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夢見ノ森怪奇譚  作者: 種子島やつき
第八話 帰ってきた『妹』
29/69

8-2

 盗難についてさらに詳しく常夜へ聞いてみると、事件は今学期に入ってからもう三回も起きているようだった。

中学生が持っている金銭や貴重品なんてたかが知れているから、おそらく内部の犯行なのだろう。

よく盗まれているのが女子向けのグッズというところから察するに、犯人は女子生徒か。

同じ学校に通う仲間の所持品を盗むなんて、情けない話だと千博は思った。


「俺は犯人がこの学校の生徒だというのは間違いない思います。でも盗まれるのは授業中なんですよね? 犯人はどうやって教室を抜け出してるんでしょうか」


 移動教室や体育で教室が無人ということは、すなわち授業中ということである。

犯人が生徒なら本人も授業中だろうに、どうやって犯行に及ぶのか千博は疑問だった。

トイレに行くと嘘を吐いたとしても、あんまり長い時間帰ってこなければ不審がられるだろう。

しかし千博の問いかけは、常夜にとってしごく簡単なものだったらしい。


「呆れたことに、その点に関しては何の問題もないわ。悲しいけどウチの学年、授業中校舎をフラフラしてるチンピラが何人もいるんだもの」

「そんなことしていいんですか?」

「ダメに決まってるじゃない。でも何度注意しても効果ないし面倒くさいから、教師たちはもうあきらめてるわけよ」


 盗難事件と同じくらい情けない話である。

しかしコレで犯人は決まったようなものだった。

鳴郎も同じような結論へ至ったらしく、呆れた声で吐き捨てる。


「どう考えてもソイツらが犯人じゃねーか。どうして先公どもはソイツら捕まえねぇんだ」

「証拠が不十分なんじゃないかしら?」

「なるほどねぇ。てことはオレたちがバッチリ現場を押さえりゃ、その馬鹿どもを制裁できるってワケか」


 「おもしろい」と彼は唇をゆがませた。

確かに窃盗を繰り返す馬鹿どもを捕まえれば、さぞかし胸がすくことだろう。

だが花山がオロオロしながら部員たちへ言う。


「で、でも、盗まれるのは授業中なんですよね。わたしたちも授業があるのに、どう現場を押さえればいいんでしょうか」

「それは言えてるな。教室が無人になるなんてしょっちゅうだが、そのたびにサボるわけにもいかねぇし」

「な、何かいい方法あるでしょうか……?」

「しょっちゅう授業抜け出すヤツなんざ決まってんだろぉ? だったらソイツら順にボコしていけば解決じゃねーか」

「拷問はダメですよ鳴郎さん!」


 鳴郎なら中学生のチンピラごとき、片手で相手ができるだろう。

キクコも「ワタシかみついてもいい?」と目をキラキラさせているが、さすがに暴力は容認できなかった。

しかしだからといって他に良い方法があるわけでもない。

一同は途方に暮れたが、なぜか部長だけが余裕の笑みを浮かべていた。


「なに笑ってんだよ。気持ち悪い」

「えー、だってここはアタシの出番なんじゃないかな~って」

「あ?」

「ヒドーイ! アタシの尾裂狐が調査や張り込みに最適なの忘れちゃったのー? みんなが動けないなら、ここはアタシにお任せあれ!」


 部長の尾裂狐たちを一匹ずつ二年の教室へ忍び込ませ、何か起こったらそこから一番近いところにいる部員の所へ報告させる――それが部長、尾崎八百の考えた作戦だった。

尾裂狐は妖怪だから一般人の目には見えないし、かなりいい作戦だろうと千博は思う。

だが慎重な千博は、もう少し確実性が欲しかった。


「申し訳ないんですが部長、キツネたちを全教室に配置することはできますか?」

「ん? どうして?」

「杞憂かもしれませんが、もう盗難は三回起きてるんですよね? 犯人がそろそろマズイと他の学年を狙うことも考えられます」

「なるほどー、千博クン頭いい! じゃ、明日から学校中の教室に張り込ませとくわー」


(……一体何匹飼ってるんだろう?)


