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第43話:氷騎士、みんなから称賛される

 スタニック及び煌獄焔龍との戦闘が終わり、およそ1ヶ月が過ぎた。

 ここ最近の俺とリゼリアは、国王陛下の執務室を訪れては王国の後処理を手伝っていた。

 あの激しい戦いよりある意味こちらの方が大変で、日々忙しく過ごした。

 毎日頑張ったおかげか後処理は順調に進み、こうして定例会議に参加するのも今日が最後だ。

 執務室の扉をノックすると、部屋の主である国王陛下が直々に出迎えてくれた。


「コーリ殿にリゼリア殿、よく来てくれた。さぁ、さっそく会議を始めよう。いつものソファに座ってくれ」

「はい、失礼します」

「このソファ、いつ座ってもすっごくふかふかだねー! お外に干しているの?」


 今や指定席となった二人掛けソファはいつもふんわりと柔らかく、氷の俺を優しく受け止めてくれる。

 正面には国王陛下、その隣にはオーロラ様が、別の一人用ソファにはモンセラートが座る。 この1ヶ月ですっかりお馴染みとなった5人だ。

 全員着席すると、国王陛下がオーロラ様とともに感謝の言葉を述べてくれた。


「コーリ殿、リゼリア殿、このたびの件については改めて深く感謝する。お主らがいなかったら、この国は破滅していた。煌獄焔龍とスタニックにより蹂躙され、我がノヴァリス王国は人類の歴史から消えただろう」

「2人がいたから……今の私がいる……。復興まで手伝ってくれて……本当にありがとう……。国民の……平和な日常が戻った……」


 国の宰相が"黒葬の翼"の大ボスで創立者だった事実は、大変な衝撃を以て国中に伝えられた。

 ノヴァリス王国は大混乱に陥り、王国騎士団の中にも激しい動揺が広がった。

 だが、ここにいる5人で力を併せて平和を取り戻したのだ。

 国王陛下は真剣な表情のまま話を続ける。


「国内に浸透した"黒葬の翼"の壊滅については、コーリ殿の分体が本当によい仕事をしてくれた。隠しアジトといった中核施設の捜索や帳簿など重要書類の入手……コーリ殿がいなかったら、これほど早く正確に調査を進めることはできなかっただろう」

「私からも礼を言わせてくれ。この国で最も重要な組織といっても過言じゃない王国騎士団の名誉と信用を取り戻してくれて、感謝の言葉もない。コーリのおかげで、私たちはこれからも騎士として国のために尽くすことができるんだ」


