53.肉を取れ
シュナウザーさんが……王女様?
「しゅ、シュナウザーしゃん……いや、しゃま……」
王族を相手に、さんづけはよくないと思って、言い直す。
するとシュナウザーさんがこちらを振り返って、首を横に振った。
「様は、必要ないですわ、コネコさん」
「いやでも……しゃしゅがに不敬では……」
「よいのです。今までさんづけだったので、そのままで呼んでくださいまし」
う、うーん……。まあここまで言ってるのに、NOというのは、逆に不敬……かな。
「わ、わかりました……シュナウザーしゃん」
にこっ、とシュナウザーさんが微笑む。
でも王族か。そんな高貴な人だっただなんて。
『でもなんで、素性を隠してたんですかね?』
と愛美さんが、至極当然な疑問を口にする。
答えたのは、アメリアさんだった。
「王族であることはリスクがあるからな。自分だけでなく、相手にも迷惑をかける危険もある」
なるほど……。だから黙っていたのか。
シュナウザーさんが素性を明かしたことで、その場にいた獣人たち(子犬姿)が、安堵の息をつく。
「シュナウザー様だ……」
「そのお仲間たちってことは、味方だ」
「よかった……」
ぱたんっ、と倒れる子犬たちもいた。
私は急いで、彼らに近付く。鑑定スキルを発動。
~~~~~~
獣人たちの状態
→主に衰弱状態
~~~~~~
衰弱……。なるほど、檻に閉じ込められ、水や食事を与えられていなかったのか。
その間に、死んだらどうするつもりだったんだろう……。
死んだら捨ててく、みたいな考えだったんだろうか……。
ほんとに命が軽い世界だ。いかに元いた世界が、人に優しいとこだったかが、改めて思い知らされる。
何はともあれ、おなかが空いてるようだ。
この人たちはほっとけないし、できれば元いた場所へ返してあげたい。
でも、まずは食事……!
「アメリアしゃん、炊き出しのお手伝い、お願いしてもいいでしゅか?」
「無論だ。むしろ、あたしから提案しようとしていたところだ。ありがとう、先に言ってくれて」
元王族だからか、アメリアさんも、この事態は看過できなかったらしい。
本当にいい人だ。
魔神の鞄から、食材を、ぽいぽい、と取り出す。
この量を私一人の力で斬るのは骨が折れる。となれば……。
「ましろたん」
「にゃ?」
このやりとりを、ずっと傍観していた(なんだったら船こいでいた)ましろが、小首をかしげてきた。
「食材きってくれましぇんか?」
「にゃー……?」
愛美さんが翻訳せずとも、わかる。やりたくなさそうだ。
ほんとにこの子は、自分のこと、そして私のこと以外、どうでもいいと思ってるようである。
ある意味猫らしく、そして、神らしい振る舞いといえる。
「ましろたんの分のご飯でもあるんでしゅ。手伝ってほしいなぁ~」
「ふなーお」
『【しょうがないわね~。やすこがお願いされたら、断れないわ~】』
てとてと、とましろが歩いて、こちらへと近付いてくる。
てし、とましろが地面を手でたたく。
すぱぁん……!
野菜の皮はむけ、さらに一口サイズに、野菜が切られてる。
すごい……てし、でここまでできちゃうなんて。
「ましろたんは、やっぱしゅごいでしゅね!」
「ふにゃう」
ましろが得意げに胸を張っている。
やっぱりこの子の力は凄すぎる……。
一方で、愛美さんがぼそっとつぶやく。
『猫が触れた食材って、衛生的に問題あるんじゃ……毛とか入ってそう』
するとましろがぴょんっ、と愛美さんの頭に乗って(霊体なのにどうして……?)、てしてしてし! と猫パンチ連打する。
『あっ、あっ、あっ、痛いですぅ~!』
「しゃー!」
『そうですよね! 【猫じゃない、神だ……!】ですよね!
神様は抜け毛なんてしないですもんね……!』
アイドルはトイレなんてしないみたいな理論だった……。
まあ、火も通すし、ましろって抜け毛がないから、気にしなかったんだけど。
ほどなくして、食材は切り終えた。
「あとは、適当なお肉があればいいでしゅね」
鍋料理を作ろうとしてるのだ。野菜だけでは物足りない。
やっぱりお肉が必要だ。
しかし……お肉。こんな森の中にあるだろうか。
『……近くに、花鹿が居ますね』
と、貞子さんがそう言ってきた。
「花鹿……でしゅか?」
『ええ。鹿の魔物です』
「にゃるほど……でも、よくわかりましたね?」
『……調教師の技能です。小鳥をテイムして、周囲を見晴らせてました』
すごい……。
「でも、いいんでしゅ? 貞子しゃんにとって、魔物は友達じゃ……?」
すると貞子さんは小首をかしげる。
『わたくしの友達は、寧子さんたちだけですよ?』
「しょ、しょうでしゅか……」
なんだろう、ちょっと怖い……。
まあでも、魔物がいるのがわかった。これでお肉は問題ないだろう。
「獲りにいきましょう」
「ああ。ついていくよ、コネコ姫」
ひょいっ、とアメリアさんが私を抱っこする。
姫だなんて……。
『中身アラサーなのにねー』
……はい、そんな年じゃあないですね。はい。
アメリアさんが私を抱っこした状態で、貞子さんの指定した場所へと向かう。
花鹿を、発見した。
緑色の毛皮。側頭部からは、木の枝のような角が生えており、その先端部には花が咲いている。
「以前戦ったことがある。あれは、かなり獰猛な魔物だ」
アメリアさんが声のトーンを落とし、遠くの敵を見据えながら言う。
少し険しい表情をしていた。前に、相対したとき、怪我でもしたのだろう。
「さて、どうしようか」
「わたしにおまかしぇです」
ばっ、と私は茂みから出る。
「こっちでーしゅ!」
「コネコちゃん!? そんなことしたら、魔物がこちらへ突っ込んでくるぞ!」
想定の範囲内だ。狙い通り、敵はこちらへと駆けてくる。
しかも、ものすごい勢いだ。
スピードが乗った状態で、ツノをこちらに、まるで槍のように突き立ててくる。
ばきぃん!
ぐしゃあ……!
「!? いきなり……花鹿の頭部が砕け散った!?」
「はい、結界をはっておいたんでしゅ。敵は結界に向かって突っ込んできた。反動で、頭が木っ端みじんになったんでしゅ」
こちらから近付いたのであれば、反撃を食らっていたかもしれない。
だから、罠を張って待ったのだ。
「なるほど……さすがコネコちゃん」
「えへへ♡」
「でもそういう作戦があるなら、前もって共有してほしかったな。怖かったよ、君が傷ついてしまうんじゃあないかと」
「ご、ごめんなしゃい……」
自分の結界があれば大丈夫という、確固たる自信があったから、この作戦を実行した。
でも、アメリアさんを心配させるかもってことは、考えてなかったな。
「うん、謝ったならそれでいい。さ、解体して戻ろうか」
「あいっ!」
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