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精霊の友として  作者: 北杜
四章 男爵家使用人編
78/276

10 料理人達と結婚式

一万字突破。過去最大の文字数です。

2/3 サブタイトル修正

伯爵家から男爵家に来ている料理人は三人いる。

友人のイーズ、イーズの父のモータルさん、それから三人目のカシムさん。

イーズは現在、農園で農園責任者のゴランさんの元で働いている。料理人がどうして農園で働いているのかと言うと「畑と向き合う事で料理人の心を取り戻す」なんて事を言っている。料理人の心構えの事か?そんな事よりも早く男爵家に帰って来てエリーさんを喜ばせろよ。

モータルさんは男爵家の料理長のデカルさんと一緒に料理を作っている。彼が一番料理を頑張っていて暇なときは料理の研究や農園で畑の見物やイーズと一緒に畑仕事をしている。

そして一番大変な事をしているのがカシムさん。料理を覚えて男爵家と伯爵家を行ったり来たりしている。

事の発端は伯爵家からの手紙だった。

オレがデカルさんやモータルさんと料理をしているとカシムさんが手紙を持って来た。


「バルム伯爵様から手紙が届いた。読んでくれ」


カシムさんから貰った手紙を読んでみる。なになに?歳を取って体調が悪くて硬い料理が食べられない。柔らかくて温かい料理はないか?もしくは新しい料理はないか?

柔らかくて温かい料理か……。よし茶碗蒸しを作ってみよう。


「なんて美味いんだ」

「温かくて柔らかい。卵を使っているから体にもいいな」

「この料理なら伯爵様も喜ばれるだろう」


オレは皆に作り方を教える。カシムさんは伯爵家の料理長に料理を教える為に伯爵家に戻った。その日の夕食に茶碗蒸が出ました。

数日後、カシムさんが男爵家に戻って来た。茶碗蒸しは好評だったと言っている。そして手紙を渡された。なになに「茶碗蒸しは友人も食べられて好評だった。他の知り合いが柔らかい肉が食べたいと言っている。新しい料理はないか?」柔らかい肉料理か……。肉の角煮はどうかな?


「肉が口で溶けるようだ」

「柔らかくて旨い。なんて味だ」

「この料理なら伯爵様も喜ばれるだろう」


オレは皆に作り方を教える。カシムさんは伯爵家の料理長に料理を教える為に伯爵家に戻った。その日の夕食に肉の角煮が出ました。

また数日後、カシムさんが男爵家に戻って来た。肉の角煮は好評だったと言っている。また手紙を渡された。なになに「角煮はとても好評だった。他の領地の友人がイモが多いから新しいイモ料理がほしいと言っている。新しい料理はないか?」イモってジャガイモの事だよね……。ポテチくらいしか思い出せない。蒸し器があるからイモを蒸すか。


「イモを蒸すとふっくらして美味いな」

「ポテチって料理も美味いな。酒のつまみになるんじゃないか?」

「この料理なら伯爵様も喜ばれるだろう」


オレは皆に作り方を教える。カシムさんは料理長に調理を教える為に伯爵家に戻った。その日の夕食にポテチと蒸したイモが出ました。

またまた数日後、カシムさんが男爵家に戻って来た。ポテチは好評だったと言っている。また手紙を渡された。なになに「ポテチと蒸したイモはとても好評だった。ただのイモから美味い料理が出来て友人も喜んでいた。そして違う派閥の奴らがケンカを売って来て料理勝負になった。課題の料理は誰も食べた事ない肉料理だ。火が通っているが生ではない肉料理を食べたと自慢されて、私はそのケンカを買った。「最高の肉料理を作ってやる。お前が食べた事のない料理を作ってやろう」と言ったので作ってくれ。火は通っているが生では無い、誰も食べた事ない肉料理だ。頼むから作ってくれ」か。手紙を他の皆に見せる。


