閑話
お読みいただきありがとうございます。
――絵里がむしゃむしゃ料理を食べている時のお話――
「ねえねえ、宰相さんってどこにいるの?」
イチゴのケーキを頬張りながらキョロキョロする絵里。
料理のおいしさで一瞬自分の使命を忘れていたが、デザートを食べていて思い出した。
BLとはときめきと萌の宝庫であると同時に甘くておいしいシチュエーションが詰まったものなのだ……少なくとも絵里にとっては。
「宰相は……ほら、あそこだ。隣にいるのは奥様だな」
ロベルトの指さす方を見ると、立派な口ひげを持つダンディーな男性が目に入る。
隣には、上品そうな女性が控えめにたたずみ、二人は仲睦まじそうに何やらしゃべっている。
「えー! 宰相さんって結婚してるんですか! なんだー、つまんない! 私は陛下との純愛展開を見たかったのに……」
小声でぶすくれる絵里。
――陛下のそばを片時も離れない宰相。そんな彼を誰よりも信頼する陛下。長い年月を共に過ごした二人の絆は愛よりも固く、強い……へへへへへ。
「おっ、おまえ、不敬だぞ! 陛下を妄想のネタにするな!
ロベルトに小声ながらがみがみ怒られた絵里は、しぶしぶ興味の対象を他の人物へと切り替える。
「あれ? あの人は誰? 壁際に一人でいるプラチナブロンドの彼」
「ああ、彼は確かバッテンデル男爵家の長男だ」
「へー、なんだか謎めいた雰囲気で興味を掻き立てられるわねー」
――身分違いの恋に燃えるとか美味しい設定だわっ! 例えば、伯爵家の長男と恋に落ちるの……。でもお互い家を継がなくてはならない、身分も釣り合わない……。たぎるわっ!
俄然瞳の輝きが増す絵里。
「彼に婚約者はいるの?」
「ああ、いるぞ。婚約者の女性は伯爵家なんだが、彼に一目ぼれして婚約したらしい。彼も、家の援助をしてもらっている以上むげに断れず、当時の恋人と泣く泣く別れたという噂もあるぞ」
「なんて波乱万丈な展開! これで男同士なら完璧なのに! 惜しいわー」
勝手に他人の恋路に口を挟んで一喜一憂する絵里。
――全く、どこにいてもこの女は変わらんな。
ふっとほんのわずかに口角を上げ、和らいだ瞳で絵里を見つめるロベルト。
――絵里といると退屈しないな。
それからも絵里は食べては妄想し、妄想しては食べるを繰り返した。
「あの男爵家の次男は絶対攻め! 一見わんこキャラに見えるけど隠れドSという美味しいキャラ! あっ、あっちの公爵家の男性は年下とくっついたらときめくわね」
もきゅもきゅと、今度はフルーツタルトを食べながら絵里の話は止まらない。
絵里が想像していた以上にいろんなキャラの男性がいて、絵里は大満足、お腹いっぱいだ(物理的にも、心理的にも)。
こうして彼女は美味しい料理と妄想を心行くまで楽しんだ。
ブックマーク、評価ありがとうございます。




