49.痛い子
ヨル、でっかくなって、大暴走しちゃった……。
「ふー! しゃー!」
馬車の中にて。
ましろが、てしてしてし! とヨルの頭を猫パンチしていた。
『【あんた! うちの! ヤスコに! 何危ないことしてんのよぉ!】と、怒り心頭のましろ様ですね』
愛美さんが、ましろの言葉を翻訳している。危ないこと……つまりは、私を乗っけて大暴走したことだろう。
ほんと、危なかった。危うく振り落とされるとこだったし……よく無事だったな……。
「ひゃうん? ひゃんひゃん!」
『【どうしたの? あそぼあそぼ!】ですって……アホ犬丸出しですぅ』
『……しょぅがないですよ。ましろちゃんより、幼いみたいですし』
貞子さんの言うとおりだ。赤ん坊なのだから仕方ない。仕方ないけど……。
「加減してほしいでしゅ」
「ひゃん!」
『【あそぼ!】だそうです……かまって欲しいみたいですね』
ヨルが私の膝の上に足をのっけて、ぶんぶんぶん! と尻尾を振っていた。……遊んで、か。赤ちゃんなのに親から引き離されてるんだよね、この子。そう思うと不憫に思えてきた。
「何してあしゅぶ?」
「ひゃん!」
『【遊ぼ!】ですってぇ。やすこにゃんにお任せなのでは?』
といっても遊具みたいなものなんてないしなぁ。
あ、そうだ。私は両手を広げる。
「結界」
私の目の前に、野球ボール状の結界が出現する。
「そーれぃ」
私は結界ボールを転がしてあげる。するとヨルは「ひゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~~♡」と嬉しそうに追いかけた。
ボールに追いつくと、かじかじと夢中でかじっている。
「とってこーい」
「ひゃん!」
ぴゅーん、とヨルがボールを加えて、私のもとへやってきた。
よしよし、良い子。と私はヨルの頭をなでる。
「うにゃー!!!!!!!!」
ぺしーん! とましろがヨルに猫パンチした。
「ど、どうしたんでしゅか、ましろたん?」
「しゃー!」
『【あたしのヤスコに、なーになでなでしてもらってんの!? 誰の許可とってるの!?】焼きもち焼いてるみたいですねー、かわいい~』
ああ、なるほど……。ましろもかまって欲しいわけか。
私はもう一つ、ボールを作り出す。
「ほら、ましろたん。ボールでしゅよ~」
ころん、とましろの前に結界ボールを転がす。
「にゃふん」
『【こんなん赤ん坊のおもちゃでしょ?】って、言いながら、ましろ様ていていしてますねー』
ましろがボールを腕で転がしている。お気に召してくれたようだ。
「ひゃん!」
一方でヨルはボール投げを所望。私はボールを軽く転がす。
ヨルがそれを追いかけていく。へ、平和だ……。
『それにしても、やすこにゃんはたいしたものですね』
と、愛美さんが感心したようにつぶやく。
「どーゆーことでしゅか?」
『前にも言ったかもですが、結界の形態変化ってかなりの高等テクなんですよ。しかも、結界の場合は小さくするほど難易度が跳ね上がる。それこそボールにするなんて、ちょームズい』
へえ……そうだったんだ。さすが愛美さん、先輩聖女なだけあって物知りである。
『……それにわたくし気になったんですが』
と貞子さんが言う。
『……結界って構築に魔力が必要でしたよね? 寧子さん、結界いっぱい使ってるのに、全然疲れてる様子がないのが気になりました』
たしかに結界構築、維持には魔力がいるなら、もうかなり消費しててもおかしくないのに。全然疲れてない。
『神と契約してるから、魔力量も半端ないんでしょうねー。さすがやすこにゃん!』
「にゃるほど……」
と、そこで気付いた。シュナウザーさんが、こちらをじっと見つめているのである。
「どーしました?」
「あ、いえ……」
……? シュナウザーさんが、気まずそうに目をそらす。
「ち、小さい子は……よくしますもんね……。だ、だから変じゃあないですわ……」
「変……?」
「ああ、いえ! なんでもありませんの!」
……? どうしたんだろう。小さい子はよくするとか言ってるし……。
「どうおもいましゅ? 愛美しゃん、貞子しゃん」
「……!?」
びくぅう! とシュナウザーさんが身体をこわばらせる。
『そですねー、車酔いとかです? あたしも現実世界にいたころはよくしてましたし!』
「なるほど……車酔いでしゅか……」
「っ!?」
びくびくぅ! とシュナウザーさんがまた身体をこわばらせていた。あれぇ……? なに怖がってるんだろう……。あ!
「ああっ! も、もしかして……シュナウザーしゃん、愛美しゃんたち見えてない!?」
そうだった! 愛美さんたち、霊体だったんだ!(本体は魔神の鞄の中)。
え、つまりそれって……。シュナウザーさんから見たら、私、虚空に話しかけるやばい女に見えていたってこと……?
それは、びびるよね!
「ご、ごめんなしゃい! シュナウザーしゃん! あのその、実は旅の仲間がいるんでしゅ!」
「そ、そうなんですわね……あはは、わ、わたくしも小さいときは居ましたよ……あはは……」
この人、私がイマジナリーフレンドと遊んでいるって思ってる!?
いい年した女なのに、私……! いやでも見た目幼女だった!
「えーっとえーっと……ほんとなんでしゅ。ま、ましろたーん!」
ヨルをてしてし、と猫パンチしてるましろに、私は言う。
「愛美しゃんにしてるように、パスを、シュナウザーしゃんにもつないであげて!」
「ふにゃ」
『【めんど】だそうです』
ああもうほんと猫! 気まぐれなんだからっ。
私が痛い子って思われるの、すごい嫌だ。でもそれ以上に、シュナウザーさんを怖がらせたくないのである。
「ほーら、ゴロゴロゴロゴロ」
ましろのご機嫌をとるため、顎下を指でなでる。
「にゃふん♡ にゃー♡」
『【このあたしがぁ♡ こんなことで言うこときくわけないんだからねぇ♡】って言いながら、霊糸のばしてますね』
ましろの尻尾が伸びていき、くるん、とシュナウザーの足に巻き付く。
「! ゆ、幽霊ぃ!?」
霊体だけで外に出ている愛美さんと貞子さんが、見えるようになったようだ。
『ども! 聖女愛美です☆ やすこにゃんの友達1号!』
『……聖女貞子です。寧子さんのお友達です』
二人が霊体で挨拶をする。
「す、すごいですわ……! ヤスコさんって……幽霊とお友達だったんですね!」
シュナウザーさんが近付いてきて、尻尾ぶんぶんしている。
「さっきまでごめんなさいですわ! 幽霊と話す痛い子だと思ってましたの!」
ああ、やっぱりそうだったんだ……。
『やすこにゃんは痛い子じゃあないですよっ。こう見えても凄い幼女なんですからねっ。えっへん』
「しゃー!」
『【おまえがなんで得意げなのか!】ですって? いやそれはほら、自慢の友達ってことですよぉ~』
「ふにゃ」
ならよし、とばかりにましろがうなずいている。そこにヨルがのしかかる。
「しゃー! ふしゃー!」
「ひゃんひゃーん♡」
……いつの間にか、賑やかになっていたなって、改めて思ったのだった。
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