第二話
毎週火曜日に投稿です。
それから一か月、みっちり授業を受けたこともあり、絵里はサザール帝国とハミン王国についてだいたいのことを学ぶことができた。
ハミン王国の王子達とヴェリトス王国の王子であるハリー王子は仲が良いらしく、特に第一王子のロナルドとは同い年ということもあり、昔から気やすい仲だとか。
現在ハミン王国へ留学中の彼は、今回のパーティーに合わせて両王子と一緒にこの国へ帰ってくるらしい。
「次期国王として国を背負わなければならない二人の叶わぬ恋。親友同士っていうのがまたそそるわよね」
ブツブツ独り言を言いながら久々の創作活動に燃える絵里。
次回の作品のあらすじはこうだ。
幼少期から交流のあったA国の第一王子とB国の第一王子。二人はいつしか互いに愛し合うようになるが、ともに第一王子という立場故、その思いが成就するはずもない。国への忠誠と愛する人への愛の狭間で揺れ動く二人……!
――くー! 切ない! でもめっちゃ滾る!
こうして、大国の王子をモデルにしたとんでもなく不敬な小説が誕生した。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
勉強の方がひと段落付いた絵里は、ロベルトと一緒に街へと繰り出していた。
警備の計画や日々の鍛錬で忙しくしているロベルトだったが、久々に休みが取れたので、一緒に買い物をしようと絵里を誘ったのだ。
「最近はどうだ? 困ってることとかないか?」
ここ最近、二人は忙しさのあまり会えていなかった。
――久々に一緒に過ごすけど、やっぱりロベルトさんといるのは楽しいな。
去年は毎日のように会っていたこともあり、ロベルトの居ない毎日に、絵里は知らず知らずのうちに少し寂さを感じていたようだ。
こうして一緒に過ごす時間がなんだか感慨深い。
「大丈夫ですよ、みんな親切だし、毎日充実しています」
「そうか。困ったことがあったらいつでも言ってくれ。それと、騎士団にもいつでも来てくれていいからな。最近絵里が来ないと騎士たちが寂しがっている……もちろん、俺も寂しいが」
「へへへ。そう言ってくれると嬉しいです! ネタが切れてきたので、また騎士団に行きますね!」
ニマニマして、心底嬉しそうな絵里。
――可愛いな。
「はぐれるなよ」
そう言ってロベルトは絵里の手を取った。
「おばちゃん、串焼きください!」
元気よく注文する絵里と、その横にぴったり寄り添うロベルト。
「おやおや、お似合いのカップルだねー」
商品を渡しながらからかう声は何度目だろうか。
「ふふふ、カップルじゃありませんよー」
最初は恥ずかしくなって狼狽えたが、それが何度も繰り返されれば慣れたものだ――ロベルトはまだ慣れずに耳が赤くなっているが。
熱々の串焼きを仲良く頬張る二人。
こんなに楽しい一日を過ごしたのは久々だ。
「そろそろ帰るか」
そう言って手を差し出すロベルト。
そこに自然に手を重ねる絵里。
「今日は付き合ってくれてありがとな。これ、良かったら使ってくれ」
そう言って差し出したのは、綺麗にラッピングされた万年筆。
絵里のことをよく考えて、選びに選んでくれたのが伝わってくる。
「!! ありがとうございます! すごく嬉しい……。大事に使います!」
大切そうに両手で受け取った絵里。
そんな絵里の様子にロベルトも嬉しくなる。
――遠慮したり、困惑されるかと思った。少しずつ、人からの好意に慣れていってくれているのだろうか。
この絵里の変化はロベルトにとって本当に嬉しい。
絵里の頭をポンポンと撫で、ロベルトは寮へと踵を返す。
――かっこいい。
トクトクと胸を高鳴らせる絵里は、火照る頬を両手で覆った。
*~*~*~*~*~*~*~*~*
「おおー! 絵里ちゃん!」
「おっ、絵里ちゃんじゃん! 久しぶり」
「最近絵里ちゃん来ないから寂しかったぞ!」
「絵里ちゃーん、どうよ、俺のこの筋肉」
翌日早速騎士団へ行った絵里は、瞬く間に騎士たちに囲まれた。
みんなの歓迎が素直に嬉しい。
最初は、ただBLの妄想をするために訪れていた騎士団。
でも今は、皆に会いたくて、皆に会うことを目的に、この場所にいる。
かといって、妄想しないわけではないが。
「絵里ちゃん鼻が動いてるぞー」
「また何か妄想してるだろー」
絵里が来て、一段と賑やかになる騎士たちであった。
騎士たちと一時間ほど過ごした後は運動の時間。
贅肉を落とすため、日々必死でランニングやストレッチ、ダンスの練習で脂肪を燃焼させている絵里。
パーティーに向け、メイドやシェフと一丸になってダイエットに取り組んでいるのだ。
運動の効果か、はたまた食事制限の効果か、顔周りが少しシュッとし、体が軽くなった気がする。
そして今日は、ドレスの採寸が行われた。
ぎゅうぎゅうに絞られるコルセット。
少しでも気を抜けば、すぐさま鋭い注意が飛び、ひと時も気が抜けない。
そして、ドレスは何色がいいかと聞かれたが、そんなの分かるわけがない。
結局、何となく心惹かれた青色のマーメイドタイプのドレスにすることにした。
「はぁー、疲れた」
夜、ようやく一人になれた絵里はぐったりとベッドに沈み込む。
昨日の夜はロベルトの事を考えていつもより寝つくのが遅くなってしまったが、今日は疲労ですぐに夢の世界へと旅立った絵里だった。
こうして、忙しくも充実した日々が過ぎ去り、気づけば国王の誕生日パーティーは二か月後に迫り、各国からの来賓者が続々と城へやってきた。
「うわー、どの国の馬車も立派ね」
その日、絵里は自分の部屋の窓から来賓者たちが城内にやってくるのを見下ろしていた。
「うわっ! あれ絶対ハミン国とサザール国の馬車だわ! 豪華さが全然違う!」
絵里お目に飛び込んできた、一際立派で輝かしい馬車たち。
漆黒の馬車数十台と、純白の馬車数十台。
「大国ともなれば護衛の数も桁違いよね」
一人頷く絵里。
いよいよ、他国の人たちがやって来たのだ。
絵里にとっても、ここからが正念場だ。
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