 国王陛下とモンセラートは、改めて俺に礼を述べる。

 自分の力が活かされて素直に嬉しかった。


「俺のスキルが役に立ってよかったです」

「コーリちゃんの優秀さが際立つ1ヶ月だったね」


 宰相がトップだったこともあり、"黒葬の翼"は国の中枢にまで深く根を差していた。

 王国騎士団は互いに疑心暗鬼となっており、内部崩壊の危機が迫った。

 そこで、俺は様々な形の分体を生み出し、いわゆるスパイ活動をしたのだ。

 リゼリアやモンセラートと一緒に、王国の各地を回る濃厚な1ヶ月だった。

 結果、"黒葬の翼"は完全壊滅。

 残党狩りについては、第三騎士団の副団長に出世したモンセラートが主導となって行うと意気込んでいた。

 一方で……。


「スタニックは変わらずですか?」

「ああ、あやつは何もせず大人しいものだ。クーデターの首謀者とは思えぬほどにな」


 捕縛されたスタニックは、いくつかある特別牢獄の中でも最高クラスのセキュリティを誇る"獄底"と呼ばれる地下空間に拘束されている。

 物理的強度も極めて高く、魔法も発動すらできず、脱出することは不可能という牢獄だ。

 今後、ずっと王国の監視下に置かれると聞いたところで話は終わり、国王陛下が懐から小さな本を取り出した。


「……さて、コーリ殿、リゼリア殿。これが以前に話した外国旅券だ。受け取ってほしい。スタニックによる混乱で、予定より大幅に発行が遅れてすまなかったな」

「いえ、全然大丈夫です。ありがとうございます。心して受け取ります」

「カッコいいー!」


 俺とリゼリアは外国旅券を受け取る。

 前世のパスポートと同じサイズで、色はシックな藍色。

 表面にはノヴァリス王国の紋章――剣と杖が金色で刻まれており、おしゃれで荘厳な雰囲気だ。

 これがこの世界のパスポートになるわけか。

 小さいのに不思議とずしりと重く、頑張りが報われた気分だった。


「外国旅券以外にも、お主らにはもう一つの褒美がある。下世話な話かもしれんが、旅には資金が必要だ。北の大氷原を目指すとなるとたくさんな。そこで、幾ばくかの資金を用意した。……モンセラート、頼む」

「はっ」


 国王陛下の言葉を受け、モンセラートが部屋の一角から宝箱を持ってくる。

 机の上で蓋が開けられると、大量の金貨が溢れ出た。

 眩い光が放たれ、たちまちリゼリアは嬉しそうな歓声を上げる。


「キレー! これだけあればお菓子が好きなだけ食べられるよ、コーリちゃん! 後で王都のお店を回ろうね!」

「こ、こんなにいただいてしまっていいんですか!? さすがに多すぎでは……っ」


 慌てて話す俺に、国王陛下は穏やかに語る。


「いや、多すぎることなどない。この金貨の量にふさわしいほど、お主らの功績は素晴らしい。ノヴァリス王国の通貨は、オルゼ帝国は元よりその上にあるストラ連邦とも統一されている。この三国間なら金銭の支払いに困らないはずだ。我が輩からの感謝の気持ちとして、遠慮なく受け取ってほしい」

「……ありがとうございます、国王陛下。そういうことでしたら、リゼリアと一緒に大切に使わせていただきます」

 

 好意を無下にするのもよくないし、受け取ることにした。

 この世界では、金貨1枚あれば2ヶ月は衣食住に困らない。

 宝箱に入っている量は、どう考えても100枚や200枚という量ではない。

 いったい、どれほどの金額になるのだ。

 大氷原を目指す旅が格段に快適になるだろう。

 持ち運ぶのは大変なので、もちろん《収納》する。


「コーリちゃん、私の外国旅券も仕舞っといて。無くしちゃうとまずいし、火魔法で燃えると嫌だから」

「了解」


 金貨の他、リゼリアの外国旅券も《収納》スキルで仕舞ったところで、最後の会議は終了となった。

 俺たち5人は立ち上がって窓の近くに立つ。

 外にはバルコニーがあり、会議の間もガラスを通してざわめきが聞こえていた。

 そっと窓の向こうを見ると、たくさんの人が集まっている。


「では、コーリ殿、リゼリア殿。民の前に出よう。みな、お主らを見る瞬間を楽しみに待っておる」

「ええ、こんな機会を作っていただきありがとうございます」

「なんだか緊張しちゃうね」


 バルコニーに出ると、眼下には広場を埋め尽くすほどの国民や騎士がいた。

 みんな、俺とリゼリアに向かって大きく手を振る。


「救世主のコーリ様! 国を、私たちを救ってくださりありがとうございましたー!」

「なんて美しくて神々しいお姿なんだ! まるで、救いの天使そのものだ!」

「リゼリア様にも深く感謝申し上げます! あなたたちのおかげで今も生きていられます!」


 今日は俺とリゼリアの凱旋式だった。

 王国を救った件やこれまでの旅路における功績は華々しいということで、国王陛下がこのような機会を設けてくれたのだ。

 国民も騎士も、この場にいる全員が俺たちを讃える。


「コーリちゃん、もっとよく見たいから肩車して~」

「わかった」


 肩に乗ったリゼリアは、俺の角を摑んでは嬉しがる。


「コーリちゃんの角、摑むのにちょうどいいね」

「それならよかった」


 目に映る人は、みんな笑顔だ。

 大歓声が鳴り響く中、俺とリゼリアは手を振って応える。

 平和が戻り、そろそろ王都を出発して次なる国――オルゼ帝国に向かうときが近づいてきた。

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