第45話:氷騎士、旅立つ
凱旋式の翌日、いよいよ王都を発つ刻が訪れた。
今は宮殿の前で、国王陛下にオーロラ様、モンセラートにたくさんの騎士や住民たちと、最後の挨拶を交わしている。
ひと通り挨拶が終わったところで、国王陛下が力強く俺たちの手を握った。
「コーリ殿、リゼリア殿、本当に世話になった。今、宮殿に2人の像を建てようと計画中だ。ただ、氷が手に入らなくてな。申し訳ないが、建造するのはもう少し先になるかもしれん」
「こちらこそお世話になりました。俺たちの像については別に気にしないでください。なんなら中止にしていただいても……」
「コーリちゃんはカッコよく作ってよね。私は可愛くしてほしいな」
俺とリゼリアは国を救った英雄ということで、国王陛下は何か象徴となる像的な物を作りたいそうだ。
定番の銅像かと思いきや、俺に合わせて氷で製作したいとのこと。
ところが、気温が上昇したこの世界では氷の入手が難しい。
仕方がないので俺の氷魔法で出そうとしたら、国王陛下から自力で氷を手配するから大丈夫と丁重に断られた。
正直なところ氷像なんて恥ずかしいので止めてほしいが、作りたいのならしょうがない。
続いては、オーロラ様の番だ。
彼女は小さいので、しゃがんで握手する。
「2人と離れるの……寂しい……。でも、しょうがないね……。また来てね……」
「オーロラ様もお元気で。お会いできて光栄でした」
「さようなら。立派な王女様になってね」
スタニック及び"黒葬の翼"とは、オーロラ様も懸命に戦った。
とても大変な経験をしたのだから、将来は強くて誠実な国王になれるはずだ。
最後に、モンセラートも俺たちと握手する。
「コーリ、私はお前の入団を諦めていないからな。氷騎士なんて騎士そのものじゃないか。もちろん、リゼリアの入団も願っている。2人とも、気が変わったらまた来てくれ。王国騎士団はいつでもお前たちを歓迎する」
「考えておくよ。一緒に旅してくれてありがとう、楽しかった」
「世界が涼しくなったらまた来たいな」
エイルヴァーン大湿原で彼女と出会った日が、すごく昔のように感じる。
一緒に大湿原を旅して、異常魔物を倒して、王都を訪れて……。
モンセラートと会わなかったら、また違った旅になっていただろう。
全ての挨拶が終わり、物寂しい雰囲気が流れる。
名残惜しいが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
「じゃあ、俺たちはそろそろ行きます。お世話になりました」
「またね! 今度来るときはお土産いっぱい持ってくるから!」
後ろ髪を引かれる思いで歩き出すと、後ろから瞬く間に大歓声が上がった。
「本当にありがとうございました、コーリ様! またお会いできる日を楽しみに待っています!」
「どうかお身体に気をつけて! あっ、でも、氷は風邪をひかないんですかね!?」
「王国騎士団の席は、2人分ずっと空けておきますから!」
王都の人たちの大歓声を背に俺とリゼリアは歩き出す。
少し離れた森の中に入るまで、みんなずっと手を振ってくれていた。
しばらく森を進んだ後。
俺はやはり彼女に話さなければと、緊張して切り出した。
「……リゼリア、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「なぁに、コーリちゃん」
リゼリアは不思議そうな顔で俺を見上げる。
そんな彼女に、俺は悩んでいたことを話す。
「スタニックの召喚した煌獄焔龍は、倒してしまってよかっただろうか」
「え、どうして? いいに決まってるじゃん」
「いや、ほら、リゼリアは龍人族だしさ……仲間を倒してしまったのかと……」
あのときは咄嗟だったし倒さなければいけない状況だったが、彼女と煌獄炎龍は同じ龍だ。
心配する俺に、リゼリアは安心したようなため息を吐いた。
「なぁんだ、そんなことか」
「えっ……?」
「悪い龍は倒していいんだよ」
リゼリアは笑顔だ。
明るい声で言われるや否や、俺の抱えていた不安や心配は瞬く間に消えていった。
「そっか、悪い龍だから倒してよかったのか」
「そうだよ! 当たり前でしょ! コーリちゃんが気にする必要は……ない!」
俺は安心できたが、一転して彼女の表情は少し曇った。
「どうした、リゼリア?」
「……あのね、実は私もコーリちゃんに聞きたいことがあるの」
ぽつりと呟き、不安そうな顔で話し始める。
