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第六話

お読みくださりありがとうございます。





 次の日、絵里とロベルトはザギトス皇子の部屋にお邪魔していた。


――はだけたシャツから覗く胸襟が……エロッ! 五歳差……え、五歳差でこの色気はやばいわ。



「そんなに胸をガン見して……惚れた?」


 耳元で囁かれたハスキーボイスに、柄にもなく本気で照れた。



 そう。

 今絵里とザギトスは隣同士で座っているのだ……それも密着して。


 この部屋には二人掛けのソファーしか置いてないのだ。

 決して絵里がお願いしたとかではない、絶対!


 そしてその後ろでは、ロベルトが二人の近すぎる距離にヤキモキしている。




「あ、あの。今日は聞きたいことがあって……」


 間近にある顔を見るのが気恥ずかしく、チラチラとしか目を合わせられない絵里。



「何ですか?」


 対してザギトスはバッチリしっかり絵里の横顔を見つめている。


 その目には絵里に対する特別な想いが浮かんでいる……ようにロベルトには見えた。



「四日前に火事騒ぎがあったじゃないですか。あの日、どうしてザギトス皇子は部屋にいなかったんですか?」


「もしかして、俺が火事を起こしたんじゃないかって思ってますか? 俺はあの時、国王陛下に拝謁していました。だから俺には火事を起こすことなんて不可能ですよ」


 そう答える彼の口調に疚しさや不快感は皆無だ。



――疑われたっていうのに穏やかなこの態度。ロナルド王子とは格が違うわね。



 国王陛下への拝謁――これほど確実なアリバイはない。



「わかりました。あの、疑っちゃってすいませんでした」


 立ち上がり、しっかり頭を下げる絵里。


「いいですよ。……でも、俺も一つお願いがあるんですけど」


「何ですか?」


「また、絵里さんが暇なときにお話に付き合ってくれませんか? 今度は二人っきりで」



――蠱惑的な瞳……。でも、何だろう。

それだけじゃない魅力を感じる。

否応なしに惹きつけられる漆黒の瞳……。



「いいですよ」


 気づけば、考えるより先に答えていた。







*~*~*~*~*~*~*~*~*







「ほんとに一人で会うつもりか?」



 ザギトスの部屋を出た後、ロベルトは速攻で絵里を問いただす。


 純粋に絵里を心配しているのももちろんだが、男と二人っきりになるというのが気に入らない。


――二人とも、妙に惹かれ合っているように見えたのは気のせいか?



 要は、好きな女が自分ではない男と親密そうにしていて焦っているのだ。




「大丈夫ですよ。私、なんでか分からないけど、彼が何かするような人じゃないって確信してるんです」


 ロベルトの内心に気づかない絵里に悪気はない。



――なんでそんな信用してるんだよ! え、やっぱザギトス皇子を好きになったとか……そういうことか? いやいやいやいや、絵里に限ってそれはない。大丈夫だ。俺にもチャンスはある。大丈夫だ。




