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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
王都学院編

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ただ、私は、君の一番で居たいだけ

 


「セリアの未来に、私達二人が共に居る未来はあるかい?」

「……無い」


「私の未来では、ここではないどこかで共に居る未来がある」

「……無理よ」


「そうだね、道理に反すれば良い」

「……そんな、簡単じゃない。私の未来は…五年後には婚約者を決めて、八年後には結婚しなければならない。それにあなたとはあと二年も居られない……もう、自由な未来なんて無いの」


 決める…か。

 貴族は早くて十八歳で結婚する。恋愛結婚も出来るけれど強制ではない。

 強制なのは王族の……

 認めよう……私はもう、本当のセリアに会っている。

 ……仕草、雰囲気、それに……目を見て、解ってしまった。

 ……解ってはいたんだ。認めないようにしていただけだから……セリアがもしかしたら王族だ、って。

 ……本当に、君ってやつはこんな所に居るべきじゃ無いのに。

 これは、セリアの精一杯だろう。私に素性は直接伝えられないから……精一杯のアピールだ。


「セリアは、結婚したいの? したくないの?」

「……したく、ない。もっと、色々な事を、したい」


「……決めるって事はまだ婚約者は居ないんだね?」

「……えぇ」


「じゃあ……十五歳までに婚約者が決まらなかったら、私が君を迎えに行くよ」

「五年後なんて、あなたはもう……貴族じゃないのよ」


  「うん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。別に決まらなかったら、だよ。婚約者の決まらない可哀想なセリアに慰めの旅行をプレゼントしてあげるんだ」

「なによ、それ……」


 胸元に顔を埋めていたセリアが、顔を上げて私を睨む。そんなセリアの頭を、そっと撫で……鞄から土魔法で作った力作……ダイヤのヘアピンを二個、前髪に着けた。

 はぁ……恋愛感情は無いと思っていたけれど……好きだな。でもこれが本当に恋なのかよくわからない……わからないけれど、好きだって事はわかる。


「自由な内に……私と共に、少しだけ旅をしないかい? この世界に果てがあるのか、あの月に行けるのか、どんな景色を見られるのか」

「……夢みたいな、話ね」


「そうさ、夢だ。夢を語るのは、誰にだって出来る。私でも、セリアでもね。君の夢を、教えてくれないか?」

「夢…か。毎日、必死で……でも、今、夢が出来た」


「へぇ、聞かせて」

「あなたと、世界を旅するの。何も知らない土地や、何も知らない文化を、あなたと見たい」


「ふふっ、それは良い夢だね。でも、それだと君は婚約者の決まらない可哀想なセリアになるよ?」

「別に良いわよ。決めたもの」


 少し、元気になった。

 お互いに、素性を知らない関係から……素性や素顔が解っているのに知らない振りをする関係になった。

 また、変な関係になったな。いや、知らない振りも疲れる……もう、解っているのなら……


 うーん、どちらのセリアも好きという事は、あの二人……リリとアルセイアの事も好きという事になる。

 ここら辺が複雑だな……リリとアルセイアも好きの部類だけれど、リリとアルセイアのセリアが一番好き。つまりはセリアが大好き……うーん、結局二人が好きという事か?

 でもセリアは私が大好きだけれど、リリとアルセイアの二人は私の事をどう思っているのだろう……ふむ。


「ねえセリア、今度新作の人形を持ってくるから楽しみにしておいて」

「……楽しみに、しておく。はぁ……あなたが五年後も貴族だったら良かったのに……」


「世の中思い通りにはならないものさ。ちゃんと、五年後に婚約したか確認しに来るからね」

「約束ね。正直、ルナードより良い人を見つけるのが苦労しそうよ」


「そりゃそうさ。セリアにとって、私より良い人が居てたまるか。セリアの一番は、私のものだよ。私は、君が大好きだから」

「……私も、あなたが大好きよ。そうやってあなたは、私に未練を残すのね」


「違うよ。私は、君と恋をしてみたい」

「ルナード……叶わない恋なんて……っ!」


 セリアと結婚出来る未来は無い。

 だから今だけ、少しの間だけ、私が女であろうとセリアの一番になりたいと思うのは、おかしくない筈だ。

 セリアを抱き締めながら、眼鏡を取って、至近距離でセリアを見詰める。

 酷く驚いた表情が新鮮だ。

 セイランごめんよ、先に言うって約束したのに……ここで勇気を出さないと、後悔する。


「私も、時間が無いんだ……だからあと二年……未練が残る恋とか、叶わない恋とか、報われない恋をするつもりは無い。私は……君と、思い出に残る恋をしたいんだ」

「……」


「ここで会う時だけ……残りの時間だけ、お願い出来ないかな……」


 セリアが、赤いイヤリングを触ろうとして、その手を掴んで止めた。

 震える手……素顔じゃなくて、私は、返事が聞きたいんだ。


「っ……わ、私は……違うの、セリア、なんて、いない、の」

「……セリアは存在しない。そんな事、最初から解っていた」


「じゃあ、なんで……」

「だから、恋をするんだ。セリアは居なくなっても、私と君の思い出になる。こんな変わった恋を出来るなんて、忘れられない思い出になると思わないか?」


「……思う。でも……」

「……返事はまた今度で良いよ。まぁこれは、君にまた会いたいという口実だ。じゃないと、セリアにもう会えない気がして」


「「……」」

 少しだけ見詰め合い、セリアから離れた。

 本当は今、返事が聞きたかった。

 なぜだろう……胸騒ぎと焦燥感で胸が痛い……この予感は、振られちゃった……かな。

 ははっ……嫌なら、否定くらい、してくれよ。

 ……素顔のまま一礼し、泣きそうだから背を向け、眼鏡を掛けて空を見上げた。

 なんでこういう時ばかり、良い天気なのだろう。


「……ばいばい」

 その言葉を言うのが精一杯だった。

 このまま、帰ろう。北に向かって歩き出して、呼び止められる事を期待したけれど、それは無かった。

 振り返るのが怖くて、でも寂しくて、胸が苦しくて、無我夢中で走ったら……いつの間にか家に到着していた。

 でも、家に到着する頃には何故か気持ちは落ち着いていて、もう会わない覚悟が出来たような気がする。


「ルクナ、おかえりなさい……どう、したの? 何か、あった?」

「お母さん、二人きりで話がしたい」


 心は酷く、落ち着いていた。



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