 少々怖くなったが、念を入れられるのだからありがたく思うべきであった。

今日はこれ以上することがないので部活はここで終わり、次の日の朝部長から「本日ヨリ作戦ヲ実行ス」と雰囲気たっぷりのメールが入る。

とはいえ、実際仕事をするのはキツネたちなので、千博の学校生活が別段変わるわけでもなかった。

もし尾裂狐が自分の教室に駆けこんできたら、その時行動を起こせばいいだけである。

千博はいつものとおり、鬼灯兄弟に挟まれる席で授業に集中した。

幸い作戦一日目は何事もなかったらしく、平和のまま今日の時間割が終了する。

次の日も、その次の日も。

部長の尾裂狐が部員の教室へ飛び込んでくることはなかった。


(やっとやめる気になったのかな)


 犯人が窃盗をやめるつもりなら、それで越したことはなかった。

しかし千博は昼休み直前の授業中、不自然なことに気が付く。


 二年生の教室で今まで盗難が起きた回数は三回。

そして犯行は授業中に限られており、おまけにその時間うろついている特定の生徒がいる。

教師たちが馬鹿でないなら、一回目の窃盗で彼らに目をつけるはずであった。

一回目は証拠がないから捕まえられないだろうが、それなら犯行を繰り返さないよう、彼らの動きをそれとなくでも監視するのが普通である。


 しかし窃盗事件が二回三回と起きたのは、教師たちが余程無能だったせいか。

それとも犯人が校舎をうろついている不良どもではないせいか。


(ひょっとしたら犯人は、想像しているような人間じゃないのかもしれない)


