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第二話

お読みくださりありがとうございます。





 それは、結婚から三か月後の事だった。

絵里のもとに残酷な知らせが舞い込んできたのは。





「絵里、今日は一緒に城へ来てくれないか? ハリー王子が至急話したいことがあるそうだ」


 突然のことに絵里はうろたえる。


 たまに城へ行くことはあっても、呼び出されることは今までなかったからだ。


 そんな絵里の様子に気づいたロベルトは、


「大丈夫だ、不安にならなくていい。俺がついているから」


と言って、頭をなでる。



――一人は不安だけど、ロベルトが一緒なら大丈夫。



 ロベルトと共に馬車に乗り込んだ。








「絵里さん。申し訳ない、呼び出したりして」


 部屋の中で待っていたのはハリー王子一人だけ。



「いえ……。あの、それで話したいこととは?」


 後ろに立っていてくれるロベルトの存在が絵里を強くする。



「君に言うべきか迷ったんだが……。ザギトス皇子が危険に陥っているらしい。詳しいことは分からないが、彼の仲間が密かに我が国に助けを求めてきた。君がザギトス皇子の事を友人だと言っていたのを思い出してな。一応知らせた方がいいかと思って」



――ザギトス!!


 ふらりとよろけた絵里をロベルトが支える。



「どういう状況なんですか?」


「彼が皇帝を討つつもりだということが皇帝本人にバレ、幽閉されているらしい。どうやら彼の仲間に裏切者がいたようだ。今はまだ何とか生きているが……危険な状況らしい。血も涙もない皇帝の事だ。息子を殺すのなんて屁とも思わないに違いない」



――そう。その通りだ。現に彼の兄は皇帝の手によって殺されているのだから。


「助けに……助けに行かないのですか?」


 震える声で問いかけた。

 わずかな希望は簡単に潰える。


「行かないよ。行けない」


 正当な理由なく、他国の内情に首を突っ込むことはできない。


 どんなに残酷で、どんなに非道な決断であろうとも、それを下すのが王族の務め。


 悔し気に歪められたハリーを前に、絵里は何も言うことができなかった。





――何かあったら駆けつけるから。


 あの日の近いが絵里の頭に木霊した。






捕らえられてなお、助けを求めようとしなかったザギトス皇子。

彼はいったい何を思ったのだろう。









*~*~*~*~*~*~*~*~*








「絵里」


 部屋を出ると、ロベルトがすっぽりと抱きしめてくれた。

 不安な時、悲しいとき、ロベルトはいつも気づいてくれる。

 そしてギュッと抱きしめてくれるのだ。



「ロベルト……。わたしどうすればいい? どうすればザギトス皇子を助けられる? 私約束したの。何かあったら真っ先に駆け付けるって。何があっても駆けつけるって。なのに……私はこんなにも無力だわ」



 悔しくて、悲しくて、泣く資格なんてないのに涙が止まらない。


――ザギトス……。なぜ? どうして助けを求めてくれないの? あの約束を忘れたの? 私のことを信じてないの?




「絵里。お前はお前の思う道を進め。誰が何と言おうと俺が肯定する。助けたいのなら行動しろ。受け止めるから」



――ああ、適わない。



 誰に何を言われても。

 愛する彼が受け止めてくれるなら、怖いことは何もない。



――例えヴェリトスにとって良くないことが起こっても、私はあなたのもとに駆け付ける。


――あなたが私を信じていなくても。あなたが約束を忘れていても。あの日の誓いを私は果たす。




「私、彼を助けたい。助けに行くわ」





 ザギトスが帝国の未来を憂いていたことを知っている。

 ザギトスが帝国の民を救いたいと思っていたことを知っている。

 国を立て直すという想いのもと、重責に抗い続けた彼の葛藤を、絵里は良く知っている。


 そしてなにより。

 皇帝への消えない復讐心を、絵里だけが知っている。



――でも。それでも。


 ザギトスを助けたことで彼が帝国の皇太子でなくなってしまったとしても。

 彼の努力を踏みにじる結果になってしまったとしても。

 例え、恨まれたとしても。



――生きてほしい。


 そう思ってしまうから。

 だから絵里は彼を助ける。



――生きてさえいれば、人は何度でも這い上がれることを知っているから。








*~*~*~*~*~*~*~*~*







 五日後、絵里とロベルトはサザール帝国に向かって出発した。


 といってもロベルトはハリーに休暇を申請し、ハリーもロベルトが何をするかを分かったうえで受理した。



 ハリーの掌の上で転がされているようで面白くない。

 愛する妻を危険にさらしたくない。



 だが、それが彼女の望みなのなら話は別だ。


――妻の望みを全力で叶える、それが夫というものだろう。





 おそらくすぐに騎士たちが絵里を追ってくる。

 大切な送り人を守るためであり、ザギトスを助けるためでもある。




 休暇を申請した日、ハリーは言った。


「絵里さんを頼んだよ。私もすぐに軍を派遣する。たった一週間で天候は乱れ、犯罪は増加した。絵里さんの不安の結果がこれだ。城の爺どももザギトス皇子救出に賛成せざるを得ないさ」


「これが狙いだったんですね? 絵里を不安にさせて国を不安定にさせる。そうなれば絵里の心の安定のため、ザギトス皇子の救出に反対する者は少なくなるから。その上絵里がサザール帝国へ向かえば送り人の保護という名目で軍を派遣できる」


「さあ、どうかな?」







――たとえ殿下の思惑道理だとしても。それがなんだ。俺は俺のすべきことをする。絵里を守る、それだけだ。





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