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精霊の友として  作者: 北杜
三章 伯爵家滞在編
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閑話 頑張れイーズ君5

この閑話は別に書かなくても良かったのではないかと思う。

長かったし苦労した。

今度からもっと短く書く努力をしてみよう。

現在、食堂にいる。料理長は旦那様に僕ではなく他の人を男爵家に行くように推薦するつもりだったが、エリーが男爵領に行くから僕も行くんだけど、少し前に料理長に「男爵家に行きたくない」と言ったんだよね。料理長には迷惑をかけたのはわかるけど「男爵領には行かせない」と言われた。だけどエリーが行くから何が何でも行くつもりだ。そして話し合いの為に食堂の一角に居る。


「お前は、男爵領に行きたくないと言った。しかしエリーが男爵領に行くから行く。だから他の人間の推薦をしないでくれ。そうだな」

「はい、僕が男爵領にいきます。そしてエリーと男爵領で結婚をします」

「⋯⋯確かにお前はエリーと別れたくないから男爵領に行きたくないと言った。そして私もその為に他の料理人に都合を聞いて男爵家に行く奴を決めた。しかしエリーが男爵領に行くからお前が行く。私が男爵領に行く奴を推薦しないでくれ、とお前は言っているんだな」

「はい、僕が男爵領に行きます」


料理長が怒っている。ここまで怒っている料理長を見るのは初めてだ。確かに料理長には迷惑かけたけど推薦を取り消すだけだから。そこまで怒る事ないと思うけど。


「⋯⋯お前は旦那様が決めた事を嫌がり、私に断りを頼んだ。それは間違いないな」

「料理長には申し訳ない事をしました」

「お前は申し訳ない事をしたと言ったが、本当に意味は分かっているのか?」


え、意味?それは料理長に迷惑をかけた事じゃないの?それを言おうとしたらレオナルド様が来られた。


「イーズ、男爵領に行く準備は済んだか?料理長にも今回は迷惑をかけた」

「いえ、迷惑など。私達も新しい料理を教えてもらったのです。こちらこそ元料理長が迷惑をかけて申し訳ありませんでした。そしてイーズの事なのですが」

「ん?イーズがどうかしたか?」

「イーズを男爵領に行かせない方が良いと思いまして。現在、説得をしています」

「どういう事だ?男爵領にエリーが来るから問題ないだろう」


なんでレオナルド様がエリーの事を知っているんだろう?伯爵家のみんなにさえ内緒にしていたのに。


「ですが、こいつは旦那様のお決めになった事を嫌がり、断ろうとしたのです。こいつが行きたくないと言ったので私は他の者を推薦して旦那様に伝えようとしましたが、こいつは「エリーが男爵領に行くから自分が行く」と言いました。こいつは男爵家に行っても役に立たないでしょう。行かせる訳にはいきません」


え?役に立たない?そんな事ありません。頑張ります。


「だが、イーズとエリーの件はアンジェ様やリリア殿に私がお願いをしたのだ。行かないって訳には行かないぞ」

「⋯⋯アンジェ様まで力添えされたのですか?しかしどうして?」

「先日、イーズとモータルとトルクの三人で食事をしていた時だ。イーズが行かない訳をトルク達が聞いている時、私もイーズの後ろから聞いていたのだ。トルクはイーズに来てほしい様だったからアンジェ様にお願いしてエリーも一緒に男爵領に行かせようと考えてみたのだが」


あの子が僕の為にエリーを男爵領に行かせる?そんな馬鹿な。あの子はそんなことしない。もっとあくどい事を考えているんだ。そうだ今の状況はあの子が考えたんだ。そうに違いない。


「しかしイーズは男爵領に行っても役には立たないでしょう。女の為に自分や私の命をかけ、周りに迷惑をかけました。そんな奴に今回の大役は務まるとは思えません」

「⋯⋯男爵家はそこまで酷くない。平民も一緒の生活をしている場所だ。料理長の不安もわかるが大丈夫だろう」

「いえ、貴族の命令を無視して周りに迷惑をかける。今回の事は、私は命を懸けて旦那様に進言をするつもりでした。しかしこいつはまるで分っていない。自分の命もかかっていた事にも気づいてないのです。こいつは私の友の子供です。だから助けようと命を懸けた。しかしこいつはまるでわかっていない。こいつは男爵領で同じミスをして周りの人間に迷惑をかけるでしょう。そのときは大勢の者が責任を取らされます。最悪の場合は大勢の命が亡くなるかもしれません」


