第11話 あの人は君の
19:08
パソコンの時刻表示を見ながら、俺は落ち着かずに指先で机を叩く。
いつもならそろそろYu-noがRe-lianceにログインする時間だ。
19:27
しびれを切らした俺が立ち上がろうとする寸前。
画面にメッセージウィンドウが浮かんでくる。
―――Yu-noがログインしました。
……来た。
俺は急いでプライベートチャットを申し込む。
ややあって、チャットウィンドウが上がってくる。
Keisuke『良かった 会えた』
Yu-no『どうしたの? 今日はいつもより早いね』
Yu-no『そんなに わたしに 会いたかった?』
会いたかったのは間違いない。
……俺は息を整えると、キーボードを叩く。
Keisuke『それもあるけど 一つ聞きたいことがある』
Yu-no『?』
Keisuke『アメピグで最近 新しいフレンド出来たよね?』
Yu-no『??? うん フレくらい 何人もいるよ?』
Keisuke『“よすよす”って人と 最近にフレにならなかった?』
―――返事までの十数秒。俺は画面を凝視したまま待ち受ける。
いつも通り、さり気なく上がってくるメッセージ。
Yu-no『あー あの子』
Yu-no『あの子 なに?』
なにって……
まさか夜縁とYu-noは「偶然」出会ったとでもいうのか……?
俺は頭を振る。
そんな偶然があり得ないことくらい俺でも分かる。
Keisuke『彼女 日南の妹』
Enterを押した途端、心臓の鼓動が早まる。
……言って良かったのか?
Yu-no『あの子 日南の妹だったんだ!』
Yu-no『私 凄いね ビンゴじゃん!!!』
……Yu-noの反応をどう捉えるか。俺は慎重にメッセを打つ。
Keisuke『偶然なの?』
Yu-no『偶然と 言うより』
Yu-no『あの子のプロフ 見てごらんよ』
……彼女のプロフィール?
俺はスマホでアメピグを立ち上げる。
夜縁のアメピグ上でのアバター名は“よすよす”
プロフを開く。
趣味や好きな本、歌手が書かれた自己紹介の最後には―――
[雁ヶ音夜縁 秋野市在住 13才]
……え? 本名?
俺は思わずぽかんと口を開けたまま、画面を見つめる。
Yu-no『同じ市内で あんな変わった苗字』
Yu-no『絶対関係者 だと思ってたけど 妹か』
我に返った俺は夜縁に電話をかける。
……コールが10回を超えた時、俺は舌打ちをしてLINEを起動。
すぐに連絡をするよう夜縁にメッセを送る。
Keisuke『なんで彼女に言ってあげなかったの?』
Yu-no『? なんで 言うの?』
Yu-no『だって そのままの方が なにかと便利』
Yu-no『何も知らない 真っ白な方が 自由に』
Yu-no『使えるでしょ?』
目に映る単語に思わず思考が止まる。
……使える?
俺の指が半ば無意識にキーを叩く。
Keisuke『違う』
Yu-no『なにが?』
Keisuke『彼女は違うんだ そうじゃない』
Enterキーを押すと同時―――
部屋に響くスマホの着信音。画面には『雁ヶ音夜縁』の文字。
俺は飛びつくように通話ボタンを押す。
『こんばんわ、お兄ちゃん。どうしたの?』
「もしもし、夜縁ちゃん? 今少し大丈夫かな」
『うん、大丈夫。さっきまでお風呂入れてもらってたの。今はもうベッドだよ』
「今日見せてもらったアメピグだけど、プロフィールに名前を入れてるよね!?」
『だよ。それがどうしたの?』
夜縁の何気ない口調に俺は大きくため息をつく。
……まあ、確かに。SNS慣れどころか、世間ズレさえしていない夜縁だ。こんなこともあるかもしれない。
ただ、彼女にはそれが危険だと教えてくれる人がいない―――
「本名とか住所みたいな個人情報をネットに書いちゃダメだし、教えてもいけないんだ。いいかい、アメピグだけじゃなくて、全部だよ?」
俺の切羽詰まった口調に、夜縁は却って面白がるようにクスクス笑う。
『分かったよ。ふふ……心配性だね。お兄ちゃん、本物のお兄さんみたい』
「でも、おうちに悪戯でピザが十枚届いたら大変でしょ?」
『夜縁、ピザ大好きだからぺろりと食べちゃうよ』
あまりの無邪気さに、思わず俺も口元がほころぶ。
まあ、今回は早く気付けたのが幸いだ。
ふと視線をモニターに向けると、Yu-noからのメッセが溢れんばかりに届いている。
Yu-no『ねえ Keisuke?』
Yu-no『ちょっと どうしたの?』
Yu-no『なんか あった? おーい』
Yu-no『生きてたら 返事して?』
Yu-no『死んでても 返事して?』
Yu-no『返事 しろ』
Yu-no『おい』
―――まずい。Yu-noのことが頭から滑り落ちていた。
俺は片手でキーボードを叩く。
Keisuke『ごめん ちょっと夜縁と電話』
Yu-no『は?』
途端、Yu-noのメッセが赤文字に変わる。




