試食
もちろん、押し寄せてくる大衆をバッサバッサと捌いていく。と、なるわけもなく。あわあわと少し混乱していた。鳥の照り焼きを一口とはいえ、無料で貰えるというのはとても魅力的なものらしく、弾丸のように人が襲ってくるのだ。
カオルさんが少し恥ずかしながらやるのは中々いいだろうな〜という旨の発言をしていたが、カオルさんは恥ずかしいといった素振りを見せずに、手際よく襲いくる客に試食を渡していた。良く考えてみれば飲食店のウェイトレスとしてもやっているので恥ずかしがるということは有り得ないよな。願望が正しい思考を妨げたようだ。
じゃあ、俺が以外のパーティーメンバーが混乱しているのか?といえば、混乱していないと断言出来る。なにせ、あまりの活躍ぶりに試食をした後の客をもてなす役に抜擢されたからだ。
店の中は試食の効果で賑わっている。これはクエストは達成出来そうだ。ちょっと今の自分が情けないけどね。
ちなみに用意していた試食の数はとっくに全部無くなってしまっていて、追加を三回した。そろそろ四回目になりそうである。
「そろそろ無くなってきたから、寿司を試食で持ってきてください。一貫ずつでお願いします」
「わかりました」
「食欲をそそられる匂いを発するもの」というアドバイスと共に言った「店が売りたいもの」にどうも寿司は該当するようだ。確かに日本といったら寿司というのは日本人も思っていることだしね。
刺し身を生で食べてなおかつ米が付いてくるのでパンジの食文化を広めるというのに適している物だろう。
ちなみにお気づきの方も居るとは思うが、これを含めた試食の追加の四回はすべて俺が持ってきている。俺が力持ちだからな!嘘です結構足手まといだからですすみません。
ふざけて戦争だ!とか言ってしまったが、本当に戦争なのだ。いつ、俺が「休憩していいよ」という戦力外通告を受けるのかわからない。
なので、俺は必死に寿司を運んでいく。俺は寿司ではサーモンが好きなのだが、渡されるお盆にはサーモンはなかった。鮭あったのにね。
まずいな。早く運ばなければ。俺はとにかく頑張り、すぐに机を寿司で埋めることに成功した。
すると、刺身と米はやはり初めて見るのか、襲ってきたお客Aが戸惑っている。
鳥の照り焼きのような比較的馴染みのある食材が使われている料理ならまだしも、全く知らない食材で、作られた料理となると困惑するのも当然だろう。
困惑が伝染してきた。やばいやばい、どうしよう。とにかく、美味しい物でも食べて落ち着こう。
パク。
「食べた瞬間、舌の上であっさり、それでいてしっかりと旨みが広がっていく!!しかも、絶妙な握り加減で米の粒々とした食感がしっかりとあるぞ。その生きている米が魚の旨味を余すことなく活かしていて絶妙だ!!!」
ゴクリ
そんな音が聞こえた気がする。そういえば、俺、なんか言ってた気がするな。これ、ヤバイ奴じゃね。
確かに、ヤバイ奴だったが、嬉しいものだった。また、先の戦いが始まったのだ。
感想、指摘などお待ちしております。気に入った方はブクマや評価をして頂けるとありがたいです。




