36.最高神を、呼び出してしまう
アホカイネンを、成敗した……その直後。
どさっ!
「ま、ましろたん!?」
ましろが電池が切れたみたいに、その場にばたん! と倒れた。
……嫌な予感がしてならない!
私は焦って、ましろを抱き上げる。
腕の中で、ましろがぐったりしてた。
『け、毛の色が、黒く染まっていくですぅ……!』
愛美さんが指摘したとおり、ましろの白く美しい毛が、尾の先から黒くなっていく。
ましろは苦しそうに、荒い呼吸を繰り返していた。
何が起きてるのか、さっぱりわからない。
けど……これが良くない状態だってことはわかる。
「ち、【治癒】!」
私はましろに治癒スキルを発動。だが彼女の状態は良くならない。
浄化スキルを使っても、黒くなる現象は止められなかった。
「ど、どうしよう……」
アメリアさんはもとより、二人の聖女たちも、何もできないのか、申し訳なさそうな顔で首を振る。
「にゃ……」
ましろが顔をこちらに向けて、ニコッと笑う。……やめてよ、ましろ。そんな……弱々しい姿、見せないで。
まるで……これが最期だから、笑って見せたみたではないか。
「ましろたん! やだ! やだよぉ! 死なないで!」
叫んでも何も解決しない。
私は……無力だ。転生して、色んな力を得たというのに、友達一人……救うことができない。
……手詰まりになった私は、目を閉じる。そして……
「誰か、助けて……神様……」
頼る相手がもう神様しか、残っていない。
そんな風に……祈りを捧げた、そのときだった。
空中に、黒い箱が出現したのである。
『な、なんですこの黒い箱……?』
そこから出てきたのは、一人の……女性だった。
黒髪、身長はやや高め。
年齢は20代くらいだろうか。
けだるそうな顔をしてる。
そして……彼女は天女が装備してるような、羽衣を纏っている。
……妙なことに、その人の手には、スマホが握られていた。
「呼んだ?」
突然現れた女性が、私に話しかけてきた。
何この人……?
というか、なんでスマホ……?
「あー……真白じゃん」
女性はしゃがみこんで、ましろに顔を近づける。
「アラガミになりかけてる……」
「アラガミ……?」
「受肉し、地上に降りた神が、人の願いに答えて力を使いすぎるとね、神の力が暴走し、悪い神様になってしまうんだ」
「!? そ、そうなんですか……」
「心当たりがある顔だね?」
黄泉津大神や、月は無慈悲な夜の女神といった、神の奇跡をましろは、私のお願いを聞いて連発してくれた。
「神の力は、凄いよ。でも地上にも……そして神自身にも、悪い影響を及ぼすから、あんまり使っちゃ駄目だよ」
「そうだったんだ……ごめんなしゃい……ましろたん……そんな重要なことしらないで……」
でも……もう遅い……。
ましろは、もう……。
「あ、大丈夫大丈夫。治せるから」
「へ……?」
女性はましろの頭の上に手を置く。
すると……ましろの毛の色が、すぅう……と白く戻っていった。
「ましろたんっ!?」
「ふにゃあ……?」
彼女が顔をあげ、きょとんと首をかしげる。
さっきまでの苦しそうな表情から一転、いつもの調子に戻っていた。
「体にたまった悪い力を、私が取り除いてあげたからね。これでもう安心だよ」
「ほ、ほんとに……?」
「うん。ほんとに」
にこっ、と彼女が笑う。
……この人が何者かわからない、けど。
でも……ましろがぴょんっ、と私の腕から飛び降りて、ぐいっとのびをする。
……ああ、ましろだ。
自由気ままな、お嬢様猫。いつもの……ましろだ!
「ましろたーん!」
私が抱きかかえて、ぎゅーっと抱きしめる。
ましろは、今までのことがなかったかのように、「ふにゃー!」と元気に叫ぶ。
じたばたしてる。自分が望んでないときに、抱っこすると、嫌がるのだ。でもこれがましろ……ああ、良かった……元通りだ!
一方「ありゃー」と周囲を見渡していう。
「これまた派手にやらかしたねえー、真白」
女性が見やる先には、ましろが月は無慈悲な夜の女神で開けた、大穴がある。
「もー、駄目でしょ。環境破壊はー」
彼女がまたあの黒い箱を取り出す。
すると……
『ひょええええええええ!? あ、穴が塞がっていくですうぅうううううううううううううううううう!』
一瞬で、大穴が塞がる。
それどころか、消し飛んだ洞窟や森の木々までもが、一瞬で再生した。
「これでよし」
「あ、ああ、あなたは……一体なにもの……?」
私も、気になっていた。神を救い、壊れた環境を元通りにした。
これじゃ……まるで……。
「どーも、最高神です」
「「『『さ、最高神!?』』」」
字面から察するに、最高の……神。
一番くらいの高い、神様……!?
ましろや、私が最初に出会った女神よりも!?
