55.聖女カレー
アメリアさんが料理を完成させた。
『ふぃ~。ちゅかれた~』
霊体状態の愛美さんが、汗を拭いながら言う。……霊体って汗かくんだろうか。
「愛美しゃん、貞子しゃん、治療お疲れしゃまでしゅ」
二人は霊体状態で治癒スキルを使い、怪我している獣人たちを治してくれていたのだ。
『……重傷者を優先的に治しましたので、まだ軽傷者の治療は終わってないです』
『つっても、応急処置は済ませてるんで、まあ今は大丈夫かなぁって』
なるほど……。よく見ると、たしかにさっきよりも大勢の子犬たちがそこにいた。
『アジトにめがっさ閉じ込められてましたよー。これは大規模な拉致事件ですな』
ましろがフフンと鼻を鳴らしている。どうやら私がいない間に檻を壊してくれていたらしい。ちゃんと仕事はしてくれる猫ちゃんである。偉い偉い。
「とりあえず、おなかしゅいてるでしょうし、ご飯にしましょう」
みんな目に見えてガリガリだった。
「お願いします。話を聞いたところ、みな何日もまともに食事にありつけてないようですし」
やっぱり食事が最優先だ。私たちは手分けしてカレーを器に分けていく。
『ふと思ったんですが、子犬になった獣人にタマネギって大丈夫なんでしょうかね?』
『……そういえばタマネギ中毒とか、あるみたいですね』
人間は食べられても動物が食べられないものはある。だから……。
「大丈夫でしゅ! えいっ、【浄化】!」
アメリアさんが作ったカレーに、私が浄化スキルをかける。
手のひらから出た光が粒子となって、鍋に降りかかった。
「これで……中毒物質を浄化しましたでしゅ!」
『いやそれ大丈夫なんですか……?』
「鑑定!」
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・聖女カレー
→誰でも美味しく食べられるカレー。
栄養満点。聖なる力も満点。
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誰でも美味しく食べられるとあるので、大丈夫……だと思う。
『って、ああ! ヨル様が顔を鍋につっこんでます!?』
ヨルがペロペロとカレーを舐めている。アメリアさんが慌てて抱きかかえた。
ぺロリ、とヨルが自分の口の周りを舌で舐める。鑑定では食べられることが保証されているが、味はどうだろうか……。
「どうでしゅか?」
「う~~~~~~~……」
「う?」
「ひゃぁあああああああん!」
ヨルが両腕を上げて吠える。ぶんぶんぶん! と短い尻尾が残像を作る勢いで揺れていた。
『【おいC】だそうです』
体調も問題なさそうだ。フェンリルでOKなら他の獣人さんたちも食べられるだろう。
「ふにゃー! しゃー!」
『【ちょ、あたしにも食べさせなさいよ! はやくー!】だそうで……。ましろ様、まずはおなか空かせてる獣人たちが優先ですよ』
「しゃー!」
『【仕方ないわね! サンドバッグ殴って空腹を紛らわせるわ】って、もしかしてそのサンドバッグって……あっあっあっ、聖女! あたしは聖女なんですよ!』
「うにゃー!」
ましろはサンドバッグ愛美さんとじゃれていた。愛美さんは霊体で実体がなく、カレーを小分けする手伝いができない。だから、ましろの相手をしてもらうしかない。お願いします。
私はアメリアさんと一緒にカレーを器に分ける。シュナウザーさんと貞子さんは列の整理をしていた。
「はい、どーじょでしゅ!」
カレーを注いで獣人さんの前に差し出す。
「な、なんですかこれは……一体……かいだことない香り……」
獣人さんは未知なる食べ物に躊躇している。無理もない。こんな茶色い液体の食べ物は異世界にはないだろう。
するとシュナウザーさんが前に出る。
「わたくしが先に食べますわ!」
「! わかりましゅた」
毒味役を買って出たようだ。毒はないんだけど。
「王女殿下……大丈夫かしら……」
「あんなの食べられるの……?」
王女の動向を、獣人さんたちが見守っている。その中でシュナウザーさんがぺろり、とカレーを舐めた。
「う……!」
「「「う?」」」
「美味いですわぁ……!」
ぶんぶんぶん! とさっきのヨルと同じように尻尾を振る。
「こんな美味しいもの初めてですわ!」
がつがつと夢中で食べ進める。
「殿下、なんともなさそうだ……」
「殿下に毒味なんてさせてしまい、恥ずかしいわ……」
「お、おれも食うぞ!」
他の獣人さんたちも食事を口にする。
「んほー! うまい!」
「なんだこれはっ!」
「スパイスがきいててちょーおいしいー!」
長い監禁生活で疲弊していたはずなのに、一口食べると暗く沈んだ表情に光が差した。
みんな美味しそうに、がつがつとカレーを食べている。お口に合ったようでよかった。
「なんだか身体が軽くなった気ぃするな」
「ああ、さっきまで凄いだるかったのに!」
「ぅおおおお! みなぎってきたぁああああああああ!」
……あれ? 食べ終わった獣人さんたちが遠吠えしている……?
さっきまでボロボロだったのに、今は毛並みがつやつやで、痩せ細っていた体も元通りになっている……!
それだけではない。
「身体の痛みが消えた!?」
「すんげえ……! まったく痛くねえよ!」
「見て、さっきまで足がいたかったのに、ほら……!」
子供らしき獣人が、ぐるぐると元気に走り回っている。あ、あれ……?
いくら食事をしたからといって、さすがにここまで元気になるのはおかしいのでは……。
「か、鑑定!」
シュナウザーさんを鑑定してみる。
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シュナウザー・ネログーマ
【状態】
全ステータス向上、無敵(一時的)
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……はいぃ?




