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第一話

いよいよ第2章に突入です!

1週間に一度程度の投稿となりますが、よろしくお願いします!!





 絵里がこの世界に来てから二度目の春。


 花々が美しく咲き誇るこの季節、のどかな情景とは裏腹に城内の空気は慌ただしい。


 それもそのはず、半年後にヴェリトス王国国王の五十歳の誕生日を祝うパーティーが開催される予定なのだ。


 半年後とはいえ、今から準備に大忙しだ。




 そんな城の忙しさと同様、絵里の生活もにわかに慌ただしい。


 あの毒殺未遂事件が解決して以来、どういう訳だか犯人逮捕に絵里が貢献したという噂が広がり、色々な相談事を持ちかけられるようになったのだ。


 自作の小説もさらに人気を博し、忙しくも充実した日々を過ごしている。





「絵里、ここにいたのか」


 昼食を食べ終わりぶらぶら庭園を散歩していると、ロベルトがやってきた。


「陛下が呼んでいる。一緒に来てくれ」


――なんだろう。


 絵里が国王と会うのは、去年のお披露目パーティー以来だ。


――私、何かしでかした!?



「ははは、すごい顔してるぞ」


 ぐるぐる考えていると、そんな絵里の顔を見たロベルトが噴き出した。


「もう、笑わないでくださいよ」


 そういう絵里の声も笑っている。


 あの日以来、二人の仲は少し近づいた。








 城の上層階、国王の執務室。


 ここまで階段で上ってきた絵里は息切れが激しい。


 息一つ乱していないロベルトとは対照的に、足ががくがくし、日頃の運動不足ぶりがありありと分かる。



 大きな扉の前に立つ護衛の一人が二人の来訪を告げ、絵里は息が整わないうちに室内へと足を踏み入れた。



「よく来てくれたね、絵里さん」


 今年で五十歳とは思えないほど若々しい国王と、これまた美しい王妃がにこにこと絵里を迎えてくれた。


「お久しぶりです、陛下、王妃様」



「まあ座ってください。一緒にお茶でも飲みましょう」


 勧められるまま、絵里はふかふかなソファーに腰を下ろして紅茶をいただく――ついでに美味しそうなケーキやクッキーも。


 背後から感じるロベルトの視線は無視だ。



「ふふふ、絵里さんはやっぱり可愛らしいわね。私も女の子が欲しかったんだけど、授からなくて……。だから絵里さんとこうして一緒にお茶を飲んだりできて嬉しいわ」


「そう言っていただけると私も嬉しいです」


 すましてそう答える絵里の手は、もう次のケーキにのばされている。




「それで、今日絵里さんを呼んだ訳なんだが……。絵里さんに、半年後に開かれる私の誕生日パーティーに参加していただけないかと思ってね。前回のパーティーではこの国の人にのみお披露目をしたが、今度のパーティーには他国の重鎮たちがこぞってやってくるんだ。絵里さんを紹介してくれという声も多くてね……。もし嫌でなければお願いしたいんだ」


 そう言って頭を下げる国王と王妃。



「頭を上げてください! 私は構いませんよ」


 慌てて頭を上げるように促しながら、パーティー参加を了承する絵里。



――どういう風の吹き回しだ?


 てっきり面倒臭いと断るか、渋ると思っていたロベルトは驚いた。








「どうして了承したんだ? 俺はてっきり断るかと思ったが……」


 部屋を出るなり、ロベルトが絵里に尋ねる。



「うーん。まあ、料理も美味しいだろうし、この間のパーティーの後、小説のアイディアが沢山浮かんだし……。それに、あんなに良くしてくれる二人の頼みは聞いてあげたいし」


 ちょっと照れてように、後半は少し早口で答える絵里。



――そうか。家族の愛を感じたことがない絵里は、良くしてくれた二人への恩を返そうとしたのか……。



 貸し借り、ギブアンドテイクでしか人間関係を考えられない絵里に少しだけ寂しくなるロベルト。


 絵里の考え方にではなく、絵里がこうなるしかなかったかつての絵里の環境に切なくなる。



――いつか、愛されることが当たり前になるようにしてあげたい……。





 ヒイヒイ言いながら階段を下りる絵里の後姿を見つめ、ベルトは強くそう思った。










*~*~*~*~*~*~*~*~*~*











 絵里がパーティーに参加することが決まった日から、絵里の生活はさらに慌ただしくなった。




 マナーな礼儀作法、この国の常識などは学んだとはいえ、他の国について絵里はまだまだ疎い。


 それらの勉強に加え、ドレスの採寸、美容トレーニング、マッサージなどのボディケアなど、やることは沢山だ。




「絵里さん、最近太りましたね」


 入浴後、メイドたちに全身をこね回され、なんだかよく分からないツボを押しまくられ、絵里は早くもぐったりだ。



 その上、気のせいにしていたお腹周りのぜい肉を指摘され、絵里の心も大打撃を受ける。



「いいですか、明日からおやつは禁止! 食事もおかわりは一回だけですよ」



――!!


 今日一番のショックを受けた絵里であった。







 翌日、朝食をおかわりしようとしてメイドたちに止められた絵里は、早速始まった他国の文化の勉強中にひっきりなしにお腹が鳴ってしまう。


「ははは、お腹が空いては戦ができぬと言いますしね。皆には内緒ですよ」


おじいちゃん先生にこっそりクッキーを貰った絵里。


――なんて優しいの! この先生大好き!


 単純な絵里が勉強に力を入れたのは言うまでもない。




「覚えておいた方がいいのは、隣国のサザール帝国とハミン王国についてです。この二国は我が国にとって色々な意味で重要ですので。その他の小国については、余裕があればでいいでしょう」


「はい、よろしくお願いします!」




「ではまずはハミン王国について説明しますね。ハミン王国は我が国とは良好な関係です。今回のパーティーに来訪するのは、第一王子のロナルド・ハミン殿下と第二王子のミカエル・ハミン殿下です。ロナルド殿下は二十一歳で絵里さんと年が近く、ミカエル殿下は十九歳で絵里さんと同い年です」


「へぇ。国王本人は来ないんですね」


「さすがに国王が国を空けるわけにはいきませんからね。では、次はサザール帝国についてです」


 心なしか、先ほどより声が固い。


――そうか、おじいちゃん先生は先のサザール帝国との戦を経験してるんだ。


 十年以上前のこととはいえ、それを経験した者はまだ遺恨を残しているのかもしれない。



「サザール帝国と我が国との関係は正直あまりよくありません。というより、サザール帝国はどこの国とも有効な関係ではありません。これは前に言いましたが、帝国は侵略を繰り返しすぎました。多くの国を滅ぼし併合して大国となりましたが、その分恨まれています。そして今回のパーティーに参加するのは、皇太子ザギトス・バルハンです。停戦中とはいえ、相手は帝国。私はあまり関わるべきではないと思います」




――国と国の付き合いは複雑なんだな……。誕生日パーティーというおめでたい席でも腹の探り合いは避けられない……。王族って大変だな。




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