 初恋に振り回されるロベルトなのであった。








*~*~*~*~*~*~*~*~*







 その日の夜、団長室では。




「マックス……聞いてくれ、一大事だ」



 どんよりオーラをまとったロベルトに呼び出されたマックスはサッと姿勢を正す。


 てっきり、事件について何か進展があったかと思ったのだ……が。



「絵里が……絵里が来週ザギトス皇子と二人っきりで会うって言うんだ。今日も二人とも親密で……。俺はどうしたらいいんだ!?」


 悲壮感漂う顔で言われても……正直マックスは困る。


――恋愛相談なんて柄じゃないじゃないですか……。



 これが他の人、例えば部下の騎士たちとかだったら、適当にあしらって終わりだが、団長相手にはそうもいかない。


 なんだかんだ、ロベルトの遅い初恋を応援しているのだ。




「別に二人で会うくらい大丈夫ですよ。友達、友達なら普通の事です」


「だが、会って間もないのに仲良さそうだったぞ。一目惚れとか……」


「団長、よく考えてください。絵里さんが一目ぼれするようなタマに見えますか?」



「……だが、ザギトス皇子の方が絵里に惚れたかもしれん」


絵里に関してはノーコメントを貫いたロベルト……そのノーコメントが彼の内心を如実に表している。



「それはそれで恋のライバルが増えるだけです。仮にそうでも、団長が一歩も二歩もリードしているんだから大丈夫ですよ」



「だが……」


 それでもまだもの言いたげなロベルトだったが、


「それに、私が見ている限り、絵里さんも団長の事を特別に思っているように見えますよ」


と言うマックスの言葉に、ほんとかっ!? とマックスを凝視する。



 心なしか、ロベルトの周りが明るくなったような気がする。



「ええ。最初に一緒に街に行った時から明らかに団長の距離が近づいたように見えますよ」


「そうか。……そうか」


 噛みしめるように何度も頷いている。


 頬も緩み、今度は明らかにハッピーオーラ全開だ。




――いい加減ウザイですね。


 心の中で毒を吐くマックス。

 彼の腹黒さも健在のようで何よりだ。






「それより団長、用ってこれだけですか? 事件の進展とかはないんですか?」



 質実剛健を地でいく団長が恋愛相談のためだけに自分を呼び出したことを信じられず、他に何か仕事関係の用があるんじゃないかと思ってしまう。



 だがマックスの予想に反し、


「いや、用はこれだけだ。事件に関することも夕方ミーティングで言ったことが全てだ。夜遅くに悪かったな」


と、ガシガシ頭をかきながらきまり悪そうにロベルトが答えたため、マックスは心底驚いた。



――あの団長が、仕事と関係ないことで部下を呼び出すなんて……。恋はこんなにも人を変えるんですね。感慨深い……。




 どんどん己の殻を破っていくロベルトを眩しく思う。



――はぁー。私も恋愛したいですねぇ。








*~*~*~*~*~*~*~*~*







 同日、深夜。



 皆が寝静まった城の一室。


 未だ明かりがついたままのこの部屋で、ザギトスとハリーが酒を酌み交わしていた。




「絵里さんと会ったんだって?」



「ああ。火事の犯人じゃないかと疑ってたらしい。ま、俺はその時陛下と会っていたからすぐに疑いは晴れたがな」



「へー。そっか、彼女この事件も調査してるんだ……」


 何やら考え込むハリー。


「どうした?」


「いや。彼女、去年この城で起きた毒殺未遂事件を解決したらしいんだ。その時はハミン国に留学してて見れなかったから、今回はお手並み拝見だなーって思って」



「その情報確かなのか? どうせ素人の道楽だろ?」


「いや、父上から聞いた確かな情報だよ。でも絵里さんは自分が事件を解決したなんて思ってないらしい。彼女小説を書いてるんだけど、事件後に書いた小説の内容がたまたま犯人特定に大きな役割を担ったって聞いたよ」



「へぇ。ちょっと面白いな。俺も彼女の小説読んでみたいな」


「ぷっ。それが、彼女は男同士の恋愛が好きみたいで、彼女の書く話はみんな男同士の恋愛ものだよ」


「げっ。それ需要あんのか?」


「女性からは結構な支持を得てるみたいだよ。俺も一冊読んでみたけど……なかなか面白かったよ」


「まじか。じゃあそれ貸してくれ。俺も読んでみるから」



――今度会ったときの話のネタにはなるだろ。




「来週も絵里さんと会うんでしょ? なに、気に入ったの?」


「ああ、まあな」


 素直に肯定したザギトスに驚いた。


――へぇ。本気で気に入ってるっぽいね。





 だが、だとしたら問題だ。


「ねえ、分かってるよね。情を挟んで俺たちの未来を台無しになんてしないでよ?」


 普段のゆったりした雰囲気は消え去り、苛烈なまでの視線がザギトスを射抜く。





 ザギトスはその視線を真っ向から受け止める――ハリー以上の想いを込めて。



「わかってる。当たり前だろう? 俺は、おまえの何倍もこの計画にかけているんだから」







 ふっと視線を緩めるハリー。


「そうだったね。ごめん」





 張り詰めた空気は一気に霧散した。




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