「カシムさん、手紙の内容は知っている?」

「……知っている。無茶な注文なのは解るがバルム伯爵様も引けない事情があったらしい。何かないか?」

「生ではない焼いた肉料理だと?それも誰も食べた事が無い料理?そんな物どうすればいい?」

「角煮はどうだ?あれは蒸しているから大丈夫だろう」

「いや、角煮以外の料理だ。あそこまで怒っている伯爵様を見るのは何年ぶりだろうか。そのくらい今回の料理は大事だ」

「無理難題を突き付けられたな」

「全くだ」


よし、大きい肉を焼いて表面を切って中央の肉だけを使った肉料理はどうだ。後はソースを皿に盛る方法だな。


「お前はどうしてそんな料理法を知っているんだ?」

「斬新というか革命的というか。この料理は凄く贅沢な料理だな」

「こんな難問に悩みながら男爵家に来たオレは何だったんだ」


まあ日本の料理漫画を読んだ事がなかったらオレも苦労しただろう。読んで良かった料理漫画。


「後はソースだな。どんなソースがこの肉に合うかな?」

「ま、待て!ソースくらいはオレ達が作る。そのくらいさせてくれ」

「そうですか?だったら肉を焼いた肉汁を酒とバターで煮込んだソースで作ってみて。ついでに盛り付けも頼んだ。」

「この肉汁を使うのか。画期的なアイディアだな。よし、この肉に合うソースを作るぞ」

「盛り付けも任せろ。美しい皿にするぞ」


三人が料理に夢中になるがそろそろ夕食の仕込みの時間だよ。大丈夫か?

その日の夕食には新しい料理は出せなかった。カシムさんが男爵家に戻ってきた日は新しい料理が夕食に並んでいたが今回は間に合わなかったようだ。

デカルさん曰く「肉の焼き加減が難しい。これでは食卓に出せない」

モータルさん曰く「ソースが納得いかない。未完成なソースで食べるのはこの料理に対する冒涜だ」

カシムさん曰く「この料理に相応しい美しく盛りつけた料理じゃないとダメだ。もっと完璧じゃないと」

その他の皆さん曰く「未完成でも良いから、新しい料理を食べさせてくれ」

新しい料理を食べたい使用人達が五月蠅かったのでローストビーフも作ったのでみんなに食べさせた。今回の条件に合わない料理だが男爵家の皆には好評だった。

その後、何とか三人が満足できる肉料理が出来たのでカシムさんはまた伯爵家に戻った。そして新しい料理を食べたのは男爵家家族だけだ。さすがに肉の塊を焼いてその中心だけを食べるからコストがかかりすぎる。




ようやくイーズが男爵家に戻ってきた。頑張ってモータルさんから新しい料理を覚えてくれ。

それともうすぐエリーさんと結婚する予定だが準備は大丈夫なのか?

エリーが頑張っている?恋人に何をさせているんだよ。少しくらいお前も頑張れって甲斐性がある所を見せてみろ。

時間が無い?それを作るのが男だろう。仕方がないから手伝ってやろう。

なに?止めてくれ?オレが手伝うと酷い事になる?そんな事はないぞ。おい、腕を掴むな。分かったよ、だったらお前の手伝いをしよう。それなら問題ないだろう。なにお礼は良いよ。友達じゃないか。だから泣くなよ。

よし、まずは料理を覚える事だな。これはモータルさんとデカルさんに頼んで。次は……何をすればいいんだ?

後は大丈夫だから心配しないで?本当に大丈夫なのか?他にする事はないのか?

よし、エリーさん達に聞いて来る。オレは結婚の準備の方法はしらないからエリーさんの手伝いをしよう。

お前は料理を習っておけ。後の事は任せろ。


「え、結婚式の準備?もちろんやっているわよ」


オレはエリーさんに聞きに行った。丁度マリーと一緒に客間の掃除をしている所だったからオレも掃除を手伝う。


「ちなみに準備って何をするの?オレって結婚式って初めてだから知らないんだ」

「私は知っているよ。偉い人の所に行って誓うのでしょう。結婚する人はお爺ちゃんの所で結婚するって言っていたよ」


……それだけ?


