27.模擬戦でも目立ってしまう(不本意)
「それでは、第三試験、模擬戦を開始します」
私たちは屋内の会場へと移動した。
さっきの的当て会場とは別の場所だ。
コロシアムみたいになっている。
ギャラリー達は観戦席から、こちらを見てる。
「これから、先輩冒険者と模擬戦してもらいます。制限時間は10分。相手をノックダウンさせるか、時間切れを起こすまで戦って貰います。なお、勝負内容を見るので、必ず勝たないと合格できないと言うわけではありませんので、あしからず」
……模擬戦か。しかも1対1。
これはさっきみたいに、ごまかしができない。
どうやって、切り抜けよう。
『も、もはややすこにゃんだけ、別競技やってますよね』
愛美さんの言うとおり。
どうやって勝つか、ではなく、どうやってバレずに勝つか、という別の種目やってるな、私……。
「では、今回の試験官ですが……」
「この私様だ……!」
ばんっ! と部屋の扉が開く。
やってきたのは、ぎらぎらと輝く、黄金の鎧を身に纏った、はげた男だ。
「おまえたちを担当するのはこの私様! 【ズリィゾ・カマセイマン】だ!」
『あ、明らかに底意地悪そうなやつがきましたね』
確かに、ちょっと顔つきが悪い。
「この人だれなんでしゅか?」
「なーんだがきんちょ、私様を知らないとは! どんな田舎から来たのだ? んんぅ~?」
……どうやらこけにされたようだ。
でも別に怒る気はさらさらない。だって果てしない田舎(別の世界)から来てるわけだし。
「……にゃぅ」
『【……消すか】だ、だめですよぉう。ギャラリーもいるんだし! ましろ様が力使っちゃったら、けが人多数でやばいことになりますよ!』
そのとおり。だから、今回ましろには大人しくして貰いたい。……けど、うちの気まぐれ猫姫さまが、大人しく人間の言うことを聞いてくれる保証はない。
「まずはどちらからやるかね?」
「わたしから行こう」
アメリアさんが先に戦うようだ。
ズリィゾがにやりと笑って、手を差し出す。
「お互い、正々堂々と、戦おうじゃあないかぁ~」
……あやしい。
「なーう」
『【あやしい】。わたしもあやしいって思ってます』
しかしアメリアさんだけは、「ああ、正々堂々戦いましょう!」とズリィゾの差し出した手を握る。
『まあ、アメたん、レベル62もあるし、そう簡単には負けないでしょうけど。あんなの一瞬でけちょんけちょんですよ!』
愛美さんがそういうものの、でも……私はちょっと不安だった。
相手は、何かやってきそうだし。
「アメリアしゃん、ふぁいとぉ!」
ということで、アメリアさんVSズリィゾの模擬戦となる。
二人が向かい合うようにして立つ。
「無知な君たち教えてやろう! 私様は魔法剣士。魔法と剣、どちらも超一流。なにせ、私様はあの伝説の冒険者パーティ【黄昏の竜】の元メンバーなのだから!」
伝説の……冒険者パーティ?
『黄昏の竜……確かに凄いパーティでした』
「知ってるの、愛美さん」
『ええ。わたしが生きていたころにも、活躍していた凄いパーティです。古竜を軽々倒し、魔族も瞬殺できるほどの、強いパーティでした』
そんな伝統ある、強いパーティに所属していたんだ、あのズリィゾ。
「私様は現在、パーティを抜けたものの、私様のランクはS! いまだ変わりなく!」
「そうか。では……参る!」
アメリアさんがドンッ……! と地面を蹴ってズリィゾに接近。
「なっ!?」
ズリィゾが……なぜか目をむいていた。
「ぜあぁあああああああああああああ!」
アメリアさんが高速の斬撃を繰り出す。
これで終わったな……と思ったんだけど。
「くっ!」
がきぃん!