自分の命がかかっている?僕は命を賭けていた?なにも悪い事はしてないよ。


「⋯⋯だがエリーは男爵領に行く。そしてクレイン様のもとイーズとエリーは男爵領で結婚をさせる。それが今回の件の褒美としている」

「褒美ですか?こいつは何かしたのですか?」

「そうだな。一部の者しか知らないが今日、トルクを囮にして伯爵家を狙う賊を捕まえる予定だったのだが、賊に捕まったのがイーズとエリーだったのだ。運よくトルクが助け出して賊は捕まえて作戦は上手くいった。そして迷惑をかけたから二人に褒美として男爵領で結婚をさせる事にした」

「⋯⋯こいつは本当に運がいい。トルク殿に会って新しい料理を教えてもらい、貴族様から顔を覚えてもらい、エリーとも結婚できる。伯爵家に戻ったら私の補佐役にする予定だったのだが、こいつはその全てを捨てようとしたのです。本当にこいつでいいのでしょうか?今回私が推薦する者はイーズよりも料理の腕も人間性も良い者です」

「今回来る料理人はイーズとモータルだが、伯爵家からの護衛の兵もいるから料理人はもう一人くらいは居ても良いと思う」

「ではサムデイル様に推薦しておきます」

「私もクレイン様に伝えておこう。それでイーズの件はどうする?」


いきなりレオナルド様が僕に話を振った。僕はエリーと別れたくないから答えは決まっている。


「男爵領に行きます。お願いします」


料理長とレオナルド様はなにか考えている。


「レオナルド様。男爵領に着いたらイーズに罰を与えてもらってもいいですか」


罰?どうして。僕は何もしていないよ。


「罰か。農園の仕事をしてもらうか」

「料理長、レオナルド様。どうして僕が罰を受けないといけないのですか?私は何も悪い事はしてません」


僕の言い分に二人は呆れた顔をしている。変な事言った覚えはないけど。


「イーズ。今回の罰はサムデイル様の命令を嫌がって周りに迷惑をかけた事だ」

「しかし」

「貴族の命令を聞かなかったからだ」

「ですが」

「私達平民にとって貴族の命令は絶対だ。それを知らないとは言わせないぞ」


貴族の命令は絶対。それは子供のときから分かっている。でも僕は命令を聞いていない。命令を聞いたのは料理長からだ。


「僕が命令を聞いたのは料理長からです。貴族の人からは聞いてません。それに推薦したからでしょう」

言ったら頭を殴られた。


「私は伯爵様が決めた事だと言ったはずだ。それに推薦したのはお前とトルク殿の仲が良いから推薦をした。トルク殿なら男爵領に行ってもお前達を守ってくれると思ったからだ……」

「いえ、あの子が僕を守るなんてありえません」

「……どういう意味だ?」


あれ?二人とも呆れた顔をしている?


「あの子は僕の事を召使いや奴隷としか思っていないような子ですよ。最初会った時あの子は元料理長を殺すと言って僕の包丁を持って行こうとするし、元料理長が売ったケンカを高値で買うし、それにあの子が伯爵家に来なかったら僕達は賊に攫われなかったはずです。あの子のせいで僕の人生設計は滅茶苦茶だ。にこやかに近づいて一気に首を刈る外道です。殺人鬼の類ですよ。そんな子が僕も守るなんてありえません」


言い切ったぞ。あの悪魔のような子のせいで僕の生活が滅茶苦茶になったんだ。


「……そうか。ではトルクは男爵家に戻るからお前は来ない方が良いな」

「そうですね。男爵領に行く者はイーズではなくて別の者を推薦します。それからイーズは伯爵家の料理人にはふさわしくない様です。辞めさせましょう」


え?