「それは辺境とか近くに教会が無いところの結婚式ね。ここの男爵領や教会のある村の結婚式は教会で誓いを立ててペンダントを交換するのよ。その後に親族達と食事をするわ」


へぇー、この世界にも教会って有ったんだ。それに指輪ではなくてペンダントの交換なんだね。


「マリーちゃんが住んでいた辺境の村には教会が無かったから一番偉い村長が立ち合いをしたようね」

「あと、お嫁さんは綺麗な服を着るんでしょう?私もその服を着たいって言ったけど結婚式の後は服が破れるから着れないって言われたの。どうしてかな?」


結婚式でお嫁さんが着ている服は後から破れて着れなくなる?なにそれ?


「結婚式の衣装は大事に取っておく物よ。どうして綺麗な服が破れるの?マリーちゃん」

「良く知らないけど夜に獣に襲われて服が破れるって大人の人が言っていたよ。獣って魔獣なのかな?」


……獣に襲われて服が破れるって、子供に何を教えているんだ。エリーさんも呆れているぞ。それ以前になんでそんな風習があるんだよ。

あ、エリーさんが今度はオレを見た。オレは知らない振りをしよう。マリーの教育はエリーさんに任せているからね。


「えっとね、服を破るのはマリーちゃんの村だけだからね。他の村や町ではそんな事はしないわ。服は大事に取っておくの。結婚式の衣装はね、私の母親から譲り受けた物なの。私の母親もこの衣装を着て結婚したのよ。親から子へ思いを繋ぐ大事な服なの。破るなんて事はしないわ。マリーちゃんも服は大事にしないとね」

「分かりました」


辺境の村の偏った知識を矯正しないとマリーは恥を掻くかもしれないな。そういえば母親も辺境の村出身だから偏った知識で苦労したかもしれない。そのあたりを聞いてみようかな?


「そういえばペンダントは準備できているんですか?」

「ペンダントは前に買った物があるわ。伯爵領の街でお揃いのペンダントを買ってね。これを結婚式に使おうってイーズが言ったの。とっても嬉しかったわ」


はいはい、ごちそうさま。甘い空気でお腹一杯です。


「もうすぐ結婚式だけどイーズは農園の仕事をしているのかしら?」

「イーズなら男爵家に戻ってきましたよ。エリーさんとの時間を作る為に新しい料理を覚えている最中です」

「結婚式用の服はちゃんと用意しているのかしら?心配だわ。ちょっと聞いて来るわね」


あらら、オレとマリーをほっといて台所に行ったよ。……マリーもエリーさんについて行ったよ。

仕方がないからオレはエリーさん達がしていた所の掃除を終わらせてイーズの所に戻った。


「おーい!イーズ」

「イーズなら此処には居ないぞ。部屋でエリーと一緒に結婚式の準備をしている」


モータルさんがイーズの居場所を教えてくれた。イーズって結婚前から尻に敷かれているな。二人で準備をするならオレは必要ないだろうと思いオレは次の仕事にとりかかった。

そういえばマリーはどこに行った?エリーさんについて行ったのか?