 単なる推測ではあったが、あまり犯人像に対して固定観念を持つことはやめようと思った。

午前の授業が終わって昼食をとり、またもや授業の時間がやって来る。

今日の午後一番の科目は、退屈なので有名な教師が行う国語であった。

ただでさえ眠くなるのに食後という条件が加わり、生徒が一人また一人と睡魔にやられていく。

しかし三分の一が机に崩れ落ちたころだろうか。

突然、教室の扉がガタンと鳴り、居眠りしていた生徒たちが一斉に飛び起きた。

教師が何かぶつかったのかと扉を開けると、途端に千博の方へ向かって黒い影が飛び込んでくる。


 体よりも長い尾。

尖った鼻と裂けたように大きな口。


 黒い影の正体は部長が使役している尾裂狐であった。

彼がやって来たということは、再び窃盗犯がこの学校に現れたということである。

逃がすものかと千博たち怪奇探究部が立ち上がると、教師が声を荒げた。


「お前ら! 授業中に何やっとるんだ!!」

「泥棒を捕まえに行くんで失礼します!」


 案内するように先を行く尾裂狐を追って、三人は教室を飛び出した。

狐が自分たちの所に来た時からまさかと思っていたが、犯人はとうとう二年ではなく一年の教室へ現れたらしい。

尾裂狐が立ち止まった先は、花山が在籍している一年C組の教室だった。

まったく物音がしないところから、例によって体育か移動教室の真っ最中なのだろう。

扉についた窓から中をのぞくと、無人の教室でたった一人、女生徒がカバンをあさっているのが見えた。

次から次へと別のカバンをあさっているから、忘れ物を取りに来たわけでもないようである。


「捕まえるぞ」


 二人が目でうなずくのを確認した千博は、勢いよく扉を開け放った。

驚きで振り返ったまま硬直する女生徒に、キクコが文字通り飛び掛かる。


 化け物を圧倒するキクコから女子生徒が逃げられるわけがなかった。

女生徒は一瞬でキクコに抑え込まれ、悲鳴とも呻きともつかぬ声を漏らす。

取り押さえられるときの衝撃で散らばったのだろう。

彼女の周りには、盗んだと思しき現金やカバン用のぬいぐるみが散乱していた。


「ったく、ガキの分際でご立派に盗みやがって」


 鳴郎が苦々しげにつぶやきながら、もがく女子生徒を睨みつける。

彼女はギャルやチンピラとは正反対の、非常に地味な容姿をしていた。

無造作に伸ばされた髪は毛先が痛みきり、体型も標準から大きく肥満寄りに傾いている。

どこを見ているか分からないほど細い目の上には、眉間をつなぐほど濃い眉毛があった。

ブレザーの肩はフケだらけだし、きっと外見に全く頓着しない性質なのだろう。

髪を染め抜いた不良生徒を想像していたに違いない鳴郎は、彼女の容貌に目を見開いていた。


「ホントにコイツが犯人なのかよ!?」

「多分な」


 やっと捕まった衝撃から我に返った女子生徒が、金切り声でわめきだす。

その声を聴きつけてやって来た教師により、現場一帯はそれから大騒ぎとなった。












 初めて入った校長室で、千博は怪奇探究部の仲間たちと一列に立たされていた。

室内にある応接用のソファーで座っているのは、先程捕まえた窃盗犯――小槻美麗こづきみれいである。

容姿とかけ離れた華麗な名前を持つ彼女は、グスグスとべそをかいていた。

彼女の隣にいる我が校の教頭が、千博たちへ向かって怒鳴りつける。


「君たち、彼女になんてことをしてくれたんだ! いくらなんでもあそこまですることないだろう!!」


 部員一同は互いに顔を見合わせた。

泥棒を現行犯で捕まえたのだから、褒められはしても怒られるゆえんはないはずである。

しかし教頭はこちらに対して大層ご立腹らしい。


「小槻くんはいじめを受けて二学期から一度も学校にこられなかったんだぞ。せっかく勇気を振り絞ってみたらこの仕打ち。君たちは分かっているのか?」

「泥棒を捕まえたってことは分かってるぜ?」


 しれっと答えた鳴郎に、教頭が片眉を痙攣させた。

千博も内心彼を支持しているので、たしなめることはしない。

小槻は相変わらず自分が被害者と言わんばかりに泣いており、知らない人が見たらこちらの方が泥棒かと思われそうだった。

時々鼻をすすりながらこちらを睨んでくる小槻に、常夜が呆れた様子でため息を吐く。


「小槻さん、まさか貴女が犯人だったとは思わなかったわ」

「常夜先輩、お知り合いだったんですか?」

「知らないも何もクラスメイトよ。二学期から不登校でね。見ないなと思ってたけど、学校に忍び込んで盗みをしてたなんてビックリだわ」


 常夜が肩をすくめるのと、小槻が耳をつんざくような甲高い声を上げたのはほぼ同時だった。


「ボクは不登校じゃないもん! みんなにイジメられて学校に来れなくなっただけだもおぉぉんっ!!」


 自分を「ボク」と言った小槻は、その大きな全身をゆすった。

超音波のような声と幼稚な喋り方に、千博は思わず目を見張る。

本当に彼女は自分より一つ上の先輩なんだろうか。


 花山がおそるおそる常夜へ尋ねる。


「あ、あの、常夜先輩。あの人イジメられたって言ってるけど本当ですか?」

「ちがうわよ。彼女の我がままにみんな愛想をつかして、かかわらなくなっただけ」

「ウソつくなぁっ! みんなボクと遊んでくれないのぉ。ボクのいうことみんな無視するのぉー!」

「黙りなさい! 嘘つきはあなたの方でしょう? 芸能人と知り合いとか、本当は漫画家だとか馬鹿なことばかり言って。だいたい何回言ったら人の物勝手に持ち出すのをやめるの!?」


