100.
幻術が解けたことで、目の前にいる「負け犬」の正体が露わになる。
ヨレヨレの臙脂色のジャージに、便所サンダル。
何日風呂に入っていないのか分からない、ボサボサの銀髪。
顔立ちは彫りが深く、色素の薄い瞳をした整った美少女なのだが、溢れ出る「残念オーラ」が全てを台無しにしている。
「ふんっ。……やってくれるじゃないか」
彼女――三才山ぽんぽこが、ジャージについた土をパンパンと払いながら立ち上がった。
さっきまでの土下座(屈服)はどこへやら。
彼女は長い銀髪をバサッとかき上げ、ニヒルな笑みを浮かべる。
どうやら彼女は、祖母がロシア人のクォーターらしいが、その神秘的な血筋もこのジャージ姿では形無しだ。
「この偉大なる幻術使い、『三才山ぽんぽこぅ』をボコボコにするとは、なかなかやるじゃねえか。褒めてやるよ」
「……はぁ。どうもでしゅ」
私はジト目で返す。
名前の語尾に「ぅ」をつけるのが彼女のこだわりらしいが、正直どうでもいい。
すると、ぽんぽこは仁王立ちになり、ビシッと私を指差した。
「気に入った! 貴様に免じて、特別にチャンスをやろう!」
「ちゃんす?」
「うむ! この私を仲間にする権利を与えよう! 喜べ! 光栄に震えろ! わっはっは!」
彼女は腰に手を当て、高らかに笑った。
清々しいほどの掌返し。
負けた直後にこの態度を取れるメンタルだけは、一流かもしれない。
(……うわぁ)
私は心底引いた。
面倒くさい。
やかましい。
そして何より、この残念なジャージ女を連れて歩く恥ずかしさ。
「……やっぱり、いらないでしゅ」
「なぬっ!?」
私が踵を返すと、ぽんぽこが驚愕に目を見開いた。
「ま、待て待て! 正気か貴様! 私の幻術だぞ? 一家に一台、あると便利なぽんぽこさんだぞ!?」
「うるさいし、臭そうでしゅから」
「臭くないわ! ちゃんと三日に一回はファブリーズしてるわ!」
風呂には入れ。
私は溜息をつき、少し考える。
確かにこいつはウザいが、その幻術の腕前は本物だ。
異世界での一人旅は危険が多い。
囮や目くらましとして使える「手駒」がいるのは、悪い話ではない。
(……まあ、非常食(タヌキ鍋)にもなるでしゅしね)
私は足を止め、振り返る。
「分かりましたでしゅ。……荷物持ちとしてなら、連れて行ってあげるでしゅよ」
「荷物持ちだと!? この私をパシリ扱いとは……!」
ぽんぽこは一瞬ムッとした顔をしたが、すぐにニカッと笑った。
「まあいい! 貴様のその度胸に免じて、仲間になってやるかー! わっはっは! 感謝しろよな!」
「……チッ」
私は盛大に舌打ちした。
前言撤回。
やっぱり置いていけばよかったかもしれない。
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