第十四話
本日投稿するのをすかっかり忘れていました。゜(゜´ω`゜)゜。遅くなって申し訳ありません(>人<;)
ロベルトが語った内容は、ハリーが、いや、ハリーだけでなくザギトスや絵里ですら想像もしていなかったことだった。
「国宝を盗んだのはロナルド王子一人の犯行。もちろん、協力者はいるがそれはミカエル王子ではない。真実は、絵里の小説が教えてくれました」
掲げたのは一冊の本。――絵里の最新刊。
「どういうことだ! その本に俺が犯人だとでも書いてあるのか? だったら何だってんだ。たかが物語、本当の事じゃない。証拠なんてないだろ!」
「俺もその本読んだが、こいつが犯人だということはおろか、事件についてさえ書いていなかったぜ?」
既にその本を読んでいたザギトスも不本意ながらロナルドの意見に同意する。
「ええ、もちろん、事件をそっくりそのまま書いてあるわけではありません。というより、絵里自身すら自分が事件の真実を書いているなんて自覚していません。ただ、事件を意識しながらこの本を読んだとき、全ての謎が明らかになりました。すべてのピースがあるべきところにハマったのです」
皆の視線が一斉に絵里に集中する。
――え、え、え。何の事? 理解不能なんですけどー!!
「話を続けます。事件当日、共犯者が厨房に火をつけ、ロナルド王子はその隙に宝物庫に侵入して国宝を盗みました。そしてそれを部屋に隠した。動機はサザール帝国に対する厭悪でしょう。ハリー王子からサザール帝国への協力の話を聞き、いてもたってもいられなくなったあなたは、国宝盗難の罪をザギトス皇子に着せようとした。サザール帝国はやはり信用できない、裏切るつもりだと思わせたかったのですね」
ここまではハリーやザギトスが考えていたことと一緒だ。
「その共犯ってのは誰なんだ?」
「共犯者は……レイ・タッカル、あなただ」
ロベルトが真っ直ぐ見つめる先。
その先にいたのは……。
「おじいちゃん先生……?」
絵里が呆然としたように呟いた。
驚いたのは絵里だけではない。
「そんな、まさか。レイ先生がそんなことするはずがない!」
彼のかつての教え子であるハリーも信じられなかった。
――いつも優しく導いてくれたレイ先生が……。まさか……。
「残念ながらこれが真実です。レイさん、認めてくれますね?」
「はい……。私が厨房に火をつけました。彼に、協力しました」
閉じた瞳のその先に、彼はいったい何を見ているのだろうか。
静かに語るその横顔。
銀色のまつげが、暗い暗い影を落としていた。
「始まりはハリー王子がザギトス皇子の部屋から出てきたのを偶然目にしてしまったことでした。良好な関係とはいいがたいはずの二人が何故一緒にいたのかが気になり、私はロナルド王子のもとへ行きました。そして知ったのです、あの恐ろしい計画を」
淡々と紡ぎだされる言葉を、誰も止めることができない。
ハリーも、ロナルドも、そして絵里にも。
「驚きましたよ。我が国を蹂躙し、大勢の犠牲を生み出したサザールを、私は許せなかった。それなのに協力しようとしている王にも王子にも怒りがわきましたよ。大勢の国民が死んでいったのに、その当事国を助けるなんて冗談じゃない。信用なんてできない。だから邪魔しようと思ったんです。ザギトス皇子が国宝を盗んだということになれば、我が国のサザールへの協力は見送らざるを得ません。国民も、大臣たちも納得しないでしょうからね。それなのにまさか見破られてしまうとは……残念でなりません」
彼は最後まで反省を示さなかった。
後悔さえしていないようだった。
「だが、それなら会議で強く反対すればいいじゃないか。多分他にも俺を信用できないという人は大勢いるだろう。なにも罪を犯さなくてもよかっただろ……」
ザギトスが理解できないという風に言うと、レイはその瞳に憎悪の炎を燃え上がらせた。
「あなたが! あなたに何が分かるっていうんですか!? あなたにだけは言われたくない。私はサザールのせいで妻を失った。あの戦争のせいで、あなたたちが理由なく起こした戦のせいで愛する妻を失ったんだ! あなただけは許せなかった。例え真実、戦争を起こしたのがあなたではないとしても! あなたの皇帝を倒したいという思いが本当だとしても! あなたがサザール人だと言うだけで憎くてたまらないんだ。この城に、この国に一歩たりとも踏み入ってほしくなかった!」
魂の叫びだった。
慟哭だった。
流れ落ちる涙でさえ消せない憎しみの炎。
あの戦争を経験した者の悲しみと憎しみ、そして何年、何十年たっても消えない喪失。
戦争の負の連鎖の一端を見た。
「俺は、俺は違う! 俺じゃない! ミカエル……そうだ、犯人はミカエルだ。俺じゃないんだ、ミカエルがやったんだ!」
場の空気を破ったのはそんなロナルドの喚き声。
「何を言ってるんだ? 言い逃れはやめろよ。弟を身代わりにするなんて胸糞わりーな」
蔑むような視線をロナルドに向けるザギトス。
周りの騎士たちも同じような表情を浮かべている。
「ミカエル王子を甘く見ないほうがいいですよ。彼は我々にずっとヒントを出し続けてくれていたのですから。それこそ、巧妙すぎて気づくのが遅くなるほどに」
「どういうことだい?」
「ミカエル王子とロナルド王子は同室です。そしてロナルド王子はミカエル王子のことを少しも警戒していない。すべてを知っていたミカエル王子は我々にヒントを残したんです。最初に引っかかったのはあの日、私と絵里が部屋を訪ねた時、“僕は”とわざわざ強調したときです。ただ、それだけでは私は真相にたどり着けなかった。だからハリー王子を部屋に招いた。多分、国宝をわざと目に付くところに置きなおしたのでしょう。私と絵里がミカエル王子の部屋に行った時は見つけられませんでしたから」
――そういえばそうだった。ぶしつけにならないように部屋を見渡したが、国宝のこの字も見当たらなかった。
「ふぅ。よく分かったね。兄が犯人だということにはたどり着けても、僕が解決のヒントを出していたことに気づくとは思わなかったよ」
そう言うミカエルの瞳はどこまでも澄み渡り、理知的な光をたたえていた。
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