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精霊の友として  作者: 北杜
四章 男爵家使用人編
80/276

12 使用人トルクの一日①

PV 15万アクセス突破。

ユニーク 26,000突破。

皆様、ありがとうございます。

お久しぶりです。トルクです。

ファルラさんが男爵家に来てから書類整理が少し楽になりました。

男爵領や農園の書類や領地の復興、王国や帝国の情報の整理、農園のトランプ作りの進捗などいろいろな書類をオレとレオナルド様とファルラさんの三人で頑張っています。

オレはレオナルド様にファルラさんの事情を説明して推薦したらすぐに承諾をしてくれたので、ファルラさんには男爵家の事務仕事を手伝ってもらっています。

三人で事務仕事をしている時に積み木の話題になり農園でも積み木を作る事になりました。レオナルド様からはため息をつかれて、ファルラさんからは苦笑い。オレは悪い事をしたのか?

今では農園の皆にトランプと積み木を作ってもらう案件はファルラさんがやっています。書類も増えたけど仕事する人間が一人増えるだけでも楽になるものです。


「トルク君!この書類もお願い」

「トルク!この書類を頼む」


……書類整理は減ったけど雑務が増えた気がします。でも人数が増えて三人になったから少しは楽だと思いたい。


「トルク君!この計算もお願い」

「トルク!この書類を確認後、クレイン様に届けてくれ」


……仕事が楽になりました。絶対に仕事が楽になりました。


「レオナルド様。ファルラさんが増えて仕事が楽になりましたか?」

「勿論、楽になったぞ。仕事の一部をファルラに任せる事が出来るからな」

「その割には書類の量が増えた様な気がします」

「新しい案件が増えたからな。そのせいだろう。私が担当する案件は減ったな」

「それで書類が増えたんですか?」

「私の仕事量は減ったな。ファルラが来てくれて助かっている」


……オレの仕事量が増えたのか?レオナルド様の雑務以外にもファルラさんの雑務が増えたのか。


「レオナルド様やクレイン様から将来、男爵領に商店を作って良いって許可を貰ったのよ。その為に頑張ってお金を稼がないとね」

「ファルラにはトランプや積み木の製造から販売までやってもらうつもりだからな。他にも頼むつもりだ」

「わかりました。頑張ります。絶対に男爵家御用達のお店を作るわよ」


ファルラさん頑張っているな。オレも負けずに仕事するか。


「ファルラさん、書類出来たので確認をお願いします。レオナルド様、今から書類をクレイン様に届けに行きます」

「ついでにこの書類もクレイン様に届けてくれ」


レオナルド様から書類を受け取る。なになに?エイルド様・トルク教育報告書。

……書類の内容を見て良い書類なのだろうか?オレの事も書いてあるから良いよね。


「その書類は見ても構わない」


どれどれ。報告書を見る。なんだこれは?

エイルド様。剣術◎、学力〇、戦術◎、礼儀作法△、ダンス△。

トルク。剣術〇、学力◎、戦術〇、礼儀作法〇、ダンス〇。

……なにこれ?良くわからんが二重丸が付いているのが良い成績なのだろうか?


「王都の学校の成績表を基準として作成したものだ。それから名前付きで順番も発表される事もある。×を取ったら退学になるからトルクも注意しろよ」

「◎は良好で〇は平均レベル、△は頑張りましょう、×は退学レベルですか?」

「その通りだ。最優秀は花丸だな」


……花丸って低学年の子供か?


「おっともう昼か……。トルクの仕事は終わりだな。クレイン様に書類を届けたらもういいぞ。ご苦労だった」

「ではお先に失礼します」

「トルク君、手伝ってくれてありがとう。それからここに置いてあったハンカチしらない?」

「いえ、知りませんよ」

「うーん、何処に置いたかしら?」


ファルラさんの疑問を流してオレは部屋を出た。




クレイン様の書斎に行く途中にマーナさんとミーナさんに会った。どうやら廊下の掃除をしているようだ。


「お疲れ様です。マーナさん、ミーナさん」

「トルク君、お疲れ様」

「お疲れ様、トルクさん」


マーナさんはオレの事は君付けで呼ぶがミーナさんはさん付けでオレを呼ぶ。ミーナさんの方が年上なのだから君付けで呼んでも良いと思うのだが。


「お二人は掃除ですか?」

「やっと終わったわ。広い屋敷の廊下掃除は大変ね」

「頑張りました」


明るく元気な姉と控えめな妹。二人は故郷の村でも苦労して賊に両親を殺され攫われて心に傷を負った。クララさんの底なしの明るさで二人とも他の人と話せるようになった。最初は女性にしか話せなくて男性が近づくと二人とも怯えていた。クララさんを筆頭に侍女達が頑張って二人を守り続けてマーナさんは直ぐに立ち直ったが、ミーナさんは立ち直るのが少し遅かった。