 どうやら事件が起きる前から盗みの兆候はあったらしい。

常夜はまだまだ言いたいことがあるようだったが、それを教頭の怒鳴り声がかき消した。


「いい加減にしろ常夜鈴!!」

「ですが教頭――」

「もうすぐ小槻君のお父上がお見えになる、言い訳はその時にしろ」


 教頭の言うとおり、小槻の父親は間もなくやって来た。

スーツを着たエリート然とした中年は、校長室へ現れるなり千博を殴りつける。

寸でのところで体をひねったから直撃は免れたものの、頬に鈍い痛みが走った。


「なにするんですか!?」

「貴様ウチの美麗になにをしたんだ! 美麗はお前らとちがって繊細で傷つきやすいんだぞ!? 外に出れなくなったらどうしてくれる!?」

「繊細って――アンタの娘は泥棒を――!!」


 話の途中で鳴郎が小槻の父を殴ろうとしたため、千博は慌てて彼を止めにかかった。

いくらこちらに理由があるとはいえ、分が悪くなるのはさけたい。


「まぁまぁ、小槻さんも落ち着いて。こちらにお座りになってください」


 教頭のとりなしで小槻の父は一応腰を下ろすが、まだ怒りが収まらないようである。


「だいたい君も一体何をしてるんだ。いじめについて解決できないどころか、今度は集団で抑え込まれただと? 私が文科省で課長をやっていることは知っているだろう。ここの教育委員会に相談に行ったっていいんだからな」