イーズとエリーさんの結婚式の前日に事件は起こった。


「大変だ!大変だ!大変だ」

「大事だぞ!大事だぞ」

「一大事だ!一大事だ」


仕事の途中でどうして現れる。精霊三人衆よ。


「今度は何だ?精霊三人衆よ」

「精霊三人衆?」

「お前達の事だ。其の一、其の二、其の三」

「オレ達に新たなる名前が増えたぞ」

「よし!今日は宴会だ」

「みんなで騒ぐぞ!」

「頑張れよ。オレは仕事で忙しいならまたな」


さてと仕事仕事っと。


「じゃなくて。大変なんだよ。これを見ろ」


其の一がオレの頭に乗ると大人達の声が聞こえた。何処かで聞いた事がある声だ。


「なあ、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。オレに任せておけ」

「だが……」

「根性ねえな、ここまで来てなに怖気づいている。エリーはイーズなんかには勿体ないだろう」


エリーさんとイーズの事の様だ。


「だが女は男爵家にいるだろう。どうするんだ?」

「まずはイーズを脅してエリーを呼ばせれば良いだろう。奴を脅せば楽勝だ」

「そしてエリーを頂くって事か」

「結婚式の前日にオレ達が先に味見してやるって事だ」

「それで今イーズはどこにいる?」

「ゴランの所だ。もうすぐ話が終わるからその後はオレ達と話し合いだな」


声からして人数は五人くらいの男達か。農園の奴らかな?イーズを脅してエリーさんを乱暴する気なのか?


「カロウ。本当に大丈夫なのか?エリーやイーズは平民だが男爵様から信用されているらしいぞ」

「大丈夫だって。オレも男爵様から信用されているんだぞ。本来ならオレが農園責任者の立場なのにゴランの奴がレオナルドをそそのかして変な事を言っただけだ。オレは上の人間には信頼されているんだよ。お前達もオレのおかげで色んな事が許されているだろう。もっとオレに感謝しろ」


……確かカロウってオレが農園の最初の教育係だったよな。その後も色々オレに文句を言ってきた奴だ。


「なあ其の一。これはいつの会話だ?」

「今、話している会話だぞ」


……この精霊は遠くの場所を把握できるのか。こいつらって結構凄い事してるな。今話している会話ってことはイーズが狙われているのか。だが。


「どうしてお前達がイーズの事を知っているんだ?面識ないだろう」

「面識は無いがお前の友達だろう」


嬉しい事をいってくれる。オレの友達だから助けてくれるのか。


「それにこいつの卵焼きは美味いからな。みんなで食べたもんだ」

「美味いし面白いよな」

「卵焼きが無くなってうろたえる行動が笑えるんだ」


前言撤回。こいつらは愉快犯の類だろう。精霊達の悪戯で変なトラブルに巻き込まれないか心配になってきた。

それはそうとオレは急いで農園に向かった。向かう先はゴランさんの所だ。今はイーズと話をしているはず。

仕事をそのままにオレは全速力でゴランさんのいる所に向かった。


「ゼイゼイ、ゴランさん。ゼイゼイ、イーズはいる?」

「イーズならさっきまで話して帰ったぞ。二人共どうしたんだ?」


……二人共?後ろを見たらエイルド様が息を切らせている。いつの間に付いてきたんだ?


「ゼイゼイ、エイルド様、いつの間に」

「ゼイゼイ、トルクが走っているから、ゼイゼイ、付いてきた」


全然気付かなかった。それよりもイーズだ。向かってきたときはイーズとすれ違っていないからカロウがどこかに連れて行ったのだろう。


「イーズがどうかしたのか?」

「ハアハア、カロウがイーズを脅そうとしているんです。ハアハア」

「またカロウか。オレ達も探すのを手伝おう」

「お願いします」


ゴランさんに手伝ってもらう。人では多い方が良い。それはそうとイーズはどこにいるんだ?


