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3-15話 3階の魔石

「これ、ボクにくれるの!?」


 魔石を握り締めた香奈が、上目遣いで瞳を輝かせる。


 ほんの少しだけわざとらしいくもあったが、普段の雰囲気とも相まって、普通に可愛らしく思う。


「ネックレスに加工して貰うのって、どのくらいかかるかな??」


 嬉しそうにはにかみながら、香奈が手のひらの上で魔石を転がした。

 霧が放つ淡い光を反射した魔石がキラキラと輝き、香奈がうっとりと微笑む。


 そんな香奈から少しだけ視線をそらした史記が、どこか遠くを眺めて頬をかいた。


「あ~、そのなんだ。言いにくいんだけど、それ宝石とか、そんな類いの物じゃないからな? 消費アイテムだぞ?」


 言い切った後に、ちらりと香奈を流しみれば、案の定、目を大きく見開いて、わなわなとふるえていた。


「頑張ったボクへのプレゼントじゃないの!?」


 瞳までもが揺らめきを見せ、悲しげに表情を曇らせる。


「いやまぁ、頑張ったからプレゼントってのは間違ってないけど、それ武器の強化アイテム」


「にゃにゃ!? …………普通にショック」


 少しだけ声のトーンをあげて、大げさに驚いた表情を見せた香奈が、前のめりで地面へと崩れ落ちた。

 両手と両膝を地面に付けて、わかりやすく嘆く。


「シキシキがボクの純情をもてあそんだ~」


 言葉とは裏腹に、楽しげな表情を浮かべた香奈が、ダンダン、と地面を叩いてみせた。


 チラリとこちらの様子を見てくる様子から考えてるに、どう考えても面白がっているだけだろう。


(途中から笑い話に切り替えたみたいだけど、最初の落ち込みはマジだよな……。さて、どう対処しよう)


 などと思いながら香奈を眺めていると、不意にその手の中から魔石がこぼれ落ちた。


 キラキラと光を反射しながら落下した魔石が、地面へと横たわる。

 勢い余った香奈の拳か、魔石近くの地面をダンダン、と叩き、香奈の服の袖口が魔石に2度触れた。


――その瞬間、香奈の体が、強い光に包まれた。


「にゃにゃ!?」


 あまりにも突然の出来事に息が詰まる。

 なにが起きたのか理解出来ずに、指先すら動かない。


 香奈も含めた誰しもが呆気にとられているうちに、光が粒となって飛び去っていった。


 その下から現れたのは、綺麗になった衣類達。


「すごーい!! 買ったときみたいに、綺麗になってる!!」


 両手を広げて、くるくると舞い踊るように自分の服装を見た香奈が、嬉しそうに声をあげた。


 <迷い地蔵>から逃げている時に付着した泥やほこりなどは、どこにも見当たらない。

 香奈の言葉通り、新品のような装いに見えた。


「今の光って武器が進化する時の……」


 そんな香奈を眼鏡越し眺めていた柚希が、仮説を口にして、食い入るような視線を新しくなった服達に向ける。


「やっぱり、進化したみたい。自動洗浄っていう能力が追加されてて、洗濯の必要がなくなったって……」


 若干戸惑いの色を瞳に浮かべながら、そう言葉を紡いだ。


「なにそれ、すごい!! やーったね!!」


 わーい、などと言いながら両手を広げた香奈が、うれしさを爆発させるかのように柚希へと抱き付く。


 香奈の反応は大げさすぎるし、たぶん深く理解せずに行動しているのだとは思うが、確かに洗濯の必要がないのはすごいことかもしれない。


「カナカナ、すごーい」


「やーったね!!」


 つられるように美雪も感嘆の声をあけるが、場の雰囲気にあわせているだけだとおもう。


 ペールが居れば着替えも十分な量を持ち運ぶことが出来るが、何日着続けても清潔で汚れないのは便利だろう。


 2階の時のようにどこかの建物で寝泊まり出来るならまだしも、屋外で寝泊まりする際に着替えに気を取られないで済むのは都合が良い。


 だが、それ以上に、外から持ち込んだ物が魔石で進化したという事実が驚きだった。


(チェーンソーとか武器になるような物を持ち込んで、魔石で進化させたら、モンスター相手でも効果があるようになるんじゃないか??)


 可能性としては、十二分にあり得ると思えた。


 だが、それを試すには少しばかり不確定な要素が多過ぎる気もする。

 チェーンソーを購入する資金だって、決して安い金額ではないだろう。


(無理に試す必要もないか……)

 

 入り口で貰った愛用の枝も順調に育っている。

 ギャブルのような試みをする必要はないように思えた。


「うっし、とりあえず帰るか。

 疲れたし、香奈以外はみんなドロドロだしな」


「さんせ――。お風呂入りたいっ!!」


「そうだね。そうしよっか」


 <迷い地蔵>から逃げるときに転げ回ったせいで、香奈以外は泥だらけ。

 未知の空間で右往左往していた影響で疲弊していたこともあり、全員が淡路家の湯船を堪能した後で、その日は解散になった。

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