第42話:氷騎士、伝説の古龍を斬る
「消えてなくなるがいい、コーリ! お前はここで死ぬんだ! 煌獄焔龍、あいつを焼き殺せ!」
今までで一番と言っていいくらいの規模で《煌獄》が放たれる。
ブレスの発光により、辺り一帯が昼間の如く明るくなった。
視界いっぱいに青白い炎が広がり、リゼリアは俺の脚にしがみつく。
大丈夫、もう煌獄焔龍の攻撃は効かない。
俺は右手を前に出し、緊急進化と同時にレベルアップした氷魔法を発動する。
「《絶対零度》」
バシュンッ! という激しい破裂音が響き、《煌獄》は跡形もなく消滅した。
空間ごと火焔を切り取ったような光景に、スタニックは驚愕の声を叫ぶ。
「《煌獄》が消えた……!? コ、コーリ……貴様はいったいなにをした!」
なにをした、か。
単純なことだ。
俺がやったのは……。
「冷やしただけだ。ただし、摂氏3000度から-273度まで一気に……だけどな。燃焼反応を停止させた結果、《煌獄》は消滅したんだ。いくら強くても、結局は炎が燃える現象に過ぎない」
「意味のわからないことを言うな! 《煌獄》が消滅するはずがないだろう! 《煌獄》は……世界を焦土に変える力があるんだぞ!」
スタニックはさらに《煌獄》を放たせる。
最強の攻撃が無効化され、錯乱している……フリだ。
《絶対零度》で《煌獄》を消滅させると、俺は即座に頭上を見上げる。
数え切れないほどの剣が空を覆っており、その全てが勢いよく落下していた。
「ははは、私の《金属魔法》を忘れたか!?」
「コーリちゃん、剣がいっぱい振ってくるよ!」
「大丈夫。リゼリアはちょっとしゃがんでてくれ……」
俺は剣を下段に構え、振るった。
「《剣舞百式・刹那の輪》」
氷が極限まで圧縮された俺の剣は、何の抵抗もなく金属剣を切り裂く。
結果として、スタニックの金属剣は一瞬で全てが塵と化した。
微細な金属片が月明かりを反射してキラキラと舞い散る中、リゼリアが歓声を上げる。
「コーリちゃん、すごいよ! 炎も剣も全部倒しちゃった! 形勢逆転だね!」
今や、《煌獄》も《金属魔法》も完全に無効化した。
俺は上空に呼びかける。
「スタニック、リゼリアの言うとおり形勢逆転だ。これが最後のチャンスだ、投降しろ」
煌獄焔龍に乗るスタニックは俺の呼びかけに答えることなく、代わりに悔しげに叫んだ。
「クソッ……出直しだ! コーリ、貴様はいつか必ず殺す! 次会ったときが貴様の最期だ!」
怒鳴るスタニックは煌獄焔龍を方向転換させ、俺とは真反対の方向に逃げる。
逃がすものか。
「お前に次はない……《巨大化》!」
「コーリちゃんがでっかくなったー!」
俺は《巨大化》スキルを使い、全長1000mまで巨大化する。
ここまで大きくなると、煌獄焔龍なんてもはや小鳥のようだ。
はるか下方では、スタニックの慌てふためく光景が小さく見えた。
「コーリ……いや、コーリ君! 取引しようじゃないか! この国の半分を上げるよ! だから、攻撃は待ってくれ!」
「《剣舞百式》」
「一緒にノヴァリス王国を支配するんだ! 私と君がいれば世界を手に入れることも……!」
「《天斬》」
氷の剣を振り下ろし、煌獄焔龍ほどスタニックは倒された。
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《巨大化》スキルを解除して、通常サイズに戻る。
少し離れた場所では、戦闘の顛末が見えた。
煌獄焔龍は一刀両断され息絶えており、スタニックは気絶している。
生きて罪を償ってもらおう。
念のため氷魔法で手足を凍結させたところで、リゼリアが俺に飛びついた。
「コーリちゃん!」
「うぉっ!」
リゼリアは俺の身体に何度も頭を擦り付ける。
「元気になって本当によかった! 溶けてなくなっちゃったらどうしようと思ってた! コーリちゃんがいなくなったら、悲しくて死んじゃうよ!」
涙声で何度も「よかった」と叫ぶ。
彼女の優しい思いが伝わり、胸がじんわりと熱くなった。
俺はリゼリアの頭をそっと撫でる。
「心配かけてすまなかったな。一緒に戦ってくれてありがとう。リゼリアのおかげで進化できたんだ」
「そうなの?」
「ああ、本当にリゼリアのおかげだよ。俺一人では、決してここまで強くなることはできなかった」
「嬉しい!」
素直な気持ちを伝えると、リゼリアは目を輝かせる。
彼女がいたから俺はこの世界を旅して、いろんな人と出会い、様々なスキルを手に入れて、強くなれた。
こうして煌獄焔龍に立ち向かい、緊急進化することもできたのだ。
リゼリアは興奮冷めやらぬ様子で、なおも俺を賞賛してくれる。
「コーリちゃん、とっても強かったよ! あんなに熱かった《煌獄》だって効かなかったし、身体も全然溶けてないね!」
「氷騎士に進化したら、《氷結》っていうスキルもゲットしたんだ。だから、俺はもう溶けないらしい」
「へぇー、カッコいいー! じゃあ、コーリちゃんは氷結の大魔人だ!」
氷結の大魔人……か。
まさしく言い得て妙な呼び名だ。
2人で勝利を祝っていたら、退避した王国騎士団の面々が集まってきた。
みな大きな怪我もないようだ。
安心する俺を取り囲み、彼らは歓喜の声を上げる。
「コーリ様はお姿が変わられたんですね! お姿が変わっても気高い心が伝わってきたので、すぐにわかりましたよ! いやはやお美しい!」
「王国を救ってくださりありがとうございました! 伝説の古龍を倒すなんて、コーリ殿は恐ろしく強いですね!」
「俺たちの攻撃は全然効かなかったのに一撃じゃないですか! コーリ様、強すぎです!」
瞬く間に歓声が上がり始め、宮殿の前はパレードでも行われているかのように賑やかとなる。
周囲から賞賛されまくる中、何かに気づいたリゼリアが勢いよく空を指した。
「あっ! コーリちゃんの分体が戻ってきた!」
上空からは青色の大きな鳥――鷲型分体が飛んでくる。
背中には国王陛下、オーロラ様、モンセラートが乗っていて、地面に降りると3人とも転び兼ねない勢いで俺に走り寄ってきた。
「コーリ殿は氷騎士になったのか! お主の巨大化は我が輩も見たぞ! 素晴らしい一撃だった! 王国を破滅の危機から救ってくれて感謝する! ありがとう……ありがとう、コーリ殿!」
「……コーリ……あなたはこの国の救世主……」
「騎士の姿になっているじゃないか! ……そうか、王国騎士団に入りたいんだな!? 歓迎するぞ! 今や、お前はこの国最強の剣士だ!」
3人とも、他の騎士たちと同じように喜んでは俺を讃えてくれる。
歓喜する集団の中で、リゼリアは力強く拳を突き上げた。
「コーリちゃんは氷結の大魔人になったんだよ!」
「「おおっ!」」
そのまま、どこからともなく俺の名の連呼が始まる。
「「……コーリ! コーリ! コーリ!」」
みんなを守れて本当によかった。
月が昇る藍色の空には、いつまでもコーリという名が鳴り響いていた。




