第2話 一番効果的な制裁を教えてあげる
フレンド申請 『Yu-no』 ―――了承しますか?
俺は震える手でマウスを握り直すと、『了承』のボタンをクリックする。
フレンド表示が『0』から、涙でにじむ『1』に変わる。
チャット申請を無意識に許可した俺の目に飛び込んできたのは―――
Yu-no『初めまして』
Yu-no『なんてね』
これまでと変わらない、いつも通りの『Yu-no』のメッセ。
俺は頬を流れる涙に構わず、キーボードを叩く。
Keisuke『ただいま』
Yu-no『お帰り 待ってたよ』
Yu-no『早くクエストに行こう?』
Keisuke『ありがとう でも』
Yu-no『?』
Keisuke『初期装備だしLV1だから』
Keisuke『足手まといに』
そこまで打って、はっと気づく。
……Yu-noは俺が初期装備の役立たずだって気付いていないのか?
もしかして、フレンド解除されるかも―――
Yu-no『構わないよ』
Yu-no『だってkeisukeと遊びたくて『Re-liance』してたんだから』
Yu-no『あ―――でも 初期装備だと色々面倒だよね』
ポン
ポン
ポン―――
立て続きの通知音。
開いたポップアップウィンドウに、矢継ぎ早にアイテム名が表示される。
Yu-noから『ルーンブレイド(ミスリル)』が贈られました
Yu-noから『亡国騎士団長の盾+5』が贈られました
Yu-no『嘆きのドラゴンスケイル(エンシェント+3)』が贈られました
………
………………
次々と届くアイテムのリストに俺は呆気にとられた。
その全てが、サービス開始から毎日イベントに張り付いていて、それでも入手が難しいU R装備だ。
おまけの様に付けられた装備もS Rが当たり前のように混じっている。
Keisuke『まずいよ』
Keisuke『全部レア装備だ』
それも―――誰もが欲しがるUR装備だ。
Yu-no『言ったでしょ』
Yu-no『keisukeと遊ぶために『Re-liance』をやってるの』
Keisuke『でも あまりにも凄すぎて』
Yu-no『貰ってくれないなら』
Yu-no『合成強化に使っちゃうよ?』
まだも迷っている俺の気持ちを見抜いたのか。Yu-noのメッセが届く。
Yu-no『んー じゃあ』
Yu-no『代わりに一つ』
Yu-no『お願い聞いてくれる?』
俺はこの時、頼まれたら命だって差し出しただろう。
緊張のあまり、返事もできない俺を待ちかねたように、Yu-noからメッセが届く。
Yu-no『私とパーティを組んでくれますか?』
―――
――――――
懐かしささえ感じる、初心者向けのオオトカゲ退治のクエスト。
自分のキャラは戦士で、Yu-noの操る白魔術師との組み合わせは二人組パーティーでは理想的とされている。
UR装備と、なによりYu-noの操るキャラの前では初心者クエストは物の数ではない。
サービス開始当初と異なり、少人数パーティーのクエストも攻略情報も十分だ。
“Keisuke8567-Kai”のレベルが10を超えた頃、俺達は冒険者ギルドに戻った。
Yu-no『明日は火吹き山くらい行けるんじゃない?』
火吹き山はLV20前後のパーティーが向かうエリアだ。
しかし、Yu-noと自分ならどうにか攻略できそうな気がする。
Keisuke『そうだね』
Keisuke『でも せめて氷装備が欲しいな』
言った途端。
ポン―――と響く通知音。
Yu-noから『氷の指輪(+3)』が贈られました
Yu-noから『吹雪のマント(+2)』が贈られました
Yu-no『お気に召しましたか? ご主人様』
俺は苦笑いしながらキーを叩く。
Keisuke『気に入ったよ』
Keisuke『どう 似合う?』
前までと同じようにふざけたやり取り。
しばらくの間くだらないお喋りを続けていると、突如Yu-noのメッセの雰囲気が変わる。
Yu-no『前のアカウント』
Yu-no『なにがあったの?』
……キーボードの上を踊るように動いていた指が途端に重くなる。
それでも俺はすべてを話した。
日南から受けたこれまでの仕打ちも含めて。
……何通メッセを打ったのだろう。
画面もろくに見ず、衝動のままに書き連ねていたことに気付いた時、俺の顔から血の気が引いた。
いくら何でもYu-noにキモがられたんじゃ。
諦めにも似た気持ちで画面を見ると、Yu-noはチャットモードから抜けていない。
俺のメッセが止まったのを見計らったかのように、Yu-noのメッセが届く。
Yu-no『―――頭 モニターに寄せてみて』
……思いがけないメッセに俺は一瞬戸惑う。
Yu-no『寄せた? してないでしょ』
見抜かれた俺は、慌てて頭をモニターに付ける。
……間抜けな姿だ。こんなところ誰にも―――Yu-noにも見せられない。
横目で見ているチャットボックスにYu-noからのメッセが届く。
Yu-no『今までよく頑張ったね』
Yu-no『だから頭撫でてあげる』
……え? Yu-noの奴、またふざけてるのか?
思わず吹き出しそうになった俺の目に、矢継ぎ早のメッセが流れ込む。
Yu-no『よしよし』
Yu-no『よしよし』
Yu-no『よーしよし』
Yu-no『大変だったね? 辛かったよね?』
Yu-no『君は何も悪くないから』
Yu-no『今まで辛かった分』
Yu-no『私に甘えていいんだよ?』
「なんだよこれ……」
笑い飛ばそうとした独り言が震えているのに気付いた時。
俺はこれ以上涙を堪え切れなかった。
――――――
―――
Keisuke『ありがとう』
一通り泣いた俺は、ようやくその言葉を打ち込んだ。
Yu-noはパソコンの前で黙って待っていてくれたらしい。
Yu-no『どういたしまして』
と、返してくる。
まさか泣いたところを見られていたわけじゃないけど。
どことなく恥ずかしくて手が止まっていると、Yu-noがまた話し出す。
Yu-no『それにしてもあなたの幼馴染 ひどいよね』
Keisuke『そうだね。でも仕方が無いよ』
Yu-no『話聞いてて気付いたんだけど』
Yu-no『彼女 あなたのこと好きだと思う』
思わず椅子から滑り落ちそうになる。
日南が……?! 自分のことを好きだって?
Keisuke『まさか そんなこと考えたことなかった』
Yu-no『だって そうとしか思えないよ』
Yu-no『女はね 好きでもない相手に』
Yu-no『そんな風に絡むほど 優しくないんだよ?』
じゃあYu-noは?
―――そう聞きたいけど、聞く勇気は出ない。
Yu-no『あなたはどう?』
Keisuke『どうって?』
Yu-no『彼女に好かれてたら 嬉しい?』
……嬉しいか、だって?
日南が俺に今までやってきた仕打ち。
仮に俺のことが好きなせいだとしても―――
Keisuke『許せない』
知らない内に指が動いていた。
無意識に打ち込んだその文字を見て、俺は今まで蓋をしてきた自分の気持ちに気付く。
―――許せない。いや、許すべきではない。
Yu-no『じゃあ決まりだね』
その次のメッセに俺は息を呑んだ。
俺の常識や理性や良心だとか―――そんなものを軽々超えて来たYu-noの言葉。
Yu-no『一番効果的な制裁を―――教えてあげようか?』




