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【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


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58.ばか王子Side



《バカデカントSide》


 寧子たちがネログーマへ向かっている一方で――寧子を召喚した、ゲータ・ニィガの王子バカデカントは、自室で頭を抱えていた。


「くそっ! どうなっている……!」


 その隣には、彼の教育係である老人が立っている。


「爺……! なぜだ!? なぜ……聖女が召喚できないのだ……!」


 ――事情はこうだ。バカデカントは寧子を現実世界から召喚した。しかし、呼び出した聖女と次期国王は結婚するという取り決めがあり、召喚した聖女が幼女だったために「居なかったもの」として追放処分にしたのだ。


 その後、バカデカントは次の聖女を召喚すべく各地へ向かった。聖女召喚は神有地しゆうちと呼ばれる特別な地点で行われる。彼らは奈落のアビス・ウッドを出て、次の神有地へ向かったが――召喚は失敗に終わった。


「なぜだ!? なぜ……聖女が出てこないのだぁ……!?」


「手順は間違っていなかったよな?」


「はい……」


「ではなぜ、あの幼女以降、聖女が呼び出されて来ないのだ……!」


 人外魔境スタンピード、蒼銀竜山、国内に所持する神有地――三箇所で試みたにもかかわらず、二度の召喚はことごとく失敗した。


「おかしいではないか……! くそ! くそくそっ!」


「殿下……。落ち着きなされ」


「これが落ち着いてられるか!? 見ろ!」


 彼の執務机の上には書類が山積みになっていた。老人はその中の一枚を手に取る。


「瘴気による被害が……拡大している……!」


 瘴気──人体に有害な毒ガスだ。それを浄化できるのは、聖女スキルを持つ、異世界から呼び出された聖女だけである。


「瘴気量の増加に伴い、国民たちの苦情が殺到している。早く何とかしろと……くそっ! 俺だって早く何とかしたいさ! だが……くそっ! 聖女が呼び出せないばかりに!」


 老人は小さくため息をついた。


「城内では、殿下を非難する声も多く聞こえますな……」


「くそっ! 何も知らない愚か者どもめ! なにが『召喚主である俺に問題がある』だ! くそ!!」


 すでに、奈落の森での聖女召喚は知られていた。あのときは、召喚の事故で聖女が死亡したことに偽装してごまかしたが、その後の二度の失敗は隠し切れなかった。最初の事故とは違い、明確に二度の失敗が起きているのだ。


「おれが、悪いのか!? ……いいや、俺は悪くない……! 俺は! 悪くない……! そうだな爺!?」


 老人は困った表情になる。


「なんだその顔は!? 俺が悪いというのか?」


「……正直に申し上げますと、はい」


「なんだと!? 何がいけないのだ!?」


 老人は懐から古い本を取り出し、バカデカントに差し出した。


「イノリの書……?」


「かつて存在した聖女神キリエライト様が綴った、聖女に関する書物でございます」


 その書によれば、聖女を敬い大切にした者は恩恵を受け繁栄する。しかし、聖女に酷い目に遭わせた者には必ず災いが降り注ぐという。


「なん……だと……?」


「この書に書かれていることが事実なら……あの幼い聖女に酷いことをした報いを、われわれが受けているのではないか、と。でなければ聖女召喚が失敗するはずもありません」


「グッ……! くそ!」


 バカデカントは書を地面に放り投げる。


「俺は悪くねえ……! こんな書なんてデタラメだ……!」


「では、現状をどうご説明になりますか?」


 ――答えは、バカデカントにはなかった。


 そのとき、ノックの音がした。


「なんだ!?」


 王城の部下の一人が入ってくる。追い詰められた王子の恐ろしい表情を見て、彼はおびえた。


「早く言え!」


「あ、いえ……。王城内の下水管が詰まってしまいまして、なんとかしてほしいと……」


「そんなの暇な奴がなんとか――それだぁ……!」


 天啓を得たかのように、バカデカントがにやりと笑う。


「それだ、爺!」


「どうしたのですか、殿下……?」


「古い聖女がいるから、新しい聖女が来ないのだ! なんでこんな単純なことに気付かなかったんだっ! くそっ!」


 ――下水が詰まっていたら新しい水は流れない。詰まりを解消すれば新たに水が流れてくる。バカデカントはそんな比喩で考えたのだ。


「あの幼い聖女を殺せば、新しい聖女がこの世に召喚できるようになる! きっとそうだ……!」


 自分で閃いたからこそ、それは絶対の正解だと確信している。


「お、おやめなさい……殿下……。イノリの書に記されたことをお忘れですか? 聖女に酷いことをすれば、災いが返ってきます。殺意を向けるだけで報いは来ます。ましてや殺せば国が滅ぶような大事件が起きる可能性だってあります……」


「黙れ、爺……!」


 バカデカントは鼻を鳴らす。


「そんなかび臭い迷信を信じるのは愚者のすることだ……!」


「いや、迷信ではなく、事実として今この世界には、あの幼い聖女を追い出した報いが――」


「うるさい……!」


 バカデカントは老人を殴り飛ばした。


「おい! 今すぐ人を集めろ!」


 部下を命じるバカデカントに、部下は戸惑いながら問い返す。


「い、一体何をするのですか……?」


「聖女狩りだ……! あの幼い聖女を見つけ出し、処刑するのだ……!」


 そう高らかに宣言した瞬間――。


 ドガァアアアアアアアアアン!


「な、なんだあ……!?」


 どこかで爆発音がした。城がぐらりと揺れる。


「大変です! 下水管が破裂しました……! 城中水浸しです!」


「なんだとぉ……!?」


 額に冷たい汗が伝う。聖女を殺せと宣言した途端にこの大事故だ。宣言しただけで、実行していないのに――。


 もし実行でもしていたら……。


「い、いや! ありえない! そんな迷信信じない……!」


「で、でも……」


「いいからさっさと人を集めろ……! これは、俺の、次期国王の命令だぁ……!」


 バカデカントは叫び、命令を繰り返した。


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★新連載です★



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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

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