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精霊の友として  作者: 北杜
四章 男爵家使用人編
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22 最後の夜と別れ

執筆中の文章が一部消えた……。物書きが一度は通る試練か。

キツイわ~。


用事が済んだと思ってエイルド様達が居る食堂に行こうとしたが執務室のドアが開き、クレイン様が顔を出した。


「トルク、入ってくれ」


……お茶会はまだ先だな。執務室に入り中に居る人達を見渡す。伯爵様とクレイン様、レオナルド様の他数名、伯爵家で見た事ある騎士の人達だ。


「トルク、皆に紹介するからこっちに来なさい」


場違いと思うが伯爵様に言われたとおりの場所に移動した。


「今日、騎爵位を受けた騎士トルクだ。そして回復魔法の使い手でもある。こやつをバルム砦に向かわせ怪我人の治療にあたらせる」


伯爵様が皆にいうが。


「よろしいでしょうか?子供が回復魔法を使えるとは思えないのですが……」

「それについては私が保証しよう。私の目の前でトルクは妻の怪我を治してくれた」

「しかしですね……」


クレイン様が皆に言うが子供が回復魔法を使うなんてありえないからな。あまりやりたくはないが使える事を実行した方が良いな。

伯爵様の所に行ってナイフのような刃物を借りよう。刃物の類は食堂に入る前に預けてきたからな。


「伯爵様、回復魔法の実践をしますから刃物を貸してください」


机にあるナイフみたいな刃物を伯爵様の返事を聞かず許可なく借りて腕を軽く切りつける。腕の皮を薄く切って血が出てきた。

……ちょっと痛い。


「トルク!いきなり何をしている!」

「気でも狂ったか!」


酷い言われようだな。腕から血が出ている所に回復魔法を使って傷を癒した。


「……トルク、前もって言ってから実行してくれ。この様にトルクは怪我を治すことが出来る。回復魔法の使い手を砦で怪我人を治療させて、戦死者や怪我人を減らし、治療費等も減らせる」

「回復魔法の使い手は王族や貴族院に伝えなければいけません」

「王都の学校卒業生又は在学中の回復魔法の使い手は伝えなければならないな。トルクはまだ学校に行っていない未成年だ」

「他の貴族達から責められますぞ!」

「その程度の苦情で砦の戦死者が減らせるのなら問題ない!」

「貴族院に説明を求められます!どうするのですか?」

「私が説明をする。お前達は私が決めた事に反論できないと言えばよい!」

「子供に騎爵位を持たせて周りから苦情がきますぞ?」

「回復魔法が使える子供がいるなら連れて来い。私の部下にして騎爵位をやる」

「王国の者達から狙われる可能性があります!」

「そのためにトルクには部下をつける!」

「砦でのトルクの地位は?」

「アーノルドの直属の部下にする」

「他の者達が不満に思うでしょう」

「それ相応の技術や魔法を持ってから文句を言え!」


……長くなりそうだな。

オレが回復魔法が使えるから、その扱いが大変なようだ。噂になって王都に行ったときは厄介事が待ってそうだ。

それ以前に砦で厄介事が待ってそうだけど……。

バルム砦や王都では目立たないように動こう。それが良い。

これからはモブのように生きるのだ。物語の主人公の近くにいる脇役ではなく、一般人其の一として遠く離れたところで幸せに暮らすのだ!

そして綺麗な嫁さんをもらって静かに幸せに暮らす……あれ?そういえばオレってポアラ様と婚約してたっけ?

まだ有効かな?母親からは嫌なら結婚しなくていいって言われたけど、周りというかアンジェ様が凄く乗り気なんだよね。

ポアラ様と結婚ね~。無茶な事を言われながら生活する毎日しか想像できない。日常生活で魔法の的になったり、ギルド設立のために色んな事を言われたり、雑務全般がオレの仕事になりそう……。

……婚約を保留できないかな。もう少し大人になってから考えよう。

中の人もそう言っている。結婚は人生の墓場だと!

しかしクレイン様やレオナルド様やアンジェ様達の事を考えると……。

三人ともすごく乗り気だからな……。

将来、ポアラ様と結婚してエイルド様達の我儘を聞きながら生活する。

……今と変わらないな。やるべき事が増えて責任が多くなる事くらいか。別に問題ないな。

しかしこの年齢で将来が決まるのは勿体ない気がする。

優雅な独身生活を過ごせないのは我儘だろうか?

この世界にも大人の遊びもあるだろうし、少しくらいは羽目を外しても良いのではないか?