「こっちだぞ」


精霊の其の一の声が頭の上から聞こえて其の二、其の三が指をさして指示をする。その方向にイーズが居るのか。オレは走り出した。

あれ?どうして精霊がまだいる?周りには人が居るんだぞ。精霊の存在がバレてしまった。


「トルク、そっちの方向に行くのか?オレも行くぞ」


エイルド様がオレの隣で走る。目の前にというかオレの頭の上に精霊が乗っているのだけど……。エイルド様には見えないのか。


「普通の人間にはオレ達は見えないぞ」

「前にも言っただろう」

「相変わらずアホアホだな」


……いまオレが突っ込んだらエイルド様に精霊の事がバレてしまう。


「どうして突っ込まないんだ?」

「突っ込んだら誰もいない所にしゃべったら可哀そうな子になるだろう」

「元から可哀そうな子だけど何もない所にしゃべったら馬鹿じゃないか」


……握りつぶしてやろうか、このクソ精霊め。


「お前達、そろそろ真面目にしないとまた捕まって握りつぶされるぞ」


チィ、カンの良い精霊め。上から聞こえたって事は風の精霊其の一か。


「オレは真面目だぞ。おちょくる事に関してはいつも真面目だ」


走りながら精霊を掴んで足を速める。


「トルクどうした?」

「すいません、虫が居たので払ってました。急ぎましょう」


オレ達は急いでイーズの所に向かった。


「……苦しい、……身が出る」


知らん。




目的地はカロウの班の拠点だった。オレはイーズが居るか確かめるためにドアに耳を付けて聞き耳を立てる。

言い争っているイーズとカロウ達の声が聞こえる。


「だからエリーをここに呼べって言っているだろう」

「嫌だ!」

「まだ殴られ足りないみたいだな」


結婚式前日の花婿を殴っているのかよ。オレがドアを開ける前にエイルド様がドアを開けてみんなに言った。


「お前達!何をしている」


男爵家子息が部屋に入ってきて驚く。オレも部屋に中に入ると倒れているイーズとその周りのカロウ達がいる。オレはカロウ達を無視してイーズに近づき怪我の状況を確かめる。

……顔には怪我は無いな。他に怪我は……。


「なにしている!クソガキ!」


カロウが五月蠅いが無視する。


「イーズ、大丈夫か?痛い所はあるか?」

「大丈夫だよ。助けてくれてありがとう」


イーズは無事で良かった。後ろから衝撃が走る。背中を殴られたようだ。痛いな、誰だ?


「何無視してんだよ」


殴ったのはカロウの様だ。子供を殴るなよ。痛いだろう。痛い所をさすりながらカロウを睨んだ。


「オレを無視しやがって少し偉くなったと思っていい気になっているのか?あぁ、お前はオレを睨んでいるのか?そんな顔じゃ可愛いだけだぞ?睨むんだったらもっと怖い顔で睨めよ。なんだ?お前もオレを睨んでいるのか?ガキがガン飛ばしてなんだってんだ?」


……エイルド様もカロウを睨んでいる。


「だいたい、貴様なんかにオレをどうこう出来る訳ないだろう。オレは男爵領の商家の跡取りだぞ。このガキよりも力もコネもあるのに、なんでガキの言う事なんて聞かないといけない。誰がオレに命令を出来るってんだ?」


オレは何も言っていないし命令もしていない。ただカロウを無視してイーズの状況を確認しただけだろう。


「どうした?そこのお坊ちゃん?オレになにかご用かな?用事ならパパとママに来てもらえ。……どうした?何下を向いている?泣きそうなのか?怖い大人に囲まれて泣きそうなのかな」


……エイルド様ブチ切れ五秒前・四・三……。

エイルド様に顔を近づけたカロウがぶん殴られる。フック気味のパンチがカロウのあごにヒットした。カロウはふらつき倒れる。

ブチ切れ五秒前じゃなくて三秒前だったか。ナイスなパンチでカロウは気絶したのか倒れたままだ。


「……こんな奴が農園で働いていたとは情けない」

「やりやがったな、このガキ……」


カロウの奴は気絶してなかったか。立ち上がりオレ達を睨む。


「どうした?何睨んでいる?オレに倒されたからか?子供に殴られた大人が睨んでも情けないだけだぞ」


……エイルド様、火に油を注がないで下さい。カロウの顔が一気に赤くなる。相変わらず奴は瞬間湯沸かしだな。


「ガキが調子に乗りやがって。ぶち殺してやる。お前達もガキ共を逃がすな」


カロウの命令でオレ達を囲む班の人達。素手で大人十人を相手にするのか……。でも何故か恐怖は感じない。こいつらよりもクマの方が何倍も怖かった。それに比べたらなんてことない。


