15.女騎士と街に行く
グリフォンを倒した後、私たちはようやく、森の外へとやってきた。
「外でしゅ!」
「みゃー!」
森を抜けると、目の前には草原が広がっていた。
周り、草しか生えていない。
ユーチューブで見た、北海道とかの、風景に似ていた。実際に行ってみたことなんて一度もないけど。
「空気が……おいしいでしゅ……」
都会のよどんだ空気とは違い、異世界の空気は、なんだか美味しい気がした。自動車などが通っていないからだろうか。
空を見上げる。……異世界の空は、現実のそれと同じ青い色をしていた。
流れる雲も、そして……太陽もある。ここが本当に別の世界なのかと疑ってしまう。
『あっ、あっ、ま、まぶしい……浄化されてしまいそうですぅう……』
ましろ経由で、愛美さんの声が聞こえてくる。幽霊の声が聞こえる時点で、現実とここは別の世界なんだなって実感を得た。
「愛美しゃん、ここどの辺なんでしゅか?」
『あっ、はい。奈落の森は、【ゲータ・ニィガ】王国の北東にあたる場所です』
愛美さんから、ざっくりとした地理を教わる。
私たちがいるのは、【西の大陸】と呼ばれる、海に浮かぶ大陸。
ゲータ・ニィガ王国はこの大陸の北に位置しており、東隣には獣人国ネログーマ、西にはマデューカス帝国があるそうだ。
『じゅ、獣人国は獣人さんたちが住んでます。皆いい人ばかりです。て、帝国は実力主義な国でして、あっ、そんなに過去とか詮索されないです。ち、力あるものこそ正義的なところあるんで』
……現状、私を喚びだして放置した、ゲータ・ニィガ王国には長居したくない。
となると……マデューカス帝国を目指すべきかな。
実力主義なら、どんな過去があろうと、幼女だろうと、認めてくれるなら。
『あっ、たたた、大変です!』
と愛美さんが焦ったように言う。
「どうしたんでしゅ?」
『騎士の人たちが起きそうですよぉ!』
森で見つけて、保護した騎士達。今は、■庭空間に彼女たちがいる。
目覚める前に、■庭から出さないと。
でないと、なんだここは! とまた騒ぎになってしまう。
「■庭、おーぷん!」
ポシェットの蓋を開ける。
そこから……どさっ! とアメリアさんをはじめとした、騎士たちが出現する。
「あれ……?」「おれたちはいったい……?」
私は隠しの結界を使って、身を隠そうとする。
「にーにゃっ!」
「ましろたん!?」
『あっ、【なんであたしがこそこそしないといけないの?】ですって! あっ、その、ましろ様見つかっちゃう……!』
ばちっ、とアメリアさんと目が合う。
「君……! そこの君!」
アメリアさんが駆けてくる。……しまった、隠れる前に見つかっちゃった。
「何をしてるの? ここは危ないわ。直ぐにお母さんのところへ行かないと。お母さんはどこ?」
えっと……どこって言われても。
どうしよう。
『と、とりあえず……この場は適当なことをいって逃げるしかないですね!』
と愛美さん。幽霊なので、彼女の声はアメリアさんには聞こえていない。
て、適当なことって……?
『が、がんばってください!』
ま、丸投げっ?
『こ、コミュ障なわたしにそんな、パッと上手い嘘が思いつくわけないじゃないですかっ』
……ごもっともすぎて何も言い返せない。どうしよう。
「にゃーあ、にぃ」
『え、【やれやれ、任せなさい】ですって……?』
「どうしたの?」
「えっと……その……じ、実は……その……む、村を、つ、追放されまして……仕事をもとめて、街に行く途中……なんでしゅ。で、貴方たちを見かけ……ました」
苦しい。さすがに怪しすぎる……。
こんな言い訳、信じてもらえるわけがない。
「そうか……それはツラいな」
あ、あれ……?
信じてもらえてる……?
「にゃん」
ましろが、いつの間にか私の頭の上に乗っていた。
ましろの尻尾が光り、くるくると、円を描くように動いてる。
まるで、トンボを捕まえるときのような動きだ。
「みー」
『あっ、【スキル猫だまし】だ、そうです!』
猫だまし……?