「《氷結》スキルがあるから、コーリちゃんはもう溶けないんだよね? だったら、私と一緒に大氷原を目指して旅する必要があるのかなって……」
声音や表情から、この旅で一番の不安や心配が伝わった。
俺がこの旅を始めた目的は、溶けて死ぬ危機を回避するため。
たしかに、《氷結》スキルが入手できたので、わざわざ大氷原に行く必要はないかもしれない。
でも……。
「なぁんだ、そんなことか」
「えっ……?」
「《氷結》スキルが手に入っても身体が溶けなくなっても、この旅はずっとやめないよ。だって……」
「だって……?」
歩を止めると、俺は素直な気持ちを告げた。
「俺はリゼリアと一緒に旅をするのが好きなんだ」
氷に転生して、森で出会って、冒険者ギルドに登録して……その全てが最高に楽しかった。
「俺は大氷原まで……いや、ずっとこの世界をリゼリアと旅したい」
素直な気持ちを伝えたら、リゼリアの顔から不安や心配といった感情が消えていった。
変わりに目一杯の笑顔が広がる。
「コーリちゃん……大好き!」
「こ、こらっ、いきなり抱きつくと危ないって!」
思いっきり抱きついてきた彼女の体温は、いつもよりずっと高かった。
俺のボディがじんわりと溶けるのは、きっと尊い気持ちが胸に溢れているからだ。
さて、この道を北に真っ直ぐ進むと国境だ。
ステータスを確認しておこう。
――――――
名前:コーリ
種族:氷騎士(特異種)
性別:男
レベル:12/99
ランク:S
体力:2025/2025
魔力:2190/2190
攻撃力:2264
防御力:2591
魔攻力:2245
魔防力:2570
素早さ:2639
《種族スキル(種族に特有なもの)》
〇言語系
・氷語(氷の言葉がわかる)
・氷スライム語(氷スライムの言葉がわかる)
・氷クラゲ語(氷クラゲの言葉がわかる)
・氷ミミック語(氷ミミックの言葉がわかる)
・氷ゴーレム語
・氷騎士語(氷騎士の言葉がわかる)※New!
〇戦闘系
・氷魔法Lv.10【MAX】(氷属性の魔法が使える)※Level Up!
・硬化Lv.5【MAX】(一時的に、防御力と魔防力を5倍にする)※Level Up!
・攻防上昇(攻撃力と防御力を1.5倍に上昇させる)
・剣舞百式(百通りの剣術が使える)※New!
・鉄壁の陣(全ての攻撃を80%減弱させる)※New!
〇非戦闘系
・給水Lv.10【MAX】(液体の他、空気中の微細な水滴を自動で吸収して体力を回復できる)※Level Up!
・回復氷生成Lv.10【MAX】(回復効果のある氷を生み出すことができる)※Level Up!
・浮遊(宙に浮かび、移動することができる)
・収納(物を亜空間に収納できる。亜空間に上限はなく、時の流れも止まる)
・分体生成(分体を生成できる)
・氷結(融解しない)※New!
《ユニークスキル(個体に特有なもの)》
〇非戦闘系
・人間模倣(人間の行動を模倣できる)
・鑑定(魔物や物の鑑定ができる)
・手練れの旅人(移動による体力の消費量が0.5倍になる)
・祖先回帰(今まで進化してきた種族の身体になることができる。Sランクまで進化したので獲得)※New!
《シークレットスキル》
〇戦闘系
・巨大化(身体を巨大にし、全ての能力値を2倍にできる)
〇非戦闘系
・氷族進化(氷属性の他種族に進化できる)
・造型師(自分が生み出す物の形を自由に変えられる)
・不屈の心(緊急進化が可能になる。何度も格上の敵に挑んだので獲得)※New!
〔称号〕
・転生者(種族スキルを継承できる)
・守り神(自分を含めた味方の防御力・魔防力を1.5倍に上昇させる)
・将来有望な学徒(経験値が多く貰える。レベルアップや進化したとき、ステータスが上昇しやすい)
・原石光る騎士(剣による攻撃の威力が1.5倍になる)
・主殺し(主と戦うとき、全能力値が1.2倍に上昇する)
・英雄(全ての能力値が3倍になる。国を救ったので獲得)※New!
・氷の大魔人(氷魔法の威力が5倍になる。氷生を懸命に生きたので獲得)※New!
――――――
各種ステータスは圧巻の2000超え。
俺もずいぶんと強くなったものだ。
この調子でもっともっと成長しよう。
照りつける日差しは、転生した"あの日"より強い。
だが、溶け出す気配はまるでなかった。
最初はどうなるかと思った、氷で始まった俺の異世界旅は……。
まだまだこれからだ!