心無い人は立ち直る事が出来ないミーナさんの陰口を言っていたがクララさんが説教したらしい。物理的な説教じゃないよね。


「伯爵家はこれ以上のお屋敷ですから掃除が大変ですよ」

「でも他にも侍女達がいるでしょう?私達だけじゃないから大丈夫よ」

「掃除は得意だから私は平気です」


明るく言うマーナさん、控えめに言うミーナさん二人は伯爵家の侍女になる事に決まっている。レオナルド様の情報によれば二人の両親を知っている人が伯爵家に居るらしい。それに故郷の村人達がいる農園がある男爵家に居るよりも、知人が居る伯爵家で生活した方が良いと判断された。

少し前に農園に住んでいる故郷の村人達が二人の悪い噂を流していたらしい。彼女達だけではなく死んだ両親の事まで悪く言って。

農園で生活している村人達が男爵家に住んでいる二人が気に入らなかったから有る事無い事言いふらしていたが、クララさんが農園に突撃して噂を流していた人達に角材を持って説教をしたらしい。

その結果、農園での二人の噂は収まったらしいが今度は暴力を振るわれるかもしれないから伯爵家に行く事を勧められた。

マーナさんとミーナさんはクララさんを慕って男爵家で侍女を続けたかったが、クララさんが二人を説得して伯爵家に行く事を決めたらしい。


「もうすぐ伯爵領に行く事になりますが、準備は出来ているんですか?」

「私達の荷物は少ないから大丈夫よ」

「クララさんから旅に必要な物も教えてもらっていますから」


伯爵家に行く事を二人は明るく楽しみだと言っている。二人は伯爵家に行く事でクララさんと別れるのが嫌だったかようだが、今では楽しみにしている。

だが伯爵家に行かないでほしいと思っている人達もいる。その人達は男爵家で働いている未婚の男達だ。

実を言うとこの二人は男爵家の男共に人気がある。レオナルド様やクララさんの命令で男達は近づけないから遠くで気づかれない様に二人をそっと見ている。二人に話を出来る男性はクレイン様とレオナルド様とダミアンさんとオレくらいだ。

クレイン様とレオナルド様とダミアンさんはクララさんを通して話しているがオレは普通に二人と会話する。そのせいで食事時に男共から二人の事を聞かれている。

今は男達と何とか話せるが彼女達は知らない男性と話すことはまだ抵抗があるらしい。慣れさせるために男性と話をして多少は良くなったと思う。その結果、男達に保護欲が生まれ彼女達ともっと話したいと言っている。

明るく同性に対して綺麗な笑顔のマーナさん。儚げな表情で同性に対して優しい笑顔のミーナさん。

そして普通に話せるオレにいろいろ彼女たちの事を聞かれている。好きな食べ物は何だ?趣味は?好きな異性の好みは?知るか!自分で聞け。聞いて玉砕しろ。そしてクララさんに説教受けろ。オレは忙しいんだぞ。

そんな彼女達だが伯爵家に行っても大丈夫かな?クララさんは伯爵領には居ないし誰も男達の餌食にならないか心配なんだが。


「私達は次の場所に向かうわ。トルク君またね」

「では失礼します」

「二人とも頑張ってくださいね」


笑顔で別れてオレもクレイン様の所に行く。彼女達の事も伯爵様に言っていた方が良いかな?でもオレの仕事じゃないからレオナルド様に言っておくか。




「クレイン様、失礼します。書類を届けに来ました」

「トルクか、書類を見せてくれ」


オレはクレイン様に書類を渡してその場に待機する。書類に目を通してクレイン様はオレに言った。


「トルクは王都に行く準備は出来たか?」


エイルド様とポアラ様は来年で十歳になるから王都の学校に入学して通う間はオレと母親とマリーも王都で住むことになっている。

クレイン様とアンジェ様も王都に用事があるので今回は男爵家総出で王都に行く事になった。最初にアンジェ様の実家のバルム伯爵家に行って伯爵様達と一緒に王都に向かう予定になっている。