「どうしてですか?僕が男爵領に行く事になったのでしょう?どうして行けないのですか?」

「お前がトルクと上手くやっていけないからだ」

「ですが」

「安心しろ、お前とエリーを結婚はさせるがエリーが半年後に男爵領から戻ったらだ。だがお前には伯爵家の料理人を辞めてもらうぞ」

「どうして伯爵家の料理人を辞めないといけないのですか?」

「トルクがまた伯爵家に来るからだ。お前が居ない方が良いだろう」

「あの子は男爵家の使用人ですよね。僕は伯爵家の料理人ですよ。立場は僕の方が上です」

「トルクは将来、騎士爵をもらう事は決まっている。ただの平民が何を言っている。そしてお前は誰にものを言っている?」


レオナルド様は騎士爵を持っている男爵領の人だ。伯爵様や男爵様の信頼の厚い人だ。そんな人の言葉を僕は聞かなかった。ヤバい殺されるかもしれない。今頃気づいた。


「トルクは将来、男爵家、いや伯爵家に仕えるかもしれない。ならイーズは居ない方が良い。料理長よ、男爵家に行く人物は良い人間を推薦してくれ。だがモータルはどうする?」

「モータルはトルク殿を信頼しているし料理の腕も確かです。問題ないでしょう。イーズが伯爵家の料理人を辞めるのは皆様が出て行ってからですからこちらも問題ありません」

「あと、手紙を送らせるな。知らなければモータルも心配しないだろう」

「それでしたら監禁しましょう。手紙を送れないし、他の人間にも会えません」


僕が伯爵家の料理人を辞めるのが決定している。そして監禁?どうしてこうなったんだ?やっぱりあの子のせいなのか?あの子が僕を貶めているのか?


「待ってください。お願いします。僕は伯爵家の料理人を続けます、だから男爵領に行かせて下さい」

「お前は上の者の命令を聞かなかった。そのような人間に今回の務めは務まらない」

「お前はトルクを嫌っているようだが、男爵家では必要な人間だ。お前みたいに料理だけが取り柄の者とは違う。私の仕事の手伝いが出来るし、男爵家の掃除や雑務も出来る。農園の者達とも仲が良く農園の管理も任せられる。勉学も出来てエイルド様達の模範となっている。現在は剣術も馬術も習っているし、魔法も使える。もちろん料理の腕もお前以上だ。お前は殺人鬼の類と言ったが、伯爵家に来る途中に賊に襲われた時にトルクが魔法を使ってみんなを助けたのだ。私は勿論、男爵家の方々や使用人、兵士達もトルクに感謝している。もしも誰か怪我でもしていたら使用人や兵士達は罰を受けていた。だが怪我人はトルクだけだった。ドイル様が川に落ちた時にトルクが川に飛び込んで助けた恩をクレイン様達は忘れないだろう。そんな勇敢な子供だ。お前みたいに口だけの奴ではないし、お前が言うような人間ではない」

「お前はトルク殿に助けて貰った恩は感じていないのか。情けない、本当にモータルの子供か」

「ですが」

「まだ口出しをするか。いい加減に理解しろ。褒美としてお前はエリーと結婚はさせよう。だがエリーが伯爵家に戻ってきたらだ。アンジェ様やエリーには後日こちらから言っておく」

「お前は貴族の家で働く事は無理だ。諦めて家の料理屋を継げ」

「そんな」


目の前が真っ暗になった。僕が悪いのか?あの子が悪いのか?確かに貴族の命令を聞かなかったけどそこまでの事なのか?


「命の恩人のトルク殿を悪く言うとは情けない。お前に酷く当たったと言ったがトルク殿はお前に何をしたんだ?」

「それは……」


僕は料理長達に言った。あの子と最初の出会いで殺されそうになり、元料理長に目を付けられた事。


「お前は元々目を付けられていたんだ。モータルは元料理長を殴って辞めたからな」


元料理長に目を付けられてたのは父さんのせいか。それからあの子のせいで賊や元料理長に狙われた事。


「それに関してだがお前は運が良い。遅かれ早かれお前達を攫う予定だったらしい。お前は奴隷として帝国に売り、エリーは慰み者だな。賊達が吐いたがお前は元料理長から恨まれていたんだな。トルクが助け出したからお前達は無事だった」


僕が奴隷として帝国に売られていた?エリーは慰み者?遅かれ早かれ僕達は危なかったのか。それを助けてくれたのがあの子?