「なあ、トルク。あれを思い出すな」

「あれって何ですか?エイルド様」

「トルクが馬車で話した暴れん坊な王様の物語だ。状況がそっくりだな」


……笑いながらオレに言ってくるエイルド様は大物になるだろうな。なんでだろう?最後の殺陣の音楽が脳内に響く。


カロウがエイルド様に殴りかかってくるがエイルド様は避けて殴り飛ばした。オレは木の棒を持っている人間に向かって走りながら火魔法の火の玉を腕に当てた。熱さで木の棒を放り投げようとするところを奪い取って棒で頭を殴る。気絶したようだから次の標的を探すが、エイルド様を四人で囲むようにするのでオレは助けようとしたがこちらにも四人に囲まれた。


「気を付けろ、トルクは魔法を使うぞ」


今頃言っても遅いぞ。オレは水魔法の水壁を使いエイルド様を囲んでいる人の足元に使う。いきなり足元に水が出来たのに驚いて隙を見せた瞬間にエイルド様は木の棒を敵から奪い取って殴る。

魔法を使った時に隙が出来たオレは殴られそうになるがギリギリで躱したが大人に捕まった。

「捕まえたぞ、おい、そこのガキ。こいつがどギャッ」

足の甲を力いっぱい踏みつけて捕縛から逃げ出して囲いを脱出した。先にエイルド様を助けようと思ったがエイルド様の方は残り一人だった。いつの間に四人も無力化したんだ?エイルド様ってマジで強くなってるな。

オレの方は残り三人。囲いは抜けたから正面に三人いる。殴りかかろうと思ったが。


「お前達!何をしている?」


ゴランさんの大きな声でみんな動かない。だが例外がいた。エイルド様はゴランさんの声で止まらず五人を無力化した。その後オレの方に居る敵を攻撃しようとするが。


「エイルド様、待ってください」


ゴランさんがエイルド様の肩に手を置いて止めた。エイルド様を止められるゴランさんも凄いな。カロウを含め地面に寝ている奴は七人。三人は無傷で立っているがゴランさんが来た事で暗い顔をしている。

……しかしオレが相手した奴ら五人のうち三人が立っていて、エイルド様が相手したカロウを含む五人は地面で寝ている。やっぱりエイルド様の方が強いな。


「伯爵家から預かっている客人に危害を加えて、男爵家の使用人と男爵家ご子息に暴力行動をとった。お前達の取った行動は農園からの追放なんて生温い。死罪か、辺境の鉱山で死ぬまで労働のどちらかだろう」

「待ってください。カロウが全部行った事です。私は違います」

「私もです」

「オレも何もしてません」


……何もしてないって、お前達はオレやエイルド様を囲んで危害を加えたじゃないか。エイルド様には怪我は無いが、オレはカロウから殴られ、イーズも脅迫と暴力で危害を受けただろう。


「カロウが主犯だろうがお前達は子供二人を十人で囲んで危害を加えた。貴族に危害を加えて罪がないなんて思わない事だ」

三人は逃げようとしても入口をゴランさんが塞いでいるから逃げ場がないので絶望して地面に座る。ゴランさんが連れてきた農園の人達がカロウ達を捕縛して外に連れ出した。


「イーズは大丈夫か?」

「大丈夫です。エイルド様とトルクが助けてくれましたから」

「エイルド様もトルクも無事でよかった。全くオレを待っていれば良かったのに、二人で突入するから驚いたぞ」


……ゴランさんと一緒に突入する事を考えていなかった。イーズがヤバいと思ったから何も考えずに突っ込んだんだよな。……オレって猪突猛進なのかな?脳筋で猪突猛進のエイルド様を強く言えないかもしれない。