「うにゃん!」
『【相手の精神に作用し、発言に信憑性を持たせる、交渉スキル】だそうです!』
な、なるほど……。
ましろのスキルのおかげで、私のバレバレの嘘を、アメリアさんが信用してくれたってことか。
……助かった。
「よければ、わたしが馬で街まで送ろうか?」
「! いいんでしゅか? こんな見ず知らずの他人を……?」
「ああ。君みたいな可愛くて小さな子を、放置できない」
いい人……。
「うにゃん」
『【歩くのダルいわ】ですって。あ、歩くのはやすこにゃんじゃ……あっ、あっ、なんでもないですっ。猫パンチはやめてっ』
シャドウボクシングするましろに、愛美さんがびびっていた。
どうしよう。ここで提案に乗ってもいいだろうか。
『わ、わたしは……街まで送ってくれるなら、ありがたく送って貰っていい気がしますよ。ち、力を見られたことについては、ましろさまが寝た猫を起こすなによる暗示で、わ、忘れてるでしょうし』
確かに、アメリアさんからすれば、私は単なる村を追放された哀れなる少女以上の何者にも見えていないだろう。
それに、街の場所は愛美さんに聞けばわかるだろうけど、幼女の姿(足で)どれくらい掛かるかは不明。
なら、送って貰った方がいい……か。
「お願いしましゅ!」
「了解だ。ちょっと待ってておくれ。仲間達と話してくる」
アメリアさんが部下のもとへ向かう。
そこで何かを話してる。これからの方針を話してるのだろうと思われる。
『あっ』
「どうしました?」
『あ、あの人たち……ゲータ・ニィガの王国騎士です!』
愛美さんがアメリアさんたちを見て言う。
ゲータ・ニィガ……王国騎士?
「ふーしゃー!」
『ひっ、【どうしてそういうこと早く言わないの?】。す、すみません……暗がりでよくわからなかったんですぅ~……』
「みゃ!」
『【あとで猫パンチ】ひぃい……勘弁してぇ~……』
……それにしても、王国騎士、の人たちなんだ。
まあ騎士っぽい見た目はしてるなとは思っていた。
けどゲータ・ニィガの騎士なんて……。
でも、王国騎士がどうして奈落の森に居たんだろう……?
『お、王国騎士は、王の使いっ走りみたいなところが、あ、ありますからね。王様の命令で、森に来たんじゃあないでしょうか?』
「命令……。どんな?」
『そ、そこまではちょっと……。で、でも普段王国騎士は、街内の警備をしてます。外まで出張ってきたってことは、王命による特殊な任務の遂行中ってことだと思います』
……そんな特殊な任務の途中なのに、私を街まで送ってくれようとしてるんだ。
いい人すぎて、なんだか申し訳ない。
「お待たせした。さ、いこうか」
「あの……部下の人たちは……?」
「彼らは先に王都に帰すことにした。私は君を街へ送り届けてから、帰還する」
「しょう……でしゅか……。ごめんなしゃい」
アメリアさんが目を点にする。
「ごめん……?」
「はい。お仕事の途中なんでしゅよね? 余計なことさせて、ごめんなしゃい」
するとアメリアさんは微笑む。
「幼いのに、気遣いのできる、とても賢い子だな、君は。でも……大丈夫。余計なことなんてしてないさ」
どんっ、とアメリアさんは自分の胸を叩く。
「目の前で困ってる人を助けることは、騎士として当然のこと!」
……ほんと、いい人だ、この人。
「さ、行こう。可愛いお嬢さん。あ、そうだ。君の名前は?」
名前……名前か。どうしよう。
ヤスコって言っていいかな。異世界人(召喚少女)っぽい?
なら……えっと……
「ふにゃー」
「ね、こ……ネコ、です!」
なるほど、とアメリアさんがうなずく。
「コネコちゃんというんだな」
とっさに向こうのあだ名、ネコって言おうとしたら、コネコって認識されたようだ。
「コネコちゃんか。可愛い名前だな」
……ネコって呼ばれるの、ずっと嫌だった。
馬鹿にされるから。でも……。
可愛いって、初めて言ってもらえた。うれしかった。だから……。
「あいっ。私……コネコでしゅ。よろしく……アメリアしゃんっ」
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