オレ達も王都に行く準備はだいたい出来ている。オレは私物が少ないし、足りない物があるなら王都で探すから問題ない。母親やマリーも私物が少なかったがアンジェ様が色々と持たせている。

そして母親は王都では有名人なので少し変装をするようだ。どんな変装なのかオレは知らない。アンジェ様が嬉々として変装を手伝っているらしい。


「私の準備は済んでいますが、母親とマリーが少し……」

「……アンジェは凝るからな」


オレの言っている事がわかる様で苦笑いをしている。クレイン様は母親の変装姿を知っているのかな?


「母親の変装姿を知っているのですか?」

「いや、私も知らない。しかしアンジェの変装姿を知っているからな。アンジェが学生時代に変装してな……」


……苦笑いをしてため息をするクレイン様。嫌な記憶なんだろうな。王都の学校で何かあったんだな。青春を思い出しているにしては表情が明るくない。ひどい目に遭ったのだな。


「それはそうと、ポアラとはどうだ?」

「ポアラ様ですか?」

「そうだ!上手くやっているか?」


……ポアラ様と婚約をして結構経ったが特に変化はない。マリーと一緒に三人で魔法の勉強をしたり、アンジェ様と母親と一緒にお茶会に参加したり、礼儀作法の相手をしたり、ダンスのパートナーになったり、そんなに変化はない。そういえば。


「二人でお茶会をしたときにギルドの造り方を一緒に考えてましたね。ポアラ様がギルド長で私が雑務全般をする計画になっています」

「……なにか他の会話はなかったのか?もっと色気のある様な話はないのか?」

「子供に無茶言わないでください」

「王都での生活とか、学校での事とか話さないのか?」

「それはアンジェ様と母親が一緒のお茶会で会話済みです」


アンジェ様主催のお茶会では王都や学校の話やアンジェ様や母親の経験談を聞いたりしている。その内容にはクレイン様の青春時代も入っている。


「ポアラの考えが変わらないと結婚は難しいかもしれん」

「ポアラ様も将来、私以外の人を好きになるかもしれません。その場合は身を引こうと思います」


王都ではポアラ様に好きな人が出来るかもしれないからな。オレよりも良い人との出会いがあるかもしれない。オレの場合は中の人の年齢が二回りも違うからな。ポアラ様は恋愛の対象にはならない。


「その場合はポアラの夢が叶えられないぞ?」

「ポアラ様の夢は男爵領でなくても良いのではないのですか?他の領地でも可能だと思いますが」


オレとの結婚でギルドを造る許可が貰える。でも他の領地の人間と結婚して許可を貰えば問題ないと思ったのは婚約後だ。この件をクレイン様達に言ったらポアラ様には言わない様にと口止めをされた。

ポアラ様の事だからその内に考え付くと思うが、クレイン様の命令だから言わないでおこう。


「やはりトルクに頑張ってもらうしかないか。トルク、命令だ!王都滞在中にポアラに好かれるように」

「……出来る命令と、出来ない命令があります」

「……どうすれば出来る?」


オレが聞きたいわ!


「私に聞くよりも経験豊富な方に聞いた方が良いと思います」


クレイン様を見てオレは言う。


「クレイン様の経験談を教えてください。アンジェ様との馴れ初めとかを教えてください」


表情が引きつるクレイン様。


「王都学校のアンジェ様との出会いから結婚までの馴れ初めを」

「……それは、……ちょっと」

「経験談をぜひ教えてください。レオナルド様も呼んで好かれ方を一緒に考えましょう」

「待て!レオナルドを呼ぶ以前に待て。私の経験談よりも他の方法がないのか?」

「……経験談はアンジェ様に聞くとして、他の方法ですか」


考えるが良い案は思いつかない。前世なら子供に好かれる方法ならプレゼントだろうな?でも今世は何が良いんだろう?