でもあの子が来たからこんな事になったんじゃ?


「お前はどうか知らないが、トルクはお前の事を友人と思っている。住んでいた村では母親のリリア殿と妹分のマリー、あとはマリーの父親しか話した事がないと言っていた。村人から無視されて子供からはいじめの対象だったらしい。それでも村人達と仲良くしようと頑張っていたところを私が男爵家に雇ったのだ。その後は農園では心無い奴から一週間で荒地を畑にするという無茶な仕事を押し付けられたが見事にやり遂げた。男爵家での仕事も子供なりに頑張り炊事清掃料理、それから私の仕事に男爵家のお子様達の世話。休む暇が無かったようだ。そして本人は下人として雇われたと思っており村を出てから休み無しで働いていた。そして最初の休みの日は今回の囮として利用させてもらった。さすがに可哀そうに思って最初は取りやめるよう進言したが、今回の作戦を優先させる事になり休みは後日取らせるようになった。トルクの為にと思いリリア殿を男爵家に雇いあの子の負担を軽くしようと思ったが、伯爵領に行く途中に賊に襲われ怪我をしてリリア殿やクレイン様達を悲しませた。そしてトルクが初めて友人を作った様だったから私も応援をしようと思ったがその友人がこれだ。私のやる事はトルクにとって裏目に出ているような気がしてきた。情けない」


そんな事があったのか。あの子は明るく笑っているが僕なんかより苦労して、酷い生活をしていたなんて。自分が恥ずかしくなり今まであの子に酷い事を思った事が情けなくなった。そしてあの子が僕の事を友人だと思っていた事が嬉しくなった。そうだよ、友達ならタメ口は当たり前じゃないか。でも僕の方が年上だよね?普通だったら頼りある先輩じゃないかな?


「お前はトルク殿だけではなくレオナルド様の期待にも応えなかった。誰が何と言おうと男爵領には行かせない。それこそトルク殿が今「どうしても」と言うなら考えてやらないでもないが」

「おーいイーズ。お前にも男爵家名物農園を見せてやるから楽しみにしてろよ。ついでに豊作祈願の舞も仕込んでやるからな。あ、ちょっと待てマリー怒るなよ。色々あってお土産は買う暇が無かったんだよ。イーズ、また明日な」


食堂に沈黙が走る。


「……今のトルク殿の言葉は「どうしても」にするべきでしょうか?」

「……トルクはイーズに来てほしいと願っている様だ」


二人とも頭を悩ませている。今だ、一気にたたみかけろ。


「お願いします。男爵領に行かせてください。罰も受けますし、トルク殿にも迷惑はかけません。上の者の命令も聞きますのでお願いします」

「……いいだろう。男爵領に行かせよう。罰は農園の仕事とトルクの下で働く事だ。お前にはトルクの仕事の手伝いだ。トルクの命令は絶対だ。トルクの仕事量を見て絶望しろ。アイツは一年近く休み無しで働いていたからな。イーズも男爵領では休み無しだ。唯一の休みは結婚式とその次の日だけだ。それからトルクとは良い友になってくれ」

「トルク殿に感謝しろ。男爵家での働き次第では伯爵家の料理人解雇も考え直してやる。それからトルク殿に迷惑をかけたら承知しないぞ」

「はい、ありがとうございました。一生懸命頑張ります」


奇跡的に首が繋がったが男爵家での仕事は辛くなりそうだ。しかし今までの事を反省しよう。そしてトルクと仲良くしよう。彼がくれた幸運を大切にしよう。そして恩返しをしよう。それがこれから僕にできる事だから。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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何処までも他責主義で 本業でもある料理に対しても いい加減だとエリーさんが この人の何を評価して恋人に なったのか理解出来ません。 新しい調理法、味を知ったら是が非でも 習得したいとか、その味を超え…
[一言] 書籍化の際にこの閑話を収録するならイーズの良いところも書いてください。
[一言] ここ壮絶な違和感を感じる話だった。 只管に都合の悪いこと理解しないようにしてたイーズが、突きつけられたからっていきなりいい子ちゃんになって心を入れ替えますってのは外から操られたみたいで気持ち…
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