34.死者の霊を降ろす
ゴブリンの巣穴だった場所は、現在、荒野になってる。
目の前には、私と同じ召喚聖女……茶臼山 貞子さんがいる。
改めて、彼女を見やる。
ボサボサの長い黒髪。前髪も長くて、顔を覆っている。
病人のように白い肌に、白いワンピースを着てる。
「改めて、初めまして。私は黒姫 寧子と申します。あなたと同じ、地球から召喚された聖女です」
ぺこっ、と私は頭を下げる。
魔神の鞄から、愛美さんが出てくる。
霊体の愛美さんが、元気よく言う。
『同じく! わたしも召喚聖女、佐久平 愛美です! よろしくですサッちゃん!』
さ、サッちゃん……。
この人ほんとになれなれしいな……。
貞子さんは何も言わず、こちらをじっと見つめてる。
『うひー! 本家本元のサダコみたいで怖いですぅう』
「ちょっと、失礼でしゅよ!」
『は、はひぃん……! すみません……! だから月堕としだけは勘弁……!』
月堕とし……?
ああ、さっき私がましろの力を借りてやったやつか。
『おっそろしい技でした……あんなの喰らったら……ああおっそろしい!』
「別にやらないでしゅよ……」
というか、幽霊なんだから、別にもう死なないのに、何を恐れてるんだろうか……。
『……貴女たちも、私と同じ存在、なのですね』
「そうでしゅ、貞子しゃん。異世界から無理矢理、こっちに連れてこられて、酷い仕打ちをうけました」
私はかいつまんで、ここまでの出来事を話す。
いきなり召喚されたこと。喚びだしたバカ王子が、幼女だからといって捨てたこと。
色々あって、今ここに居る、と。
『……そう』
「貞子しゃんは、いったいなにがあったんでしゅか?」
『……私の場合は、喚びだした男……アホカイネンさまに、恋を、してしまったのです』
「こ、恋ぃ~……?」
こくんっ、と貞子さんがうなずく。
『にゃるほど……サッちゃんは先代ゲータ・ニィガ王、アホカイネンに恋してしまった。だから……アホカイネンのもとから、離脱するようなことはしなかったんですねえ。わたしと違って……!』
愛美さんの場合は、王家にこき使われるのが嫌で、逃げ出した過去がある。
愛美さんとちがって、貞子さんは逃げずに、自分の、聖女としての役割を全うしたようだ。
『私はアホカイネンを愛しておりました。あの御方の愛する国のために、働き続けました。あの御方のご命令通り、動きました……ですが……処刑されました』
は……?
「しょ、処刑……?」
『そんな! どうして!?』
処刑ってことは……何か悪いことでもしたってこと……?
『私は、アホカイネンの命令で、テイムの力を使って魔物を支配し、他国に魔物をけしかけたことがあります。その罪で、処刑されました』
「『は……?』」
王族の命令で、他国に魔物をけしかけた……?
「なんで、アホカイネンはそんなことを?」
『魔物に他国を襲わせ、ピンチを演出し、助ける(魔物を退ける)ことで……ゲータ・ニィガの優秀さをアピール、そして他国に貸しを作る目的だったそうです……』
……なんて、ことだ。
そんなことをしていただなんて……。
『結果、ゲータ・ニィガは、西の大陸に存在する、六大国の中で、最も強い国となりました……』
ぎゅうっ、と唇をかみしめる、貞子さん。
……一方、その全てを聞いていたアメリアさんは……。
きびすを返して、去ろうとする。
「あ、アメリアしゃん! どこへ!?」
「決まってる……! ゲータ・ニィガ王のもとへ赴き! サダコ殿に謝罪させるのだ……!」
いつも朗らかに笑ってるアメリアさんが、憤怒の表情を浮かべていた。
貞子さんに対する、王家の仕打ちに、怒りを覚えてるのだろう。
それは、そうだ。自分たちの都合で貞子さんを呼び出し、恋心を利用して他国を襲わせ、最終的にはその犯人として処刑したんだから……。
キレて、当然である。……私だって、普通にムカついていた。
「落ち着いてください、アメリアさん。いま行っても、無駄でしゅ」
「なぜ!?」
「それは……貞子しゃんが死んでしまってるからでしゅ。それに、先代王も」
主犯であるアホカイネンがこの世に居ないうえ、実行犯も死んでいるとなれば、こっちの言い分を信じてもらえるわけがない。
「くそ……! どうにかならないのか……? サダコ殿に対して、せめて……謝罪させたい……!」
『そ、そんなの無理ですよぉ。だ、だってもう……先代王アホカイネンは、死んで、あの世に逝ってしまってるんですし……わたしやサッちゃんと違って、未練無く死んだようですし』
ぎゅううう……と貞子さんが唇をかみしめる。
「愛美しゃん! 言い方! デリカシーなさしゅぎでしゅ!」
『ひっ! さーせん……!』
すると、ましろが近づいてきて、貞子を見上げる。
「ふにゃう、にゃ?」
『【死者に、謝罪させたい?】ですって』
え……?
