何もしてないのに、なんでそんな得意げなんですか』

「しゃー!」


 ましろは飛び降りると、アメリアさんを追いかけ回し始める。


『ひー! おたしゅけー!』


 こうして、壊れた橋は直った。私が力を使ったことはヨルの“神業”に見せかけられ、事態は無事に収まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