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オレは家に帰り母親と一緒に夕食を食べた。母親に下人になると告げようとしても言葉が出ない。オレが下人になれば母親は村の一員になる。オレが下人を断ればマリーが代わりに行く事になる。
自己犠牲ではないが行かないと叔父さんとマリーが不幸になる。オレ達親子みたいになる。叔父さんに家族が引き裂かれる思いをさせたくない。
そして、オレが行かなければ、叔父さんがオレ達親子を恨むかもしれない。「どうしてマリーが下人になって苦労しているのに、トルクが村で楽な生活をしているのか」と思われるかもしれない。
オレ達親子は叔父さんの協力がないとこの村での生活が成り立たない。だから、母親の生活の為にもオレは村を出て下人になるしかない。母親にその事を言おうとしても口から言葉が出ない。
そんなこんなで寝る時間になった。母親はベッドで寝ている。
最後まで言えなかったから手紙を書くことにした。……困った、うまく書けない。
リリア母さんへ
下人になる条件として母さんは村の一員となります。
後の事は叔父さんに任せます。
手紙を書くから心配しないで下さい。
母さんの息子 トルクより
……あとは叔父さんに任せよう。おやすみー。
そして朝、村長の家に行き叔父さんに挨拶をする。
「叔父さん、後の事はお願いします」
「トルク、すまない」
「村長、母さんの事をお願いします」
「分かった」
叔父さんから荷物を受けとって文官様に向かう。
「準備は出来ました」
「分かった、出発する」
文官様は馬に乗り、オレは歩きで村を出る。さようなら……、あれ?村の名前知らないや。
「文官様よろしいでしょうか?」
「なんだ」
「この村の名前は何でしょうか?」
「ここはバルム伯爵が治める領地の一部で男爵領内の辺境の村だ」
初めて知ったよ。村の名前が無かったことを。
村から出てから一週間。やっと目的地の町に着いた。
その間に文官さんといろいろ話した。貴族の文官さんの名前はレオナルド様、男爵家に仕えているらしい。
男爵様の仕事を手伝ったり、事務仕事で領地の年貢を調べたり、人材の発掘、雑務全般をしているそうだ。この人って中間管理職か?
今回は帝国との戦争で下人が減った為に他の村から下人を集めていて、辺境の村まで下人を探しに来た理由は魔法が使える子供がいるという噂を聞いたからだ。
魔法が使える子供だから男か女か文官さんは知らなかったようだ。でも女のマリーより男のオレのほうが使えるから問題ないだろう。
オレは旅の間に魔法を使ってアピールをする。火魔法で薪に火を付け、土魔法で土の桶を作り、水魔法で桶に水を入れて馬に飲ませる。
レオナルド様は満足顔で「良い買い物をしたな」と喜んでいる。ちなみにオレの料金はいくらでしょうか?
男爵領は男爵様が住む家と農園があり近くに町がある。農園では主に野菜や麦を作っていて税として作物を収めたり町で作物を売ったりしている。
農園の近くに森があり魔物や、動物などもいるが豊かな場所だそうだ。もともとは辺境の村だったが男爵のご先祖様が頑張って町を作り、農地を作った。今ではバルム領の中でも豊かな町になったらしい。
そして帝国との戦争で下人が減り生産量が少し減ったため、他の村から下人を集めているそうだ。
この国って他の国と戦争をしていたんだな。
しかし結構デカい町だな、まあ辺境の村とはえらい違いだ。
さてと、これからどうなるやら。レオナルド様に聞いたところこの男爵様の所有している農園で働くそうだ。この町の南側に農園が有るらしい。
「こっちだ。行くぞ」
「はい、わかりました」
レオナルド様について行き農園に着く。これからは下人として畑を耕すのか。前世は田舎で畑仕事をしたことあるから多少の知識はある。
「ゴラン、こいつが新人のトルクだ、後はよろしく頼むぞ。それから後で少し相談をしたいから時間をくれ」
でかい男だな、ゴランというよりゴリラを想像してしまう。
「では、トルクこっちだ。農園の案内をしよう」
今から下人としての生活が始まる。こうなったら出世して下人から平民になって自分の土地を持つために頑張るか。そして母親を迎えに行こう。将来この町で母親と生活するために頑張って出世するんだ。
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