敵になるなら覚悟しやがれっ
異様な雰囲気の中、授業がスタート。
先生は雰囲気がおかしいのに気が付きながら普通に授業を始めて……面倒事お断りな感じに正直助かっている。この話題は私が公開処刑みたいになるから。
「……」
お昼の時間、微妙な空気の中みんなはそれぞれ食堂へ向かっている。私はいつでも帰れるように鞄を持ち、零組に向かおうとした所でリベッカに回り込まれた。
良いね、その敵対しますという目。私も気兼ねなく、敵と判断出来る。
「……ルナード・エリスタ、説明しなさい」
「何を?」
「グニアを泣かせたんでしょ?」
「君に説明をする義理は無い」
「っ……何様よ!」
「リベッカ、やめて……私が悪いだけだから」
「グニア……もう、許せないわ」
「言っておくけれど、君は部外者だ。どいて」
どいてよ。
どいてくれないからすり抜けるように、入り口まで素早く移動すると少しざわついた。ふっふっふ、私のスピードに付いてはこれまいっ。
もう決めた、実力を隠してやらねえ。
セイランは、歯を食いしばって我慢してくれているから……私がここで何かしないと後が面倒になるかな。まぁどうでも良いか……
「逃げるの⁉︎ ──っ!」
「逃げる? 君は大きな勘違いをしているね」
一瞬でリベッカの背後に移動。消えたと思ったら背後にいるとか怖いよね。
実力を隠さないという事は、この組との決別だ。
もう、疲れたよ。せっかく、グニアとも仲良くやれそうだったのに……今度はこいつかよ。
「……なんなの、あんた」
「これでもエリスタ一族だから。もし私の敵になるのなら、覚悟してよ。全力で潰してあげる」
キッキッキと笑ってそのまま高速で入口から出たから、私が消えたみたいに感じているかな。
周りもびっくりしていたし……やっぱり、学院なんて来るんじゃなかった。迷宮に篭ろう。
四階に上がり、零組の部屋に入って隣を確認……幼女が椅子に座りながら寝ていたので、抱っこを諦めてお弁当を開けた。
……なんか、泣けてくるな。
母は、今の私を見たら、何を思うのだろうって……涙が出てきた。
ルナードは、誰にも好かれない。
もう一人の私は、本当に孤独なんだって思うと……なんか辛いな。
あと少しで、ルナード・エリスタは死ぬ予定だけれど、泣いてくれる人は何人いるんだろう……って。せめて、セリアは泣いてくれるかな、なんて淡い期待はしているけれど。
──コンコン。
……セイランかな。
あんまり出たくない。
でも出ないとセイランも泣く可能性がある。
「……誰ですか?」
「私、セイラン」
「開いているよ」
扉が開いて、セイランが泣きそうな顔で私を見ていた。悪いね、先に私が泣いているから、セイランが泣いてもよしよししてあげないよ。
「ごめん……私のせいだ。リベッカがルナード・エリスタを尋問しようとみんなに呼びかけ始めた……」
「……とりあえず入って」
「私がグニアに教えたから……ごめん、なさい」
「いや、グニアはあれで変われると思う。良い方向にね。あいつがしゃしゃり出ただけだから」
「なんでっ! ……もっと、自分の事を考えてよ……私は、どうしたら良いか解らなくて……何も出来なかった……」
「いや、セイラン…我慢してくれてありがとう。事が大きくなる前に、決断出来た」
「……決断?」
「ルナード・エリスタは、もう一組には行かない」
泣くなよ。泣きたいのは私だ。
セイランのせいじゃないよ、前から決めていたし。
「ごめんね……あなたを追い詰めたのは、私だ……」
「……ねえセイラン、ちょっと聞いて。父は私にエリスタが周りからどう思われているか、国がエリスタにどう接するかを学ばせたかったみたいなんだ」
「……お父様も、学院は、国の縮図と言っていた」
「そう、エリスタを知れば仲良くはなれる。でも、呪いのようにまた悪く思う奴が現れて評判を落とされるんだ……エリスタの事を知らない癖に、ね。父も私ぐらいの時に、同じような言葉の暴力を浴びせられたし、敵も多かったみたい」
