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第5話 溺愛

 Yu-no『ねえ君 最近髪切った?』



 唐突な質問に一瞬手が止まる。


 

 Keisuke『タモリかよ』



 適当な返しをすると、俺は火トカゲに連撃を決める。



 Yu-no『答えてよ』


 Keisuke『先月切った』



 ……髪型の話を振られると、日南からの“イジリ”を思い出す。


 髪型の話は、俺をダサいとかキモイとかディスる時の枕詞みたいなものだ。

 


 Keisuke『Yu-noはどうなの? おしゃれな美容院とか行ってるの?』



 矛先をずらそうと聞いた途端、Yu-noの話し文字が赤色に変わる。



 Yu-no『聞くか それ聞いちゃうか』


 Yu-no『セルフ散髪の不労貴族に聞いちゃうか』


 Yu-no『こりゃ これからの付き合いを考えないとな―』



 画面では、装備を解除した『Yu-no』が素手で殴りかかってくる。

 連続して浮かび上がる0ダメージの表示に思わず半笑いになる。



 Keisuke『ごめんごめん 悪かった』


 Yu-no『分かればよろしい』


 Keisuke『どうして急に 髪の話?』



 一瞬の空白。



 Yu-no『君 住んでるのって秋野市だよね?』


 Yu-no『じゃあ ここ行っとかない?』



 送られたURLは駅前の美容院のものだ。


 言われるままに見てみると、予想以上におしゃれな店内と、なにより予想を超えてくるのは―――その値段だ。



 Keisuke『高っ 千円カット一年分じゃん』


 Yu-no『You このくらいは普通だよ?』


 Yu-no『って Yahoo知恵袋で言われた』


 Keisuke『Yu-no知恵袋情報かよ』



 しかしなぜ突然、髪型の話が出てきたのだろう。



 Yu-no『そろそろクソったれな現実でも』


 Yu-no『装備出来るアイテムが必要だ』



 Keisuke『髪型とか 服装とか?』


 Keisuke『そういうのやんないんだと 思ってた』



 会話や態度。


 行動を変えて、人間関係を変えていく。

 それがYu-noの提案した作戦だ。



 Yu-no『うちらみたいな陰キャが いきなりおしゃれ始めても』


 Yu-no『あーはいはい 色気付いちゃって? みたいな』


 

 ……そう、それだ。

 俺達はおしゃれを諦めてるんじゃない。諦めさせられている。


 思わず視線を伏せた俺の視界にYu-noのメッセが流れ込む。



 Yu-no『今の君なら 大丈夫』


 Yu-no『きっと似合うよ?』



 ……どいつもこいつも無責任なことばかり言う。

 俺は黒い気持ちに身を任せてキーボードを叩く。

 


 Keisuke『俺の見た目 知らないだろ?』


 Keisuke『イケメンじゃないし 見たらガッカリするぜ?』


 Keisuke『Yu-noだって イケメンの方が好きだろ?』


 

 Enterを押した途端、俺は後悔する。


 ……これだ。俺のこんなところだ。

 ガキの頃から、言わなくていいことばかり言って人に嫌われる。


 ここまで来ると、わざとやってんじゃないかって気持ちになる。

 


 Yu-no『そりゃイケメンは嫌いじゃないけど』



 ……だよな。


 やさぐれて画面を眺めていた俺にとって、その続きのYu-noの言葉はあまりに予想外だった。



 Yu-no『―――仮に君の見た目が0点でも』


 Yu-no『知ってた? 他の部分の加点で』


 Yu-no『私の好感度を カンストしちゃってるんだよ』



 ……何だこいつ。


 天使なのか? 俺もう死んでたっけ。



 Keisuke『ごめん 変なこと言って』


 Yu-no『気にしないで というか 今更だよ?』


 Keisuke『ありがとう でも』


 Yu-no『?』


 Keisuke『この美容院』


 Keisuke『ちょっと高いかな 小遣いが』



 ポン


 唐突に響く通知音。

 俺は訝し気に通知画面を見る。

 


 ―――Yu-noから『不死王の錫杖』が贈られました



 久しぶりの贈り物。

 見慣れないアイテムだが、戦士は錫杖は装備できない。



 Keisuke『これ 戦士は装備できないよ』



 打ち終わった俺はあることを思い出す。

 このアイテムのRMTの相場は―――



 Yu-no『あげるから売っちゃって 即決でも30にはなるよ?』



 ―――っ?!

 

 ついつい麻痺していた。


 Re-liance(リライアンス)のレアアイテムは高額で取引される。

 俺のキャラが装備しているアイテム全て、現金化したらいくらになるのか。


 売ること前提でアイテムを貰って初めて、自分の受け取った物の重さを知る。



 Keisuke『まずいよ』


 Keisuke『あまりに 高額過ぎる』


 Keisuke『レベル上げ 捗ったし 前もらったのも 返すよ?』


 

 いつもはすぐに帰ってくる返事が、なかなか帰ってこない。

 画面の中では白魔術師の動きも止まっている。



 Keisuke『Yu-no どうかしたの?』



 思えば、一度もらったものを返すというのは失礼だったかもしれない。

 返すのはいつでもできるのだし、今言うべきでは無かった?


 だからYu-noからのメッセが届くと俺はホッと息を吐き―――次の瞬間、息をするのも忘れた。




 Yu-no『足りなかった?』




 ……予想外の言葉に固まる俺は、しばらくたってようやく返事を打ち終える。



 Keisuke『そんなことない ただ こんなに高い物をもらうわけには』



 Yu-no『ねえこれは 二人の問題』


 Yu-no『だから私は 君のために使うの 全部 私のためだから』



 ―――Yu-noから『マリンヘルムの兜(+2)』が贈られました



 Keisuke『やめて これ以上いらないよ?』



 Yu-no『ありったけ 全部 なくなったら』


 Yu-no『手足 切り落として でも 払うから』



 ―――Yu-noから『沈黙のラビットヘッド(+1)』が贈られました



 Keisuke『落ち着いて 少し 落ち着こうか』



 Yu-no『だから いらないなんて』



 Yu-no『言わないで 私を』



 ―――Yu-noから『海賊王の帽子』が贈られました


 ―――Yu-noから『マルゴロの鉄鎖』が贈られました


 ―――Yu-noから『不死鳥の羽根』が贈られました



 ……何が起こっているんだ?


 分からない。


 次々と響く通知音に、俺はスピーカーコードを引き抜いた。



「待って待って待って! 大丈夫だから! 何もくれなくたって君のこと!」



 俺はキーボードを叩きながら叫んでいた。



 Keisuke『とにかく一旦待って! 話を聞いて!』



 Yu-no『私 君が喜ぶなら なんでも』


 Yu-no『する から もっと 欲しい?』



 Yu-no『受け取って くれるよね?』



 再び続く沈黙。



 ―――間違えてはいけない。



 俺は天井を眺めて大きく深呼吸をする。

 キーボードを見ながら、慎重に一つ一つキーを叩く。


 ……今送るべき答えは一つ。




 Keisuke『ありがとう 嬉しいよ』

読んで頂いてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいい
[一言] 怖いって!がくぶる
[良い点] yu-noさん、一体何者なんだ… 閉塞した啓介くんの世界をぶち壊してくれた恩人。 時間だけじゃなくて色んなものが動き出したようです。 恋愛ではないけど昔、似た雰囲気のミステリー小説を読…
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