日清戦争-10 兵站の曙
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1894年7月24日
朝鮮半島に派遣された第21連隊の一部は1894年7月23日に行われた朝鮮王宮占拠作戦を成功させたのちにすぐに連隊は元の駐屯地龍山に戻った。ここには第11連隊も駐屯している。この占拠作戦には連隊に所属している3個大隊の内、2個大隊で行われた。では残りの1個大隊はどこにいたか?それは朝鮮中部への兵站拠点港である仁川と龍山の間にある梧柳洞という町にいる。兵站の確保のためだ。
第21連隊所属第3大隊朝鮮半島派遣部隊の兵站を担う部隊である田中一等卒はこの大隊に合流していた。
「輜重兵かーーどうあがいても前線に出したくないんだな。それにしても…この物資の量は何なんだ!!」
これは自業自得だった。『嫌日感情飢餓商売の結果酷し』の報告が後方支援部隊の増強があったこと。
兵士たちの雑談中に聞かれた『兵士がだめなら弾だけでも送れ!!兵力の不足はそれで補えるだろうから』
という発言により開戦前に多量の物資集積が行われる手はずになった。当然食料や医薬品の類も。
それを扱うことになった輜重兵の負担は増大した。そしてまた『言い出しっぺの法則』に従い、その管理を行う輜重兵の中で多く仕事を回された。先遣隊に志願させられたのと同じような状況だ。『若者を死地に送りたくない』という意思も働いたことは当然だろう。何しろ日清戦争参加兵士中最年少なのだから。
「田中一等卒」
呼ばれると少佐の階級章をつけた軍人。
「古志大隊長殿!!」
なんと梧柳洞に駐屯する部隊のトップだ。通常伝令兵が来るような内容でも大隊長が来る。どうやら大使館付きの武官の要請だろうか?
「仁川から増援に来た後方支援部隊の一部が明日の水原への進軍に同行することになった。」
後方部隊は物資輸送や野戦病院を担当する連中だ。輸送用の人員で兵士でなければ影響は少ないという判断だろう。内外の圧力から第9混成旅団主力の輸送が中断している間、余った輸送力を回したらしい。彼らは仁川に駐屯していた。
「進撃時間節約のためですね。第21連隊主力のいる龍山までいかずに本隊との合流地に向かうということですね。」
状況判断は早い。
「そうだ。南にいる清軍を撃退するに東へ行くのは時間がもったいないそうだ。だが、その前に君に会いたいそうだ。」
大隊長は信じられない発言をする。後方部隊は専門教育が必要であるために士官が多い。
「は?な、なぜでありますか?」
田中は驚く。
「彼らが派遣されたのは君の報告が原因なのだ。話を聞きたいそうだ。」
彼は真実を知る。彼ら先遣隊の役目を果たしていることを。それを後方が深く受け止め行動してくれていることを。
「ありがとうございます。」
敬礼だけでなく、頭を下げる。
「来てくれ。」
仮野戦病院(借りている民家)
「池田軍医部長。田中一等卒をお連れいたしました。」
案内しているのは大隊長だ。
「君がか。例の報告の若者か」
軍医長は田中の敬礼とあいさつを待たずに肩をたたく。
「はい。電文の内容に関して意見具申いたしました。」
田中は挨拶する余裕なく返事をする。
「今回、君達の報告をもとに、開戦前から大量の物資を漢城に送り込むことになりました。私たちもその一つです。」
隣の若い軍医が状況を説明する。
「ご迷惑おかけいたしました。」
それは開戦の計画にはない行動である。予定の変更は大きな
「大変だったよ。最新の野戦治療の指南書の作成と読み込みとかね。」
若い軍医が肩をすくめる。
「戦場で死ぬのは若者です。我々の存在がそれを救える。その機会をくれたことを感謝する。」
心のすく発言だ。なら自分の職務に忠実にすることで後方部隊を掩護するのが役目だ。
「私ができることであれば何なりと。します。今の私は輜重兵です。医用品を命に代えても運んで見せます。」
田中は胸を張って自分の役割を果たすことを誓う。