『あのズリィゾ! アメたんの攻撃を真正面から受け止めました! 中々やりますね』
その後も、アメリアさんとズリィゾが互角の戦いを繰り広げた。
やがて、10分が経過する。
「ぜえ……はあ……はあ……! きょ、今日はこれくらいで、か、勘弁してやろう……」
「ありがとうございました、ズリィゾ殿。いや、さすが伝説のパーティ【黄昏の竜】の元メンバーだ。本当にあなたは強かった! 戦ってくれてありがとう!」
「う、うむ……」
なんだか、気まずそうにしてるズリィゾ。
一方で、アメリアさんは爽やかな笑みを浮かべている。
『な、なんか満足そうですね……アメたん』
「強い御仁と戦えて、とても勉強になったからなっ」
……一方で、私はある疑念を抱いていた。
『ど、どうしたんですかぁ?』
「アメリアしゃんが、あんなのに苦戦するわけがないでしゅ。【鑑定】」
~~~~~~
ズリィゾ・カマセイマン
【レベル】50
~~~~~~
『ふ、普通にハイレベル冒険者ですね』
「でも、おかしいでしゅ。アメリアしゃんのレベルは62なのに」
『あ、なるほど……』
私はこの戦いの結果に、違和感を覚えた。
気になったので、アメリアさんのレベルを、調べてみることにした。
「【鑑定】」
~~~~~~
アメリア
【レベル】6
【状態】弱体化の呪い
~~~~~~
『れ、れ、レベル6うぅ~~~~~~~~~~~~~~~!?』
……やっぱり。弱体化の呪いを、受けてる。
だから、レベル50に引き分けてしまったんだ……。
いつ呪いなんて受けたのか? だれが呪いをかけた?
決まってる。
あの……ズリィゾだ。
あいつが手を握った際に、呪いをかけたにちがいない。
『で、でも……アメたん弱体化の呪いを受けて、レベル6になってるのに、よ、よくレベル50と引き分けることができましたね』
確かに言われてみると変だ。
「ふにゃあ、みゃ、みゃあ」
『【あたしが加護を与えたんだから、ま、これくらいはできて当然よね】……加護?』
加護って……。
アメリアさんの一部分に、月のマークがぼんやりと浮かんでいた。
「【鑑定】」
~~~~~~
猫神の加護(レベル1)
→バステト神の加護。敏捷性を上昇させる
~~~~~~
確かに、アメリアさんの敏捷のステータス値が異様に上がっていた。
『なるほど……ましろ様の加護があったから、圧倒的レベル差があっても、引き分けることができたんですね。8倍くらいのレベル差を、互角にまで持ち込むなんて、ましろ様の加護やばいですうぅ』
アメリアさんは私たちの会話を聞いてる。
ズルされたと知っても……。
「そうだったか」
としか言わなかった。
「相手に不正されたんでしゅよ?」
「ああ。しかし、不正を見抜けなかった、わたしも悪い」
……そんなことは無いと思うけど。
『ず、ずいぶんと潔い人ですね、アメリアしゃん』
さて。
ズリィゾがこちらに近づいてくる。
「次は、君の番だね。よろしく」
ズリィゾが私に手を差し伸べてくる。
……気になったので、ズリィゾの右手を鑑定スキルを発動。
~~~~~~
弱体化
→触れた相手のレベルを、一定時間、10分の1にする
~~~~~~
……やっぱり、ズルしていたんだ、この男。
「どうしたぁ? んんぅ?」
「……早く試合はじめましょうよ」
「ちっ、まあいい。……ガキ相手に弱体化なんて必要ない。ボコボコにして、さっきの試合でできなかった、憂さ晴らしをしてやろう……くくく」
後半、小声で、ズリィゾが何かを言っていた。
ましろが「に゛ゃ?」とぶち切れていた。
「コネコさん、ギルドに提出された申告書によると、職業はテイマーになってますが、あってますか」
テイマー。調教師。
動物と契約し、自在に操ったり、動物の声を聞いたりできるスキルを持った人たち、のこと。
私は武器攻撃ができないし、魔法も使えない。(結界や治癒などは、あくまで聖女スキルであって魔法ではない。目立つのでスキルを使うつもりもない)
よって、私はテイマーということで、ギルドに職業を報告したのである。
「テイマー、か。うぷぷっ。魔物を使い魔とするモンスターテイマーではなく、動物しか契約できないテイマーなんて外れ職業だなんて。可哀想な女だなぁ」
ぴきぴきっ、とましろの額に、血管が浮かぶ。
『あいつムカつきますよね!? ましろ様!』
「なーう……」
ましろがズリィゾをにらみつけている。
「……ましろたん、わかってましゅね?」
ヤバいと思って、私はましろに、釘を刺しておくことにする。
「……だめでしゅよ? 殺しちゃ」
「うにゃ、みゃ」
『【別に、倒してしまっても構わないでしょう?】ですって』
いやいやいや。
「……狙いは時間切れでしゅ。いいでしゅか? 絶対に本気出しちゃだめでしゅよ? ケガさせてもだめ。殺しは言うまでも無く駄目。いいでしゅね」
「…………」
「……へんじっ」
最後までムシを貫いていた、ましろ。
大丈夫かな……。
「では……はじめ!」
受付嬢さんが試合開始を宣言する。
「さぁ! 楽しいショーの時間だぁ……! なぶり殺しショーのなぁ!」
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
……会場に爆音が響き渡る。
もちろん……ましろが攻撃を放った音だった。
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