「真白ー。あんた駄目でしょ、力の連発は、アラガミ化を引き起こすって、前に教えたのに」
「ふにゃ?」
知らん、とばかりにそっぽを向くましろ。
まったく……と最高神が苦笑する。
なんだか、とても仲よさそう。
「あの、ましろたんのこと、知ってるんでしゅ?」
「知ってる知ってる。だってこの子を育てたの私だしね」
「な、なるほど……お母さんでしたか……」
「お母さん……っていうか、育ての親的な」
な、なるほど……複雑な事情があるようだ。
「真白が迷惑かけたね。この子が邪魔なら、連れて帰ることもできるけど…………うん、やめとく」
最高神さまは、私の顔を見て、笑う。
「君にとって真白……ううん、ましろは大事な家族なんだね」
そう……家族なんだ。だから、居なくなって欲しくない。
最高神さまは、私の心を見透かしたようだった。
「だったら、もうましろ一人に、負担をかけるようなことしちゃ駄目だよ」
「あいっ」
思えば、この異世界旅、ましろに頼ってばかりだった。
でも結果的に、ましろはアラガミという存在に落ちかけていた。
「アラガミに落ちると、こっちも討伐せざるをえないからね。気をつけて」
……最高神さまでも、アラガミになってしまったら、元に戻せないようだ。
気をつけよう。
「大いなる神の力を、無闇に連発はしましぇん」
「ん。それがいいよ。まあ使うなって言ってるんじゃあないからね。使いどころは、慎重に。あと使いすぎ注意。環境への影響も配慮してね」
月は無慈悲な夜の女神は強いけど、アラガミ化のリスクもあるし、環境破壊を起こしてしまうから、あんま使うなということみたい。
「ふにゃあ?」
「【窮屈なんだけど?】 しょうがないでしょ、アラガミになったら、大好きなこの娘と、離ればなれになっちゃうんだよ?」
「にゃ……」
「【それはやだ……】でしょ? なら、君もはしゃぎすぎないの。せっかく、君の周りには、頼れる人がいち……にー……さん、よん。四人もいるんだから。自分一人でつっぱしるんじゃあなくて、周りを頼ること」
……………………え?
「あ、愛美さんと、貞子さん、見えてるんでしゅか?」
「当たり前じゃん。だって神だもん、私」
な、なるほど……。
「さて、じゃ帰る前に、置き土産してこーかな」
「置き土産……?」
「うん。ましろが力使いすぎないように、君らも強くなっておいた方が良いでしょ。あ、神威鉄爪とか飛爪みたいな、低位のスキルなら連発してもアラガミ化はしないからね」
あくまで、黄泉津大神や月は無慈悲な夜の女神みたいな、異次元の神パワーは、アラガミ化リスクがあるってことらしい。
ネコババとか、そういうスキルは、使っても平気とのこと。それだけで十分過ぎるほど強いのに、さらにお土産までくれるという。
「じゃあまず、そこのアホそうな幽霊ちゃん」
『わ、わたしですかぁ!?』
愛美さんが心外みたいな顔をしてる。
「このアホ幽霊ちゃんの遺体もってる?」
「は、はいでしゅ」
魔神の鞄から、愛美さんの遺体を取り出す。
最高神さまは、愛美さんを掴む。
『え?』
「憑依合体!」
『ちょ!?』
愛美さんを掴んで、遺体に押しつける。
ぱぁあ……! と光り輝く……。
「び、びっくりしたですぅ~……」
「えええええええ!?」
「どうしました……って、えええええええええええええええ!?」
愛美さんが、驚愕している。そう……だって……。
「あ、愛美さん!? に、肉体が!」
「体が元に戻ってるですぅううううううううううううう!?」
愛美さんが幽霊から、肉体を持った存在になっていたのである。
「遺体を修復し、魂をそこに定着させ、復活させたんだ」
「ひょえええええ! すごいですうぅうううう!」
……死者を生き返らせるなんて……すごい。
「で、そっちの貞子っぽい幽霊ちゃんは……遺体はないんだね?」
『はい……』
「そっかそっか」
じゃあ、復活はできないか……。
「じゃちょっと新しい体作るね」
「新しい体作るね!?」
最高神さまが手を広げる。
彼女の手の上には、白い箱が出現した。
……私には、それが結界であることが、直感的にわかった。
「お、君、センスあるね。ご名答。これは結界だよ。んで……結界は形を自在に変えられる。つまり……」
白い箱が、粘土のようにこねくり回され、貞子さんとそっくりな体を作る。
「はい肉体完成」
「いやいやいや! お、おかしいですぅう! 結界で人間の肉体なんてつくれないですよぉ!」
「大丈夫大丈夫、できるできる!」
「できないですよぉおおおおおお!」
……でも、私には、今の見て、なんとなくだけど……作り方がわかってしまった。
「君はほんとにセンスあるよ。で、憑依合体!」
貞子さんの魂が、最高神さまの作った肉体に定着する。
黒い箱から毛布を取り出し、最高神様が、貞子さんにかける。
「いき、てる……私、生き返ったのですね!」
じわり……と涙を浮かべる、貞子さん。
私も、愛美さんも、うれし泣きして、彼女に抱きつくのだった。
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