じょしょう
体調不良だぜ。
そんな後悔を抱きつつ、俺は店員に言われるがまま座る。ここ本当に大丈夫なのだろうか。トリーは食事が必要だから、きっとここが行き付けの店なんだろう。まあ、念のために聴いてみるか。俺はヒソヒソと聴く。
「ここってトリーが、結構行ってる店なんだよな?」
「そ、それが...」
「ですよねー」
うん、知ってた。リアルのトリーがお嬢様かどうかはともかく、こんな稼ぎではこの高級そうな店で食う余裕は無いだろう。
というか、何で俺たちが通されてしまったのか不思議になるレベルだ。
まず、通された場所は個室である。そしてその通された個室が上品なことこの上ない。
まず、部屋の中は土足厳禁で、一面に畳が敷き詰められている。この世界にはニスが無いのかテカテカはしておらず、しっかりとヤスリがけをしたのかツルツルだ。
それに、壁一面が漆とおぼわしき塗料で全面黒く塗られていて、竹が書かれている。和紙を使用したのか店を照らすランタンが優しい光を放っていた。ぜってぇ払えない。お通し代で所持金全額無くなりそうだ。
ちょっと周りを見渡していたら落ち着いてきた。中世ヨーロッパ風の街並みなのに、なんで和風なんだ?それに、何故俺たちみたいなみすぼらしい格好の人を通した?
俺たちの格好は麻の上に新品の装備を付けた格好だ。装備の質がわからないにせよ、高級な店なのに装備着けたまま麻の服で来る奴はこの店でお金を落とすとは思えない。
ということはだ。この店はそんなに高くない。高級という前提が間違っているのだ。
そんなことを考えたのも束の間、お通しが出された。終わった。お通しを出すのはそれなりの店である。だから、俺たちには払えない。
「どうか、半額にしますので、食べて下さい」
スレンダーで綺麗な女性が、透き通るような声で言った。なに、英雄譚は始まってしまったのか?偶然ということもあるだろうけど。
半額にするなんてただごとじゃないよな。それに頭を下げてまで買って欲しいと言うとは。信仰集めでもしますかね。
そんなことを思うと、その瞬間にトリーが声を掛けた。
「どうしたんですか?良かったら聴きますよ?問題を解決したら天使カーラを信仰して貰うけど」
「えっ!?」
「えぇー」
思わず声が出てしまった。これも致し方ないだろう。トリーが交渉下手すぎたからな!!
最早交渉ですらないか。ああ、終わったな。これで終わっても良いや。
「はい、お話しします」
え!?この女性これで了承するのかよ!!そうか、所詮はNPCだったわ。戸惑いながらも話そうとする女性を見て、俺は思った。