「しかし二人は強いな。大人十人と戦って無傷とは凄いぞ。これはレオナルド様に言って訓練レベルを上げるかな?」


……なんか聞きたくない事を聞いた。訓練レベルを上げる?これ以上は体を壊すよ。


「トルク、楽しかったな。悪い奴を倒して弱者を救う。今度も二人でやろう」


……そんな事に首を突っ込まないで下さい。オレがクレイン様やアンジェ様から怒られます。エイルド様の教育失敗したかな。




翌日、イーズとエリーさんの結婚式だ。晴天でお日様が二人を祝福しているようだ。

イーズの怪我も結婚式には支障がないみたいだ。顔を殴られなくて良かったな。隠れてイーズに回復魔法を使ったが大丈夫みたいだ。

今回の件はエリーさんには内緒だ。エリーさんには心配をさせたくないとイーズが言ってきた。イーズがオレとエイルド様と農園の人達には口止めを頼んだ。

エリーさんを襲おうとしたアホウじゃなかった、カロウの班は牢屋に入れられている。カロウの父親はイーズやゴランさんに泣きながら謝ったらしい。


「育て方を間違った。息子の罪を償う機会がほしい。命だけは何とか助けてほしい」


ゴランさんはレオナルド様やクレイン様に相談をして決めるらしいが、カロウの班はこの農園では働けないだろう。他の場所で下男として売られるだろうと言っている。

カロウは親の権力をかさに威張っていたし、他の班の人達からも嫌われていたから、この農園で働く事は無いだろう。

農園の皆は「ざまぁ見ろ」「今までの罰」「うるさい奴が居なくなってせいせいした」って思っているようだ。これで農園が平和になると。

農園が平和になった昼過ぎにイーズとエリーさんが教会に入る所を見た。エリーさんは綺麗な服を着てマリーはエリーさんの服に見とれている。イーズも晴れ姿で中々決まっている。

教会の中にはクレイン様やアンジェ様や母親が入っていて、イーズの親族も中に入っている。結婚式のときは教会に入れるのは成人した大人だけで子供は参加できない。何をしているのかは分からないがさすがに子供には見せれない様な事はしていないだろう。

少しして何事もなく教会から出てきた大人達。顔を赤くしたり興奮している様子はない。いつも通りの顔だ。どうして子供には見せられないのだろうか?今度母親に聞いてみるか。

……それよりもイーズに聞けば一番早いか。

教会で誓い合ってその後はみんなで食事らしいが……。


「トルク!料理の追加だ」

「了解しました」

「ピザの注文入りました」

「お酒の追加です」

「デカルさん!ポテトフライが出来ました」

「追加の注文が入りました」

「イーズ!仕込みはまだか?」


……どうして新郎が料理を作っているんだよ。それも一張羅で何をしてんだよ?服が汚れるぞ!


「イーズ!どうしてお前が料理をしている?お前は結婚式の主役だろう?主役は主役らしく花嫁の隣で笑ってろ」

「……今日、結婚式に料理長が来ていて僕の料理の腕が上がったか確認するから料理を作れって……」


料理長って伯爵家の料理長か?結婚式に来てたのか?


