試食作戦、スタンバイ!
ちょうど着こうかというとき、既に少し人だかりが出来ていた。人の隙間から、テーブルをセッティングしているカオルさんの姿が見える。物珍しさから人が集まったのだろう。
どうやらこの街ではそういった文化はないようだしな。プレイヤー達も知識としては知っているが、ここで和風のテーブルが置かれたのを見れば何事か?となるだろう。
俺たちは集まっている人に「すみません」と言いながら、人だかりを掻き分けてカオルさんの元へと着いた。カオルさんが嬉しさ半分戸惑い半分といった表情で言う。
「すごい人だかりが出来ていますね」
「このまましっかりやればお店も繁盛出来そうですね」
「私、正直言って不安です。パンジに居た頃にも店にこんなに大勢人が集まっていることなどありませんでしたし、ここまでのお客様を捌ききれるかどうか」
「私たちが居れば何人かかって来ようが問題ない」
「いや、カーラの戦争みたいに言うなよ」
俺が追加でありきたりな言葉を掛けようとして今、気づいた。普通に準備をし始めていることに。二人には明日、すなわち今日には普通なら出来ないことを伝えてないので何も思っていないようだ。
だが、俺としてはかなり驚いている。俺たちが帰ったのはこちらの時間では夕方だ。夜にやったのだろうが、仕込みが朝早くからあるはずなので睡眠時間を確保するためにも、ランプ代節約のためにもそれほど時間はなかったはずだ。
なのに、メニューを作る看板と屋外のテーブルの製作は確実に終えている。恐らくいつもの分の下ごしらえと、試食用の鳥の照り焼きの下ごしらえも終わっているのだろう。
器量が良かったり店員が居たから出来たのかもしれないが、どこか時間を削って準備してくれたのには違いないはずだ。罪悪感が....まあ、罪悪感を置いておくとしても手伝うといった以上、準備も手伝った方がいいだろう。さっきの変なルビは何かって?アニメネタだよ!!
「なにか手伝えることありませんか?」
「それでは、鳥の照り焼きを持ってきてください」
鳥の照り焼きは下ごしらえが済まされているどころか細かく切られて、別けられていた。デパートの試食では爪楊枝が刺さっているのが定番だが、それでは(この世界では)お金がかかり過ぎるので、大量のフォークを置いておいて洗う形式にしたようだ。大量のフォークが運び込まれていく。
そこまで気が回らなかったな....爪楊枝をポイポイ捨てられるような世界では無いよな。
「じゃあ、一皿ずつ持ってくれ」
「ん、了解」
「わかった」
皿を置き終わると、俺は渇を入れて言った。
「さあ、試食という名の戦争を始めよう」
我ながら言ってみると恥ずかしかった。