成人したらいきなり結婚という訳ではないはずだから少しくらいは遊べるかもしれない。

今度王都に行くときに少し調べてみようかな。


「どうした?トルク。ボーとして?」

「何でもありません」


大人の遊びに行く事を考えていたなんていえないよ。とりあえず話は終わったようだな。


「トルクは伯爵家の騎士として砦に行ってもらう事は決定事項だ。そしてトルクの下で働く部下達も決まっている」

「サムデイル様、トルク殿が砦に行く事はわかりました。しかし従者はどうしますか?」


従者?なにそれ?

伯爵様がクレイン様とレオナルド様を見る。二人も失念したような顔をしている。


「……トルクは子供だから従者は砦に行ってからで良いだろう。皆もそれで良いな!」


伯爵様が強制的に従者の会話を終わらせた。レオナルド様から従者の話を後で聞くか。


「各員、これからバルム領は極めて厳しい立場になるが、皆の意欲に期待する。頼んだぞ!」


伯爵様の言葉に姿勢を正し礼をする。オレも遅れて礼をした。

それから伯爵様、クレイン様、レオナルド様とオレが部屋に残る。伯爵様が椅子に座り深い深呼吸をして独り言のように言った。


「全く、この二日間で十日分くらいの仕事をしたぞ」

「お疲れ様です。義父様。私も同じ心境です」

「私は二十日分くらい仕事をした気分です」


オレなんか仕事はしていないが睡眠不足や、お偉いさん達に呼ばれて大変でした。

お茶会も中途半端で、エイルド様達の表情が怖かったよな。オレが出て行った後のお茶会はどうなったのやら。


「すいません、従者ってなんですか?初めて聞いたのですが?」


レオナルド様に聞くと騎士には雑務を任せる小間使いのような者がついてくるらしい。

騎士の食事を用意したり、衣服の用意や洗濯、部屋の清掃、様々な雑務を任せる者のようだ。貴族の子弟や騎士見習いが従者になる事が多いそうだ。

でもレオナルド様は従者はいないよね。


「私の場合は特に必要がなかったからな。男爵家にいると雑務は他の者がしてくれたからな。強いて言うならトルクが私の従者に近い」


いつの間にか従者になっていたのか。オレの仕事量が半端ねーと思っていたら使用人と料理人と子供のお守と従者をやっていたのか。


「トルク、私達は明日には王都に出発する。少しの間は皆と会えないから後はエイルド達と会ってくると良い」

「……出来れば皆様も一緒に来てくれたら幸いです。エイルド様達とのお茶会の最中に呼ばれて、戻るのが少し……」


怖いとです。ネーファ様やアンジェ様の目が笑っていない笑顔。エイルド様達の怒った表情。

騎士として、下の者としては絶対に言ってはいけない言葉だとおもうが、親や祖父がいれば少しは怖さが和らぐと思う。盾や身代わりとは断じて考えていない……。


「……すまぬが私達はまだ話す事がある。先にアンジェ達に会ってくるがよい」

「……わかりました」


やはり火中の栗を拾う事はしないか……。部屋から出ようとするとノック音と執事長の声が聞こえたので対応してドアを開けた。


「旦那様、食堂で皆様がお待ちです。クレイン様もレオナルド様もお茶会をどうぞ!勿論トルク殿も一緒ですよ。アンジェ様達がお待ちです」


皆さま引きつった顔をして部屋を出た。多分オレもみんなと同じ引きつった顔をしていると思う。

執事長の案内で食堂に入ると香ばしい匂いがする。


「全く、早く席に座って!みんなが来るまで待っていたのだから!」


アンジェ様がオレ達に席に座るように急がす。


「トルクが来るまで待つってエイルドが言うから私達も待っていたのよ」

「お婆様!」


エイルド様がネーファ様の言葉に顔を赤くしてオレを見る。


「トルクを待っていたわけじゃないぞ!お爺様とお父様達と一緒に食べようと思って待っていただけです!」

「あら?そうだったかしら。エイルドが言ったからポアラもトルクが戻るまで待っているって言ったのよ」

「お母様、あまりエイルド達で遊ばないでください。さて、みんな揃ったから少し早い夕食にしましょう」


エイルド様達がお茶会を中断してみんなが来るのを待っているなんて……。明日は雨かな?