「それがどうして料理の仕込みをしているんだよ?」

「デカルさんに頼まれて……」


こいつは結婚式にエリーさんの隣に居ないなんて、この事を「結婚式のときにイーズは私の隣に居なかった」って死ぬまで愚痴られるぞ。


「とっとと料理を作って合格貰ってエリーさんの隣に戻れ!」

「でも仕込みが……」

「オレが仕込みをする。お前は卵焼きを作って料理長に持っていけ!」

「トルク、ありがとう」

「一発で合格しろよ!失敗したら料理長の頭を剃ってやる」

「どうして料理長の頭を剃るんだよ」


……どうしてだろう?この話の流れならイーズの頭を剃った方が良いよな。しかし言った言葉は責任を持たないといけない。


「料理長の頭が大事なら一発で合格しろよ」

「わ、わかったよ。頑張るから」


料理を始めるイーズ。卵焼きは何度も作っているから大丈夫だろう。隠し味も教えたし問題ないはずだ。


「イーズ!仕込みはどうだ?」

「デカルさん。イーズの代わりにオレがするから花婿を使うな」

「立ってる奴は親でも使えだ!」

「……貴族も使う?」

「……貴族は無理だな」

「クララさんは?」

「あれを使うくらいなら自分でする。あいつは台所に入れない!食材に対する冒涜だ。クララの料理を食べるくらいなら餓死する」


……言われているな、クララさん。……でも。


「私の料理を食べるくらいなら餓死する?どういう意味かしら?」


デカルさんの後ろに居るクララさん。クララさんに聞かれたデカルさんは顔が引きつる。クララさんはニッコリ笑っている。

あ!クララさん待ってくれ。その棒は料理道具で撲殺道具ではない。オレは慌ててクララさんから棒をぶん捕った。


「クララさん!今デカルさんに何かあったらイーズとエリーさんの料理が出来なくなる」

「大丈夫よ。トルクがいるじゃないの。デカルが居なくても大丈夫よ」

「オレだけじゃ無理だよ。モータルさんもカシムさんもいないんだよ。デカルさんがいなくなったら料理が……」

「イーズとモータルがいるわ」

「新郎とその父を使うな!」


どうしてデカルさんやクララさんは新郎を使うんだよ。新婦の側にいないとエリーさんが可哀そうだろう。モータルさんも息子の晴れ姿を台所で見るなんてネタにしかならん。


「……仕方がないわね。デカル、仕事が終わったら話し合いましょう」


そう言ってクララさんは用意した料理を持って出て行った。デカルさん、ご愁傷さまです。

それから料理の注文も少なくなりオレはイーズとエリーさんの所にお祝いの挨拶に向かった。二人は広場の中心にいてみんなから祝福を受けている。オレも二人の前に行った。


「イーズ、エリーさん。結婚おめでとう」

「ありがとう。なんとか料理長から合格を貰ったよ」

「ありがとう。これからもよろしくね」


イーズもエリーさんも幸せそうで何よりだ。イーズも試験に合格したみたいだしな。二人とも綺麗な格好しているしな。イーズもエリーさんも白を基調とした服で二人とも似合っている。……イーズ、服が少し汚れているぞ。きっと料理中に汚したな?白い服だから少し目立つぞ。


「最後はオレ達の番だ!ウィール男爵家農園名物、五穀豊穣祈願の踊りだ。みんなやるぞ!!」


……ゴランさんを中心に農園の皆がいっせいにドジョウ掬いをやり始める。何かの出し物か?この土地柄の出し物なのか?


「おう、トルク!お前も踊れ!最後に締めだ」


オレも参加?引っ張らないでくれ!手がもげる!強制参加反対!

それ以前に最後の締めって何?もうすぐ終わるの?オレは参加してないよ。食事作ったりしただけで何もしてないよ。

あ、マリーや母親はちゃっかりテーブルに座って食事しているし。良い場所には男爵家族がいるし。


「まだ、二人にお祝いの言葉を言ってません。後で踊ります」


大勢の前でこんな恥ずかしい踊りなんて踊れるか!ドジョウ掬いだぞ!


「ガハハ!お祝いの言葉は踊りに込めてみんなで踊るぞ!イーズとエリーの結婚を祝って踊るぞ」


だから待ってくれ!オレは踊りたくないってば。待ってくれってば!二人に教会で何をしたか聞いていないし。ていうか最後の締め?もう食事会も終わるの?オレは飯食ってないぞ。誰がゴランさんを止めてくれ!


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[気になる点] 火が通っているが生ではない肉料理……?火が通っていたら生でないのは当たり前では?火が通ってるのに生に見える料理か、火を使ってないのに生でない料理では?
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