ま、ましろ……? いきなり何を言ってるんだろう。
「にゃーに、みゃ!」
『【あたしならできるよ、死者をこの世に蘇らせること】って、えええええええ!?』
うそ……でしょ。
まさか……そんなことが、可能だなんて……?
『じょ、冗談ですよね? そんなこと……あいたっ』
ましろが愛美さんに猫パンチを食らわせる。
「みゃう? にゃあ!」
『【あたしをだれだと思ってるの? 月の女神バステトよ!】』
そうだ。ましろは……神様なんだ。
だから……できるのかもしれない。死者を蘇らせることくらい。
「みゃう、にゃ!」
『【ヤスコが望むなら、やってもいいわよ?】』
望むなら?
もちろん……!
「ましろたん、やっちゃって!」
「うーにゃ!」
『【生贄を用意して!】ですって』
い、生贄……?
『口寄せした魔物でも、いいですか?』
「にゃう」
こくんっ、とましろがうなずく。
貞子さんは『【口寄せ】!』といって、ゴブリンを召喚した。
ましろが霊体の尻尾を伸ばして、ゴブリンをグルグル巻きにする。
「み~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
ましろが空に向かって、吠える。
瞬間、霊体の尻尾で包まれたゴブリンが苦しみだした。
「ご、ぎゃ、ご、ごぎゃぁああああああああああああああああああ!」
空が……一瞬にして暗くなる。
上空には巨大な、赤い満月が出現した。
満月の光がゴブリンを照らす。
ずずずずず……と地面の土が盛り上がって、ゴブリンを包み込む。
やがて……。
ボロボロ……と土が崩れる。そこに、いたのは……。
「え、ば、バカデカント……?」
私を召喚した、バカデカント王子……? のように見えた。しかし……。
『アホカイネンさま!』
貞子さんが驚愕の表情を浮かべながら、その男の名前を呼ぶ。
アホカイネン……バカデカントの、祖父。
なるほど、血縁だから、顔が似てるのか。
『緊迫した状況なのに……バカだのアホだのって連呼するから……いまいち緊張感がでないですぅ……あいたっ、いたた、猫パンやめてっ』
愛美さんがましろにしばかれてる。
「ま、ましろたん……これは……いったいどういう技なんでしゅ?」
「にゃう!」
『【黄泉津大神】ですって』
~~~~~~
黄泉津大神
→生贄を使って、死者を現世に蘇生させ、術者の思い通りに操ることができる降霊術
~~~~~~
降霊術……。
そんなことまで、ましろはできるんだ。さすが……神様。
「な、なんじゃあ……!? ここは……? わしは死んだはず……」
『アホカイネンさま……』
ぎょっ、とアホカイネンは目をむく。
「げええ!? さ、サダコぉ……! 貴様処刑されたはず!? なぜ生きてるのだぁ!?」
「…………」
あ、駄目だ。また、沸々と怒りがわいてきた。
……アホカイネンは、貞子さんに酷いことをしたのだ。
ならまずは……謝罪だろう?
「ねえ、あなた」
「ア゛? なんだこのガキはぁ!? 騎士はどこだ! ガキをつまみだ……ぶげええええええええ!」
私……ではなく、アメリアさんが、アホカイネンの頬を拳で殴りつけたのだ。
「騎士は……ここにはいない!」
「ひぃ……! な、なんだ貴様ぁ……!?」
「黙れ! 今すぐ詫びるのだ! この御仁に……!」
ふんっ、とアホカイネンが鼻を鳴らす。
「なぜわしが謝罪なんぞ……」
「【息するな】」
「ガッ……!」
アホカイネンが突如としてくるしみ出す。
どうやら本当に、黄泉津大神で喚びだされた死者は、私の言うとおりに操れるようだ。
しかも、仮とは言え肉体があるから、アホカイネンは痛みや苦しみを覚えるようである。
「貞子しゃんに、悪いと思ってる気持ちが一ミリでもあるなら、謝罪しなしゃい。でないと……もう一度死ぬことになる。今度は、死ぬほどの苦しみを味わいながら」
「わかっ、た……。だから、ゆる……して……」
私は貞子さんをチラ見する。
彼女は……こくんっとうなずいた。
「【息をしてよし】」
「かはっ! はあ……はあ……はあ……」
どうやら貞子さんは、アホカイネンの謝罪を聞き入れてあげることにしたようだった。
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