「とりあえずは頑張ってポアラの心を射止めてくれ」

「……皆様と一致団結して前向きに善処します」


皆の協力が必要ですが表面上は積極的に対応します。




クレイン様の執務室を出て次の仕事に向かう。

その前に昼飯でも食べるか。オレは食堂に向かう最中にカミーラさんと会った。


「お疲れ様です、カミーラさんも今から昼食ですか?」

「お疲れ様、トルク君。一緒に昼食でもどう?」


赤色の髪が似合う綺麗な女性だ。ニッコリ笑ってオレを昼食デートに誘ってくれた。


「ご一緒します。今日の昼食は何でしょうね」

「あら、昼食の献立は知らないの?」

「今日は朝に厨房の手伝いはしましたけど、昼の仕込みはしていませんから。何が出るかは知りません」

「そうなの。昼食は何かしらね。私はピザがいいわ。あの熱々のチーズがたまらないわ」

「オレは……」

「そういえばトルク君は王都に行く準備は出来たの?」

「出来ましたよ」

「私も王都に行ってみたいけど、クララさんやクレイン様に恩があるから我慢するわ。でも行ってみたいわね。私は村から出た事が無かったから男爵家や町でも戸惑っているんだもの。これで王都なんかに行ったら混乱するかもしれないわ。王都って男爵領よりも多くの人が居るし、物も多いんでしょう?どんな物があるのかしら?料理もどんな料理があるのかしら?楽しみね。それに……」


カミーラさんは良く喋る。本当に喋る。相槌しながら聞くが凄く喋る人だ。最初会ったときは彼女がみんなの代表として喋っていてオレも対応していたが、男爵家に来て仕事に慣れ、人間関係にも慣れたら彼女は良く喋るようになった。ここまで喋るとは最初会った時には想像していなかった。


「そういえば、この前ね。リリア様とマリーちゃんと一緒に食事をしてね。貴方の事を言っていたわよ。仕事の事や生活の事なんだけどトルク君は……」


カミーラさんは男爵家で侍女の仕事をしているが侍女さん達やエリーさんやマリー、それからオレの母親とも仲が良い。前に町で買い物をしたときに母親と仲良くなったようだ。その結果、オレの情報がカミーラさん経由で母親に伝わっている。それが凄く困っている。マリーなら言い包める事が出来たがカミーラさん経由で直接母親に話が言っているから、オレは心配しない様に説得しているんだけど、オレの無茶っぷりを知っている母親はあまり信じていない。


「この前、農園にお使いで行った時だけど男性の視線がまだ気になるわね。レオナルド様やキャサリンさんなら大丈夫なんだけど、まだ男性の視線が気になるわ」

「カミーラさんは美人さんですからね。貴方とお近づきになりたいって人は多いですよ」


カミーラさんも男性に人気がある。ナイスボディの美人だから男爵家や農園の未婚の男性からも人気だ。だから良く話すオレにカミーラさんの好みを聞いてくる男共が五月蠅い。そして男共の嫉妬の視線もウザい。

二人で食堂に入った矢先、食堂に居た男共の視線がウザい。オレは視線を無視してカミーラさんと一緒にテーブルに座った。


「食事をとってきますから、待っていてください」

「ありがとう」


今日の昼食は何かな?台所ではモータルさんが料理を出している。


「モータルさん、今日の昼食は何ですか?」

「やあ!トルク殿。今日はピザだ」


カミーラさんの好きな昼食になったな。


「オレとカミーラさんの二人分お願いします」

「少し待ってくれ。テーブルに持っていくから」

「分かりました」


注文をしてテーブルに戻ったらエリーさんとマリーがテーブルに座っていた。


「二人もお招きしたの。四人で食べましょう」

「追加で注文しますね」


再度、モータルさんに注文をしてテーブルに座った。テーブルではカミーラさんとエリーさんが話している。話題は新婚生活だな。イーズはちゃんと出来ているのかな?話を聞いている限りでは二人ともうまく新婚生活をしているようだが、イーズの休みが無くて二人でデート出来ないらしい。

休み無しか……。イーズも大変だな。伯爵家に戻ったら休みが出るって言っているし。頑張れ!

