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【書籍化】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする【2巻12/10発売!】  作者: 茨木野


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53.肉を取れ



 シュナウザーさんが……王女様?


「しゅ、シュナウザーしゃん……いや、しゃま……」


 王族を相手に、さんづけはよくないと思って、言い直す。


 するとシュナウザーさんがこちらを振り返って、首を横に振った。


「様は、必要ないですわ、コネコさん」


「いやでも……しゃしゅがに不敬では……」


「よいのです。今までさんづけだったので、そのままで呼んでくださいまし」


 う、うーん……。まあここまで言ってるのに、NOというのは、逆に不敬……かな。


「わ、わかりました……シュナウザーしゃん」


 にこっ、とシュナウザーさんが微笑む。

 でも王族か。そんな高貴な人だっただなんて。


『でもなんで、素性を隠してたんですかね?』


 と愛美さんが、至極当然な疑問を口にする。


 答えたのは、アメリアさんだった。


「王族であることはリスクがあるからな。自分だけでなく、相手にも迷惑をかける危険もある」


 なるほど……。だから黙っていたのか。


 シュナウザーさんが素性を明かしたことで、その場にいた獣人たち(子犬姿)が、安堵の息をつく。


「シュナウザー様だ……」

「そのお仲間たちってことは、味方だ」

「よかった……」


 ぱたんっ、と倒れる子犬たちもいた。

 私は急いで、彼らに近付く。鑑定スキルを発動。


~~~~~~

獣人たちの状態

→主に衰弱状態

~~~~~~


 衰弱……。なるほど、檻に閉じ込められ、水や食事を与えられていなかったのか。

 その間に、死んだらどうするつもりだったんだろう……。


 死んだら捨ててく、みたいな考えだったんだろうか……。

 ほんとに命が軽い世界だ。いかに元いた世界が、人に優しいとこだったかが、改めて思い知らされる。


 何はともあれ、おなかが空いてるようだ。

 この人たちはほっとけないし、できれば元いた場所へ返してあげたい。

 でも、まずは食事……!


「アメリアしゃん、炊き出しのお手伝い、お願いしてもいいでしゅか?」


「無論だ。むしろ、あたしから提案しようとしていたところだ。ありがとう、先に言ってくれて」


 元王族だからか、アメリアさんも、この事態は看過できなかったらしい。

 本当にいい人だ。


 魔神の鞄から、食材を、ぽいぽい、と取り出す。

 この量を私一人の力で斬るのは骨が折れる。となれば……。


「ましろたん」


「にゃ?」


 このやりとりを、ずっと傍観していた(なんだったら船こいでいた)ましろが、小首をかしげてきた。


「食材きってくれましぇんか?」


「にゃー……?」


 愛美さんが翻訳せずとも、わかる。やりたくなさそうだ。

 ほんとにこの子は、自分のこと、そして私のこと以外、どうでもいいと思ってるようである。

 ある意味猫らしく、そして、神らしい振る舞いといえる。


「ましろたんの分のご飯でもあるんでしゅ。手伝ってほしいなぁ~」


「ふなーお」


『【しょうがないわね~。やすこがお願いされたら、断れないわ~】』


 てとてと、とましろが歩いて、こちらへと近付いてくる。


 てし、とましろが地面を手でたたく。


 すぱぁん……!


 野菜の皮はむけ、さらに一口サイズに、野菜が切られてる。

 すごい……てし、でここまでできちゃうなんて。


「ましろたんは、やっぱしゅごいでしゅね!」


「ふにゃう」


 ましろが得意げに胸を張っている。

 やっぱりこの子の力は凄すぎる……。


 一方で、愛美さんがぼそっとつぶやく。


『猫が触れた食材って、衛生的に問題あるんじゃ……毛とか入ってそう』


 するとましろがぴょんっ、と愛美さんの頭に乗って(霊体なのにどうして……?)、てしてしてし! と猫パンチ連打する。


『あっ、あっ、あっ、痛いですぅ~!』


「しゃー!」


『そうですよね! 【猫じゃない、神だ……!】ですよね!

 神様は抜け毛なんてしないですもんね……!』


 アイドルはトイレなんてしないみたいな理論だった……。

 まあ、火も通すし、ましろって抜け毛がないから、気にしなかったんだけど。


 ほどなくして、食材は切り終えた。


「あとは、適当なお肉があればいいでしゅね」


 鍋料理を作ろうとしてるのだ。野菜だけでは物足りない。

 やっぱりお肉が必要だ。

 しかし……お肉。こんな森の中にあるだろうか。


『……近くに、花鹿フラワーホーン・ディアが居ますね』


 と、貞子さだこさんがそう言ってきた。


花鹿フラワーホーン・ディア……でしゅか?」


『ええ。鹿の魔物です』


「にゃるほど……でも、よくわかりましたね?」


『……調教師テイマーの技能です。小鳥をテイムして、周囲を見晴らせてました』


 すごい……。


「でも、いいんでしゅ? 貞子しゃんにとって、魔物は友達じゃ……?」


 すると貞子さんは小首をかしげる。


『わたくしの友達は、寧子やすこさんたちだけですよ?』


「しょ、しょうでしゅか……」


 なんだろう、ちょっと怖い……。


 まあでも、魔物がいるのがわかった。これでお肉は問題ないだろう。


「獲りにいきましょう」


「ああ。ついていくよ、コネコ姫」


 ひょいっ、とアメリアさんが私を抱っこする。

 姫だなんて……。


『中身アラサーなのにねー』


 ……はい、そんな年じゃあないですね。はい。


 アメリアさんが私を抱っこした状態で、貞子さだこさんの指定した場所へと向かう。


 花鹿フラワーホーン・ディアを、発見した。


 緑色の毛皮。側頭部からは、木の枝のような角が生えており、その先端部には花が咲いている。


「以前戦ったことがある。あれは、かなり獰猛な魔物だ」


 アメリアさんが声のトーンを落とし、遠くの敵を見据えながら言う。

 少し険しい表情をしていた。前に、相対したとき、怪我でもしたのだろう。


「さて、どうしようか」


「わたしにおまかしぇです」


 ばっ、と私は茂みから出る。


「こっちでーしゅ!」


「コネコちゃん!? そんなことしたら、魔物がこちらへ突っ込んでくるぞ!」


 想定の範囲内だ。狙い通り、敵はこちらへと駆けてくる。

 しかも、ものすごい勢いだ。

 スピードが乗った状態で、ツノをこちらに、まるで槍のように突き立ててくる。


 ばきぃん!

 ぐしゃあ……!


「!? いきなり……花鹿フラワーホーン・ディアの頭部が砕け散った!?」


「はい、結界をはっておいたんでしゅ。敵は結界に向かって突っ込んできた。反動で、頭が木っ端みじんになったんでしゅ」


 こちらから近付いたのであれば、反撃を食らっていたかもしれない。

 だから、罠を張って待ったのだ。


「なるほど……さすがコネコちゃん」


「えへへ♡」


「でもそういう作戦があるなら、前もって共有してほしかったな。怖かったよ、君が傷ついてしまうんじゃあないかと」


「ご、ごめんなしゃい……」


 自分の結界があれば大丈夫という、確固たる自信があったから、この作戦を実行した。

 でも、アメリアさんを心配させるかもってことは、考えてなかったな。


「うん、謝ったならそれでいい。さ、解体して戻ろうか」


「あいっ!」

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