「でも、その眼鏡が無かったら、そんな事……」
「そうだね、でも手遅れだ。顔が変われば態度が変わる……これがどれ程怖いものか、セイランはわかるかい?」
「……」
「表と裏の感情をぶつけられて、私の心は、汚れてしまったよ」
誰かを傷つける前に、居なくなった方が良い。
これ以上負の感情を向けられると、今度こそ力で解決してしまう。
そうなったら、爺ちゃんに顔向け出来ない。
リベッカは完全に部外者だ。なのに私を敵視するのは、家の影響もあると思う。ラミアライ侯爵家は、軍関係の繋がりが強い家だから……エリスタが気に食わないんだろうね。
エリスタは他の領土を手伝わないから。まぁ手伝う余裕が無いだけなんだけれど……
「ルクナ……私、どうしたら良いかな……好きな人を守れない自分が嫌になる」
「考えてばかりじゃ、立ち止まってしまうよ。おいでセイラン、ギュッてしてあげる」
仕方がないから慰めてあげよう。私が慰められる立場ではあるけれど……セイランを手招きして、ソファーでギュッと抱きしめると、堰を切ったように泣き出した。
「ごめんね……私、あなたを好きになってから、弱くなった気がする」
「みんな心は脆い。私なんか辛い事があったら力で解決してしまいそうになる」
「ルクナは、凄いよ。誰も傷付けないし私が嫌っていた時も私を嫌いにならないし」
「ありがと。そんな事を言ってくれるのはセイランだけだ。君を好きで良かったよ」
「ぅ……私も、好きだよ」
「王都に来る時は連絡するから、ここで会おうね」
「……毎日会いたい」
「今は難しい。今の内にやらなければいけない事があるんだ」
「……教えて」
「後二、三年でルナード・エリスタは平民になる。その前に出来るだけ迷宮を攻略してやりたいんだ」
悪あがきってやつだね。
迷宮のお宝で貯金も出来るし、迷宮の核で強くもなれるから将来の為に今頑張らないといけない。
「私、何も知らない……あの、週末……エリスタに行きたい」
「良いけれど、泊まりになるよ?」
「うん、なんとかする。お父様を説得するから……駄目なら勝手に行く」
「ははは、ルナード・エリスタはその内暗殺されるかもね。あっ、エルリンちゃんの家に泊まるって言えば大丈夫かも。マクガレフ家は有名だから」
私のお弁当を見ていたニンジャ精霊に目配せすると、首を傾げてこれ食べたいと指を差してきた。精霊ってご飯食べられるの?
うんと頷くと、ぱぁっと笑って手掴みでおかずを食べられた。美味しそうに頬に手をやって……可愛いな。
「……言ってみる。ルクナ……あの、あなたのおかずが、消えた」
「今精霊が来ているんだ。ねえ、姿を見せてあげて」
『んー? 駄目ってママに言われてるの』
「シルフィードに私がお願いしたからって言えば良いよ。髪飾りあげるね」
『ほんとっ? やったー!』
「うわっ! 本当に居た!」
ポンっと現れたニンジャの幼女にセイランが驚き、おいでおいでするとくっ付いてきた。ひんやりして気持ちいい……癒される。
「お名前なぁに?」
『無いよー。大精霊にならないと名前は貰えないの』
「そっかぁ。じゃあ私が名付けたら駄目なんだね」
『名付けてくれるなら、力が増すから…早く大精霊になれるの』
「へぇー。名前は……カエデちゃん、どう?」
『あっ、凄く力が増した……あ、ありがとう』
なんか魔力がごっそり減ったな……ちょっと成長したぞ。
私と同い年くらいになった……
「ねぇルクナ……成長、したよね?」
「そうだねー。私の魔力で大きくなったみたい……ねぇねぇカエデちゃん、お友達になって?」
『うんっ! ルクナと友達っ!』
可愛い。
友達が増えた…やった……今日学院に来て良かった……
そうか、私はカエデちゃんと友達になる為に学院に来たんだ。
代償はリベッカ・ラミアライからの敵意。うん、良い感じに釣り合うんじゃない?
いや代償ってなんだよ、友達作るのこんなに大変なの私だけじゃね?