オレとマリーは二人の会話を聞いているがマリーは意味が解るのだろうが?子供にはきわどい会話もあるんだけど大丈夫だろう。マリーに聞かれたら女性二人に助けてもらおう。

そんな事を考えているとイーズが昼食のピザを持ってきた。


「お待たせ、昼食だよ。僕も一緒に食べさせてもらうよ」


……タイミング悪いぞ、イーズ。今さっきまでエリーさんがお前の愚痴を言っていたんだぞ。


「ありがとう、イーズ。それでね、さっきカミーラさんと話していたけど今度町に行ってデートしよう」

「え?」

「休みを合わせて町に行こうよ。このところ昼に休みって無いでしょう。お日様の下で二人でゆっくり遊びましょう」

「そうよ。仕事も大切だけど、休みをとらないと体を壊すわよ。新婚さんをほっといて仕事ばかりじゃ可哀そうよ」

「エリーお姉さんが可哀そう」


マリーよ!大人の会話に口を出すな。イーズよ!オレに助けを求めるな。オレは子供だ。


「そうだね、休みを申請してみるよ」

「じゃあ、私も申請するね。どこに行こうかしら」

「この前、私達も行ったけど綺麗なスカーフが売っていたお店があったわ」

「マリーちゃんに聞いたお店かしら?確かトルク君が女装した店ね」


マリー、オレの黒歴史を周りに言うな。イーズが憐みの目でオレを見るじゃないか。


「……イーズ。女性七人、店員三人に囲まれて拒否する事が出来ると思うか?」

「……無理だよね」

「だったらこれ以上蒸し返さないでくれ」


人生初の女装記念写真が無いだけましだろう。この世界にスマホや写真が無い事を心から感謝した日だった。


「こら!そこの男二人何をコソコソ話しているの?」


カミーラさんがオレ達の話している内容を聞きにくる。どうしてこんな時の女性陣は団結するのだろうか?オレは話をそらす為に前もって考えていた事を話す。


「イーズにデートプランを教えていました」

「ちょ、ちょっとトルク」

「男爵領も良いけど伯爵領も捨てがたいと思うから、エリーさんにお勧めのプランをイーズに教えていたよ」

「そうなの!どんな内容かしら?」


エリーさんが乗ってくる。カミーラさんもマリーも興味が出たな。


「それは当日までのお楽しみです」

「楽しみね。どんな服を着て行こうかしら?」

「じゃあ、今度買い物に行かない?」

「マリーも行きたい!」


よし!話はそれた。生贄になったイーズだが「エリーさんの為の料理を作るんだ。教えてやるからモノにしろよ」と言った。イーズの表情が明るくなる。これで大丈夫だろう。

さてと昼食も食べ終わったから次の仕事に取り掛かるか。


「そう言えばトルク君。この前、貴方が掃除をしていた所に私の服が落ちてたらしいわ?何かした?」


何それ?オレは知らないぞ?


「知りませんよ?エリーさん達と一緒に掃除していたけど、服はありませんでしたよ」


エリーさんとマリーと一緒に掃除したけど服は落ちてなかった。カミーラさんが二人に聞くが服は落ちていないと言っている。

首を傾げつつ、みんな仕事に取り掛かった。




昼食後、エイルド様とドイル様と一緒に鍛錬場で訓練をする。

エイルド様の成長は著しくオレも最近は負けっぱなしだ。純粋な剣術では十回中九回負け、魔法無しの何でもありなら十回中七回負け、魔法あり何でもありなら十回中五回負け。

今では模擬戦の相手はレオナルド様やゴランさん達としている。純粋な剣術勝負ではオレでは歯が立たないからな。

ドイル様は基礎鍛錬だ。素振りから始まり防御の練習、そして模擬戦。その模擬戦にはオレが相手をしている。理由は「卑怯な手を使って慣れさせろ」だ。

なんか酷い理由だ。確かに大人相手に色んな方法で戦ったが子供相手に卑怯な手を使って勝つなんて心が痛いぞ。泣きそうなドイル様を見ると負けてしまいそうなんだけど。


「トルク、口に含んだ水を顔にかけるのは反則だよ」


全くもってその通りだ。オレもやりたくないがレオナルド様の命令なんだよ。


「トルク得意の水かけ作戦か」

「あれは意表を突くよな」

「オレは足の脛狙いだな」

「それよりも関節技だな」

「いきなり剣を投げて落とし穴に落下の方がきついぞ」

「やはり一番は土を顔に投げる目つぶしだ。目に入ったら痛いし見えない」


周りの兵隊さんよ。冷静に分析しないでくれ。こっちはドイル様相手に心が痛む技を出しているんだぞ。その後、ドイル様相手に関節技をかけて負かせた。泣きそうになるドイル様……。