それともネーファ様が冗談を言っているのだろうか?母親はいつも通りニッコリ笑っている。

いつの間にか侍女さん達が温かい食事を運んできた。

献立はハンバーグにギョウザに天ぷらの和洋中だ。


「さあ、食事をはじめましょう」


アンジェ様の声で食事が始まる。

当分はみんなとは夕食出来ないから寂しい反面、エイルド様達がオレが来るまで食事を待ってくれた事に心が温かい気持ちになる。

食事中に伯爵様とクレイン様がエイルドに学校での注意点や友人の作り方を、伯爵夫人とアンジェ様と母親もポアラ様に令嬢としての作法やお茶会の事などを話している。

どちらかと言うとエイルド様達の会話の方が興味あるのでそちらを聞いている。


「領主の子供達の方が仲良くなりやすい。王都の貴族達は私達の事を辺境の田舎者としか思っていないからな。仲良くするのなら王都に住んでいる子供達以外の子だな」

「まあ、王都の空気に染まっていない子供達もいると思うが多くはないな」

「しかし王宮騎士を目指すなら王都の貴族達と仲良くした方が良い」

「義父上、紹介できる子供はいますか?」

「……数人はいるかもしれない。だがエイルドが自分で探さなくてはいけない。その程度が出来なくて王宮騎士などなれん」

「私の同年代の者の子がいるかもしれないな。王都に行ったら少し探してみるか……」

「なんにせよ、王都の貴族達は下手に権力を持っているからな」

「私の在学中は王都に住んでいる公爵と領地持ちの公爵の御子息がいました。派閥争いが大変でした」

「今年は王族が入学する予定だ。どうなる事やら」

「その王族の目に留まったら王宮騎士になる事は出来ますか?」

「……可能性はある」

「で、では!」

「だが他の貴族達から何を言われるか……。しかし王族の目に留まったら側近くらいはなれるだろう」

「王族の側近……。なれるでしょうか?」

「わからん。だが学問や剣術の腕が上位なら目に留まるかもしれん。王族も側近を探しているのなら可能性はある」


そして話に参加していないドイル様とマリーは。


「これ美味しいね!」

「ドイル様、こっちも美味しいです!」

「あ、本当だ!美味しい!」


そんな感じで夕食が終わり伯爵様とクレイン様達は残りの仕事をするとの事で執務室に戻り、オレ達は。


「今日はみんな一緒に寝ましょう」


アンジェ様の言葉で何故かオレとマリーは男爵一家の寝室で寝る事になった。

母親曰く。


「アンジェ様が子供達に幸せな思い出を作りたいのでしょう。トルクもマリーもエイルド様達に迷惑を掛けないようにね」

「リリアさんも一緒に寝ましょう!」


母親も強制参加決定。

寝る前にトランプやすごろくで遊び、枕投げをしようとしたエイルド様がアンジェ様に怒られ、ベッドを二つ合わせて子供達だけで寝る。

今日も大変な一日だったが記憶に残る一日なのは間違いない。

オレは今日の日は一生忘れる事はないだろう。




そして翌日。エイルド様達が王都に向かう。


「トルク、早く王都に来いよ」

「はい、エイルド様」

「頑張ってね、トルク」

「ありがとうございます。ドイル様」

「トルク、待っているから」

「はい、ポアラ様」


……なにを待っているか詳しく教えてほしい。本当にどんな会話をしたんだ?


「怪我には気をつけなさい」

「大丈夫です。怪我したら回復魔法で治します。アンジェ様」

「……そういう意味じゃないのだけど。体調を崩さないようにね」


ジョークのつもりだったけど面白くなかったようだ。


「お兄ちゃん、先に王都に行ってくるね。リリアおばさんの事は任せて!」

「頼んだよ、マリー」

「トルク無事に帰ってきてね」

「も、勿論、ぶ、無事に、か、帰って、くる、よ。か、母さん」


母親の抱きしめる力が強い。上手く喋れない。そろそろ中身が出そう。呼吸が……。


「トルク、砦では何か起きるかわからない。お前の部下達は戦争経験者だ。何かあったら皆に聞くように」

「わ、わかりました。クレイン様」


呼吸が戻った。


「トルク、クレイン様や私に手紙を送るように。砦の状況や帝国兵達の様子等を手紙に書いて送ってほしい」

「母親やエイルド様達にも手紙を送っていいでしょうか?レオナルド様」

「許可するが、機密情報は送るなよ」

「機密情報なんて下っ端の私が知る訳ないですよ」

「……そう信じたい」


オレも機密情報なんて知りたくないよ。


「クレイン。後の事は頼むぞ」

「義父上こそ、ご武運を」


護衛を連れてクレイン様達が乗る馬車が出発する。

窓から顔を出してエイルド様やドイル様が手を振っている。馬車が見えなくなるまでオレも手を振った。

……半年はみんなに会えないのか。少し寂しいな……。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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