売れない理由
1G=100円です
この店、雰囲気や見た目が高級なだけかもしれないぞ。完全に決め付けていたな。メニューも見ずに。ちょっとメニューを見せてもらうか。
「カオルさん、お通しと出すメニューを見せてください」
「承知いたしました」
俺が言うとカオルさんが反射的にそう返した。やっぱり、店員の練度は高いのだろう。パンジも日本もおもてなし精神は旺盛のようだ。
お通しに出て来たのは、大根の漬物にトビコを掛けた物だった。お通し代というのは、ぼったくられることも多々あるものだが、どれぐらいの料金なのだろう。足りるかな...
「お通しの代金っていくらなんですか?」
「頂いていませんよ。ここは庶民層を狙ったお店なので」
つまりこの適度な塩気により大根の甘さが引き立ち、食べているとザクザクと小気味の良い音を立てて、時折プチっという食感が楽しい漬物が無料ということか。
なんで誰も食べる人が居なかったのだろう。口コミで広がっても全くおかしくないレベルなのに。お品書きを見てみた。
「どうですか?」
ほうほうほう、一言で言おうリーズナブルなお値段だった。すべてがリーズナブルということはないのだが、気まぐれ寿司6貫セットなどは脅威の6Gである。回転寿司には負けるだろうがこの世界観を考えると安い。
しゃけ定食5.5Gや気まぐれ定食5Gなどはとても良いはずだ。なんで、売れないんだ?意味がわからない。みんなにも見せてみるが、「...安い」「私は鳥の照り焼き定食ね!」と言うだけで高かったり、不味そうな料理...不味そうな料理か!!
「とてもお財布に優しいですし、おいしそうな料理ばかりなのですが食べられた方居ますか?」
「それが...入ってくる人の大半が案内する前に出て行ってしまって。それ以外の人もお通しを見ると出て行くか、お品書きを見ると出て行ってしまうんです。中には食べていく方もいらっしゃるんですけどね」
「なんで出てっちゃうの?」
「それはな。ここの国の人にとっては馴染みのない料理、変な内装なのと安い値段なのが問題なんだよ」
そう、ここは西洋然とした国だと町並みから予想される。西洋には魚を生で食う文化はないし、米という主食もない。だからこの店の料理は馴染みが一切ない。
名前だけではわからないだろうと親切心で、このメニューには料理の解説が載っている。だから、マグロという魚の刺身(刺身についても解説あり)をお米という穀物に乗せました、なんて言われたら恐ろしくなるだろう。しかもそれに加えて安い。素材が何かわからない料理が安かったら恐怖感を覚えるだろう。
それに、この国には魚を生で食す文化は存在しない。魚を生で食べたらお腹を壊すとほとんどの人が思うはずだ。だからこの店が生き残る方法は....




