47.フェンリル
ヨルに、名前を付けた。そしたらなんかツノが生えてきたのだった。
「ツノ……」
「ひゃう……?」
どうしたの、とばかりに首をかしげる、ヨル。
こんなに可愛い子犬が、実はフェンリルだったなんて……。
「あなたフェンリルしゃんなんでしゅね」
「ひゃう?」
なんで首をかしげているんだろう……。
『……多分、自分でもわかってなかったのではないでしょうか』
と貞子さん。なるほど……。
まだ生まれたばっかみたいだし、フェンリルって自覚がないのかも。
「そもそも、フェンリルってなんなんでしゅ?」
すると、愛美さんが、得意げに胸を張って説明する。
『伝説の神獣ですよぉ~。いにしえより存在し、強大な力を持ったケモノ! ファンタジーものでの定番キャラですねー』
ゲームやアニメで出てくるのと、同じような存在らしい。
「みー」
てしてし、とましろが、私の腕をたたく。
今、ヨルを持ってる私。
ましろはヨルを、ぐいぐい、と押しのける。そして、私の膝の上にのっかって、ふんっ、と鼻で息をつく。どうしたんだろう……。
「みゃっ」
『【新入りばっかかまわないでよ】ですって。ぬはは、ましろ様ヤキモチですねー。可愛いとこもあるじゃあないですか……ああっ! やめてっ、猫パンチやめてっ!』
ましろが霊体の愛美さんを、パンチしてた。調子乗るから……。
一方で、ヨルはまたよじよじ、と膝の上に上ってくる。
「ひゃんっ!」
「しゃー!」
ヨルがましろに絡もうとするも、ましろは追い払おうとする。
「ひゃーん!」
だがヨルはましろにのしかかる。
「しゃー!」
ぐいっ、とましろがヨルを足蹴にするも、ヨルはまたましろにくっつく。
しつこくされて、嫌になったのか、私から飛び降りる。
ヨルはその後を追いかけ回す。可愛い子犬と子猫のじゃれ合いに、癒やされる……。
って、そうだ。
「シュナウザーしゃん。どうして、フェンリルと一緒にいたんでしゅ?」
一応、シュナウザーさんにも聞いてく。一緒に拉致されたって言っていたしね。
「い、いえ……。まさか、守護獣さまとは、つゆ知らず……」
「しゅご、じゅー?」
「はいですわ。我が国……ネログーマを守護する、神聖なるケモノ神が一柱。それが、フェンリル様なのですわ」
……国で、認めてるような、神獣……。
それがどうして、拉致されてたんだろう……。
まあ、でも神獣って凄い力を持ってるし(ましろが良い例)、それを悪用したい連中に、売ろうとした……ってこところだろうか。
……このまま、ネログーマ戻って、大丈夫かな。
このこを売り払おうとした、悪人が、まだ中にいるかもしれない。
このこを連れてったところで、また拉致られるかもしれない?
「ひゃん?」
いつの間にか、また膝上に、ヨルが乗っかっていた。
私はフェンリルを……ヨルを持ち上げる。
「あのね、ヨルしゃん。あなた……拉致されたのよ?」
「ひゃ……?」
わからん、とばかりに首をかしげる。
ぺろぺろ、と手を舐めてきてる。……可愛い。
この可愛いケモノを、じゃあ見て見ぬふりして、ここに置いてくことは……できないよね。
国が保護してる獣だから、ではない、このこが可愛そうだし。
「一緒に、オウチ帰りましょうね」
「ひゃんっ!」
私の膝の上で、ころんと丸くなる。
「しゃー!」
ましろが外から飛び込んできて、ヨルを追い出そうとする。
が、ヨルはそれを、遊んでくれるものだと勘違いしたのか、ましろにのしかかる。
「しゃー!」
「ひゃーん!」
また二人の大運動会が繰り広げられる。
方針は、決まった。あと……気になることを、聞いておこう。
「愛美しゃん。ヨルに、名前を付けたら、進化した件なんでしゅけど……」
『大昔の聖女には魔物に名を付けることで、進化さた、という伝説があるんですよ』
「名付けで、進化……」
『そう。伝説の聖女神、キリエライトって人なんですけど。その人の伝承のなかに、あったんです。森の魔物に名付け、存在を一段階進化させたってくだりが』
……そんなことできるなんて、凄い神様もいたモノだ。
でもその伝承と、同じことを、私はしたことになる。
「愛美しゃんたちも、できるの?」
『どうなんですかね。あたし、魔物に名前を付けたことありませんし』
貞子さんに聞いてみる。調教師の力を持ってるから、私よりも魔物に詳しいかなと。
『……わたしもわかりません。魔物を使役したことはあれど、名付けるほど仲良くなったことはありませんし』
魔物を進化させた原理については、わからないみたいだった。
聖女に備わった、隠し機能……なのかな。
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