43.子犬獣人
ネログーマへ向かう道中、魔物同士の縄張り争いに遭遇した私たち。
その中から──助けを求める声が、確かに聞こえてきた。
「あれは……魔物か?」
一方の姿は、はっきりしている。
木の化け物。何体もいる。
『大人面樹ですぅ』
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大人面樹
→レベル150
→進化した人面樹。炎攻撃を無効化できる。また、鋼のごとき肉体を持つ。
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そしてもう一方は──子犬だった。
何匹もの子犬が、大人面樹の前で怯えている。
その中に、ひときわ大きめの一匹がいて、唸り声を上げて必死に抵抗していた。
だが。
びゅっ!
大人面樹が枝を伸ばして、子犬たちへ攻撃を仕掛けてきた。
「ましろたん!」
「みゃ!」
ましろが《飛爪》を発動。
鋭い飛び斬撃が、大人面樹の枝を──弾いた。
「弾いた!?」
『どんな硬い敵でも軽く引き裂いてきたましろ様の爪を……はじくなんて、よっぽど硬いんですねぇ!?』
アメリアさんと愛美さんが驚く中、私は子犬のもとへ走る。
きゅっ、とその身体を抱きしめた。
「大丈夫でしゅよ、子犬たん!」
『あなたは……一体……?』
聞き覚えのある声だった。
助けを求めていたのは、この子犬らしい。
『そちらからは魔物の気配がしませんね』
と愛美さん。つまり──この子たちは、ただの子犬?
でも、喋ってる。思考がある。……なんで?
「なぁううう……」
『【あたしの爪をいなすなんて、やるじゃないの】ですって』
いなす……なるほど。
ましろの攻撃を、“受け止めた”んじゃなく、“受け流した”んだ。
「ふにゃ!」
ましろがくるんっ、とバク宙しながら、
《神威鉄爪》を放つ。
しかしそれすら、大人面樹は《受け流し(パリィ)》でいなしてきた。
「しゃーっ!」
『【だるいわね! 神パワーで吹き飛ばそうかしら!】ですってぇ』
やめてぇぇぇぇええええええええええ!
また森ごと消し飛ぶとこだった……!
「ましろたん! 本気出すと後片付けが大変なのでストップですぅ!」
「ふにゃー」
「……わたしがやりましゅ!」
私には《ネコババ》で得た能力がいくつかある。
そして、聖女のスキル──浄化・結界・治癒もある。
『……でも、どうやって? 聖女スキルに殺傷力はありませんし』
「燃やします!」
『……え!? でも鑑定スキルでは、火が効かないって──』
「【火遁】!」
私は大きく息を吸い──
ぼっ……!
大人面樹たちが、一斉に爆発四散した。
ぱらぱらぱら……と、塵のように崩れていく。
『あわわ……あれ? でも被害は小さい……? 昔は山火事クラスだったのに』
たしかに昔、森を一本燃やしたこともあった。
だが──今は違う。
「結界スキルを、組み合わせたのでしゅ!」
「ほんとうだ。結界が……敵の周囲を覆ってるな」
アメリアさんが目を細めて見ると、ドーム状の結界が見えてきた。
『なるほど……敵を包むように結界を張って、酸素の出入りだけ通す。それによって火力は維持したまま、周囲への被害を抑えてる……ってことですねぇ』
『……すごいです、寧子さん』
この結界スキルの熟練度は、愛美さんと貞子さんから引き継いだおかげでかなり高い。
だからこんな複合処理──一部だけ通す結界&火遁の併用──が可能になった。
「す、すごい……お姉ちゃん、何者……?」
子犬さんが、じぃっと私を見つめてつぶやいた。
──あれ?
「今、口……動いてたよね?」
「ふにゃ」
『【そいつら呪いで獣に変えられた獣人だからでしょ?】ですって……え、ええええええええええ!?』
じゅ、獣人!? この子犬たちが!?