「ボクのパパは強いんだぞー。いじわるなヤツはみんなやっつけちゃうんだからぁっ!」

「美麗、悪者は全部パパがやっつけてやる」


 千博は教頭がこちらを悪者にしようとした理由を察するとともに、めまいを覚えた。

これからこんなバカ親子の相手をしなければならないのかと思うと、それだけで気が滅入ってしまう。

部員一同を立たせたまま話し合いは始まったが、教頭も小槻の父親も、こちらが一言も発さないうちから謝罪しろの一点張りだった。

自分が悪くないことは分かっているので、もちろん千博に謝る気はない。

それは他の部員たちも同じようで、気の弱い花山でさえも決して謝罪の言葉を口にしなかった。


「つーかさっきから一体なんなの? アタシらに謝れ謝れってさあ。こっちはドロボウ捕まえただけなんですけど」


 部長が元々とがり気味の口をさらにとがらせると、教頭が声を高くする。


「おい君、泥棒なんて人聞きの悪いこと言うんじゃない!」

「だってホントのことじゃーん。無人の教室で、他人の財布やキーホルダーパクってたんでしょ? ドロボウじゃなくてなんなのってカンジなんですけど?」

「それはちょっとしたデキゴコロというやつだろう。それを君たちは暴力を行使して――」

「は? 暴力なんてふるってないし。その証拠にコイツピンピンしてんじゃん。なんでアタシらが謝んなきゃならないワケ?」


 部長がずいと体を前に出して、教頭を睨みつける。

目の大きい彼女のガン付けは、普段のおチャラけた様子からは考えられない迫力だった。

教頭も恐れをなしてそれ以上怒鳴るのをやめるが、今度は小槻の父親が前に出てくる。


「貴様ウチの美麗が泥棒だと!? 侮辱するのもいい加減にしろ!」

「はぁ~? ドロボウはドロボウでしょ。アンタ娘が何度も盗み繰り返してるって知ってて言ってるワケ!?」

「美麗は悪くない! だいたい学校にそんなヌイグルミだの財布だのを持ってきてる方が悪いんだ。そんなものあったら欲しくなるのが当たり前だろう」

「いいぞパパ―。その不良をやっつけちゃえ!」


 先ほどまでの泣き顔はどこへやら、小槻が勢いづく父親へ声援を送る。

部長は目をつり上げたまま、黄色い声を上げる彼女の方を向いた。


「つーかアンタさぁ、散々人の物盗んでその態度はなんなの? アンタのしたことは立派な犯罪なんだけど、そのコト分かってる?」

「ぼ、ボクはドロボウさんじゃないんだぞ! ちょっと『拝借』しただけなのだー」

「黙って借りるのを泥棒っていうんだよ、このクソッたれ女!!」

「パ、パパァ~」

「おい! このガキ娘を馬鹿にしたことを謝れ! だいたいたかだが小銭と安いヌイグルミくらい別にいいじゃないか!!」


 たとえ物が安かろうが、教室に忍び込んで物を勝手に取って行くのは立派な泥棒である。

千博は一連のやり取りを見て、コイツらとは話が通じないと確信した。

どんなにこっちが物の道理を解いても、このバカ親子は絶対に納得しないだろう。

教頭は部員たちへ謝るよう目で訴えてくるし、この状況をどう打開すればいいのか途方に暮れるしかなかった。


 他の部員たちを横目で見れば、うんざりした顔で腕を組んでいる常夜と、怯える花山。

部長はまだ言い争っているし、鳴郎がキレそうなのは見なくても空気で分かった。

そしてキクコはというと、文字通り瞬きもせず、バカ親子を穴が開くほど凝視している。

彼らに状況の打破を期待するのは難しそうだと思ったが、意外にもキクコが場の空気を変えた。


「もういいよ。ワタシ、教室に帰るね」


 そう言うと彼女は勝手に校長室を出て行ってしまったのである。

しかし唐突な行動に仰天したのは千博だけで、他の部員たちはなぜか納得したような顔をしていた。

誰一人キクコを追いかけようとはせず、教頭と小槻の父がいくら連れ戻すよう言っても、聞こえないふりをするばかりである。


「おい、みんなどうしたんだ?」

「キクコも出てったことだし、俺たちも帰るぞ」

「え?」


 鳴郎の言葉を合図に、部員たちはぞろぞろと校長室から出て行った。

引き留めようと小槻の父が鳴郎の肩を掴むが、強くふり払われて床に転がる。

最初は戸惑ったものの、取り残されたらかなわないので千博もすぐ後を追った。


「一体みんないきなりどうしちゃったんですか?」


 キクコと合流したところで千博が尋ねると、部長が答える。


「これ以上いても無駄だから、もう帰っちゃったもいいかなって。そういうことだよねキッコタン?」

「うん。もう小槻さんはね、これから泥棒しなくなるからもういいの」


 意味の分からない答えに、千博は首をかしげた。


「一体どうして鬼灯は小槻先輩がもう泥棒しないなんて言えるんだ? そんなこと誰にも分からないだろ」

「小槻さんとそのお父さんがそう選んだからね。小槻さんはこれから泥棒しなくなるんだよ」

「選んだ? 何を?」


 千博が聞いても、キクコはニコニコ笑うだけだった。

根拠はよく分からないが、とにかく彼女はもう小槻が盗みをやめるのだと確信しているらしい。

だが千博はとても小槻がこれで泥棒をやめるとは思えなかった。

父親の態度がああでは反省すらしないだろうし、ただでさえ盗癖は繰り返すと聞いている。

絶対に小槻はまた同じことをするに違いなかった。

しかし他の部員たちがキクコに同意しているようなので、新入りの千博は反論を胸に留めておく。

それに今は小槻のこれからより、勝手に出て行ったことによるペナルティの方が気にかかった。

家に帰ってからは親に電話が来やしないかひやひやもの。

朝になってからは学校で呼び出されないか気を揉んでいたが、幸い登校しても特に目立ったことはなかった。

恐らく教頭も、さすがに無茶を言い過ぎたと思ったのだろう。


 一安心した千博はすっかり昨日の事件を忘れ、HRホームルームからはいつも通りの学校生活を送った。

しかし事件はまだ終わっていなかったらしい。

昼休み、千博が鳴郎たちと弁当を食べていると、青ざめた部長が教室へ駆け込んでくる。


「みんな来て! バーバーの『妹』が小槻に盗まれたの!!」


 まさか昨日の今日で、しかも常夜の人形が盗まれるとは。

まったく想定していなかった事態に、千博はしばらくあんぐり口を開けたままだった。


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