56.強くなる獣人
全ステータス向上……? む、無敵……?
「どうなってんでしゅかこれ……?」
鑑定結果を愛美さんたちにも共有する。ぎょっと目を見開く愛美さんたち。するとアメリアさんが言った。
「あたしのときと同じではないか?」
「あ……」
そういえば、前にアメリアさんが私の料理を食べて、めちゃくちゃバフがかかったことがあったような。
「で、でも……今回作ったのは、わたしじゃなくてアメリアしゃんでしゅ……?」
『あ、でもやすこにゃん、最後に浄化かけてましたよ?』
た、たしかに……!
『……寧子さんが浄化をかける際に、聖女の魔力が料理に付与された。それを食べたことで、皆さんにも聖なる力が宿ったと……』
結果、怪我は治り、元気にもなったと……。
「治癒スキル使ってないんでしゅけどね……」
かけたのは浄化だ。怪我がどうして治癒されたのか……。
『治癒、浄化、結界……。その三つは元々一つの【聖女スキル】ですからねぇ。それぞれ独立してるけど、根っこの部分は同じなんじゃないですか?』
「にゃるほど……」
浄化や結界にも治癒の力が混じってるかもしれない──元々同じものだから、ということらしい。
「あ、あのぉ〜」
シュナウザーさんがこちらに近づいてくる。
「元気になったのはいいんですけど……その、話を聞いてると、コネコさん……浄化スキルを使ったって言ってませんでした?」
…………あ!
しまった! 私は調教師ってことになっていたんだった! 浄化は聖女スキルの一つ。この世界の人なら、それは誰でも知ってることだ。……シュナウザーさんでも!
聖女スキルは聖女にしか扱えない代物。それはすなわち……。
「ば、ばれちゃった……」
私、黒姫寧子が聖女だってことが……!
「あのしょの、えっと……」
ど、どうしよう……。どう言い訳しよう……。
「大丈夫です、コネコ様」
「ふぇ……? 大丈夫ってぇ?」
シュナウザーさんはこくんとうなずいた。
「素性を隠していたのは、何か理由があるのでしょう?」
「! しょ、しょうでしゅ……!」
聖女召喚で私を呼び出した馬鹿王子に見つからないよう、私は素性を隠して旅をしているのだ。
「深くは追求いたしませんわ」
「た、たしゅかりましゅっ!」
よかったぁ〜……。でも、なんで追求してこないんだろう。普通気にならない……?
『助けてもらってる立場だからじゃあないですかねー。それで聞くのは失礼ちゃう? みたいなー』
なるほど……。それと、シュナウザーさんの人柄もあるのかも。いい人っぽいし。
「ステータス向上の件は、伏せておいたほうが無難ですわ」
とシュナウザーさんがこそっと言う。みんなはその間、カレーを食べて「うまいー!」「うまーい!」と喜んでいる。
「殿下……! このカレーすっごい美味いです!」
と、子犬獣人さんのひとりがシュナウザーさんに言う。
「それは良かったです。冒険者であるコネコさんたちに感謝しましょう」
聖女とばれないように、シュナウザーさんがあえて冒険者であることを強調してくれた。ほ、本当にいい人……!
「ふにゃう」
『【くぁー……おなかいっぱ〜い】いやほんと、ましろ様……。こちらがてんやわんやしてるのに、相変わらずのマイペースですね』
「ふなー?」
『【なに、ディスってるの? 食らう?】 いえいえ! 猫パンチはまじで勘弁っす! はいぃい!』
結構たくさんカレーを作ったはずだったんだけど、あっという間に鍋は空っぽになってしまった。
それどころか……。
「おなかすいたぁ」「なんだか物足りないよな……」という人が出てくる始末。
ご飯が食べられるくらいに元気になったのはいいことだ。
「もーちょっと、作りましょうか?」
「そうしようか、コネコちゃん」
アメリアさんと意見が一致する。おなかを空かせた獣人たちを放置なんてできないもの。
「くぁ……」
『【ねー、まだ出発しないのー?】いや、ほら獣人さんたちにご飯を作るって流れなんで』
「ふにゃ」
『【そいつらに優しくして何かメリットあるわけ? 時間の無駄じゃあない】いやまあ、ましろ様の言いたいことはわかりますけど、困ってる人放置するのは寝覚め悪くないです?』
「にゃむ……」
『【知らん】ええー……』
まあ、ましろからすれば私たちのやってることは無駄に見えるのかも。そりゃそうだ。彼の興味は私にしか向いていない訳だし。
「ましろたん、もうちょっと待っててくだしゃいね」
「にゃふん」
ましろがこくんとうなずく。そして目を閉じた。待っててくれるらしい。ごめんね、と私はましろの背中を撫でる。
「それじゃ、また花鹿とりにいきましゅ?」
そのときだった。
ガササッ……!
「! 花鹿でしゅ!?」
「エサのにおいを嗅ぎつけてきたか……! しかも……くっ! 数が多い!」
複数体の花鹿が私たちを囲っていた。私はすぐに結界を展開しようとして……。
「殿下を守れー!」「うぉー!」「狩りじゃあ……!」
「「へ……?」」
獣人さんたちが、花鹿に果敢に飛びかかったのだ……!
「駄目だ! 花鹿は獰猛な獣なのだ! 君たち一般人では……」
アメリアさんが止める前に……。
がぶりっ!
ドサッ……!
「「は……?」」
獣人さんの一人が、花鹿の首筋を噛みちぎったのだ……! えええええええ!?
花鹿はどさりと倒れてしまう。え、え、えー!? 一撃?!
「ば、馬鹿な……ベテラン冒険者でも手こずるような相手を……一撃で……?」
「うぉー! 殿下を守れー!」「ぶっとばせー!」「てめこのやろぶっころぉおおおす!」
獣人さんたちが次々と花鹿に襲いかかる……。絵面としてはオオカミ複数が鹿に襲いかかっている感じだ。……まあ、オオカミっていうか子犬なんだけど。
てか、みんな……強くないっ?
『獣人は人間よりパワーがありますけど……さすがに強くなりすぎですねぇ』
『……寧子さんの力でしょうね』
あ、ステータス向上されてるんだっけ、今……。なるほど。元々のパワーに聖女のバフが加わった結果、花鹿を一撃で倒せるくらい強くなったのか。
「恐るべし……聖女様のバフですわ……!」
「いや、あの……はい……」
恐ろしいのは獣人さんたちの意外な好戦性だと思うんですけどね……。あんなラブリーな見た目でデカい鹿に襲いかかってるところを見ると、ちょっと怖いんですけど……。