「ドイル!いい経験をしたな。次は対応するんだ。大丈夫だ!今度は水を避けられるだろう」

「エイルド兄様!分かりました。頑張ります」


……麗しい兄弟愛だ。そんな相手に水を顔に吹きかけたり、土を顔に投げたり、関節技をしかけたり……。心が汚れているのがわかる。今度心の洗濯をしよう。少しは綺麗になるかな?

休憩時間になりエイルド様にポアラ様の事を聞かれた。


「なあトルク。ポアラとはどうだ?婚約したんだろう?」


……どうだって言われてもな。


「トルクが僕の義理の兄になるなんて嬉しいな」


……まだ未定です。義理の兄になれるのかな?


「正直に言ってよくわかりません。ポアラ様に好かれているのかもわからないのです」


多分ポアラ様には好かれているだろうと思う。でもそれは便利な人間としてだ。個人として好かれてはいないだろう。

ポアラ様との結婚は医療ギルドを造るためだ。それだけの為にポアラ様はオレと婚約をした。それだけなのだ。他に感情は無いだろう。


「ポアラはトルクの事を好きだと思うぞ?」

「そうかもしれません。ですがポアラ様は私を好きではないと思っています」

「どうしてだ?」

「ポアラ様はギルドを造るために婚約したのです。それにポアラ様の好きの感情は家族愛とか親愛でしょう」

「違うの?」


エイルド様やドイル様は感情の違いがまだ分からないか。子供だから仕方がないか。


「王都では私よりも能力が高い人間もいるでしょう。その人を好きになるなら、親愛ではなく異性に抱く感情でしょう」


オレの予想ではポアラ様に婚約破棄される確率が高い。その場合はポアラ様が不利にならないだろうか。少し心配になってきた。今度母親に聞いてみよう。


「しかし、ポアラはトルクの事を好きだと思うぞ」

「僕もそう思う」


だからそれは違うってば!ポアラ様はオレを好いてはいないって!


「オレのカンだがポアラに好かれていると思うぞ」

「僕もそう思う」


……エイルド様のカンは当たるからな。でもポアラ様がオレを好いてる?無い無い。


「そういえばトルク。姉様にプレゼントとか渡した?」


なにそれ?プレゼント?


「婚約者だからプレゼントとか渡さないの?」

「そうだな。ポアラに贈り物を渡した方が良いだろう?」


プレゼントなんて全く思いつかなかった。どうしよう。年下のドイル様ですらこんな気遣いがあるのに。


「まさかポアラにプレゼントを渡していないのか」

「渡してません」

「トルク!姉様が可哀そうだよ」


ごもっともです。


「早めに渡した方が良いだろう。次のポアラとのお茶会は?」

「……鍛錬が終わったら次はポアラ様とお茶会です」

「……贈り物はあるのか?」

「この前、商店で買ったハンカチならあります」


どうしよう!さすがにハンカチはダメだろう。なにかポアラ様に渡すプレゼントはないか?

今から町に行って買ってくるか?駄目だ!時間が無い。

自分の物でプレゼントになるものは?私物にプレゼントになる物は無い。どうしよう?


「トルクの得意分野でプレゼントをあげたら?」


ドイル様!オレの得意分野って何?


「お茶会のお菓子を作って渡せばどうかな?」

「なるほど!トルクの料理か」


……お菓子は作れないんだよ。前世ではお菓子は買ってくるもので作るものではない。お菓子の作り方なんてクッキーくらいしか知らないぞ。お茶会で食べれるお菓子なんて思いつかないぞ?それに時間もない!何か他に方法なないのか!


「……菓子作りは時間がありません」

「時間を稼いでやるから急いで作ってこい!」

「僕も時間を稼ぐから頑張って!」


二人に怒られオレは急いで台所に向かう。時間は足りるか?イーズやモータルさんにも手伝ってもらおう。


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