13. エルフの参戦
戦場におけるエルフ弓兵隊は反則技のような代物だった。
エトウのバフもエンチャントも必要なかった。
城門の守備兵よりも射程距離が長く、命中精度が高い。ただそれだけのことだが、瞬く間に第一の門の守備兵を沈黙させるその威力は圧倒的だった。
昨夜、司令官にエルフの参戦を打診したところ、信用ができないとか、なにを企んでいるとか、散々ごねられた。
エトウがどうしたものかと思っていると、意外なことに勇者ロナウドが司令官をなだめて、やるだけやらせてみればいいと取りなしてくれたのだ。
エトウはロナウドこそなにを企んでいるのだと言ってやりたい気分だった。
午前中の戦闘を経て、いくら鈍い司令官でもエルフ弓兵隊の有用性に気づいたのだろう。サニーの手を握り、騎士団にまとめて入団しないかと勧誘していた。
その隣にはロナウドの姿もあり、にこやかにエルフたちに話しかけている。
エルフ弓兵隊の中でも、サニーの射撃技術は頭一つ抜けていた。
サニーが矢を放つとき、弦が弾かれる音は尋常ではなかった。使用しているのは相当な強弓だろう。
命中精度も群を抜いており、連射もできる。
城壁の上に陣取った敵は、サニーの矢に隊長クラスが軒並み討たれて混乱状態に陥った。
サニー以外のエルフたちは、浮き足だった敵兵を冷静に射抜いていった。
このエルフの連携を見せられれば、誰でも敵に回したくないと思うだろう。
エルフ弓兵隊の参戦で勢いに乗る騎士団は、今日こそ第一の門を突破するべく、午後からの戦闘開始に向けて準備を整えていた。
破城槌は金属で補強され、盾で弓矢や魔法攻撃を防いでいた人員も、盾数枚を残して破城槌隊の方に組み込まれた。
エルフ弓兵隊の威力を見越した戦術が用いられたのだ。
ところが、午後の戦闘が始まろうとする直前、攻め手側の想定を超える形で事態は動いた。
砦側にある第二の門に、男性一人と女性二人の人質が両腕を縛られた状態で吊り下げられたのだ。そして城門の上には全身甲冑を身にまとった男が立った。
「聞けい、我らが土地を荒らす慮外者ども! 崇高な戦いの場でエルフ兵を使うなど言語道断! 貴様らがエルフに矢を射させる度に、こやつらの縄を切っていく! それでもよいなら好きにいたせ!」
男はこちらに向けて叫んだ。
その男は実際に腰から剣を抜き、人質の一人に結ばれた縄に剣身を近づけた。遠くからでも人質の男性が恐れを抱いているのが分かる。
エトウはどうすることもできない自分が歯がゆかった。
城門の高さから人質が落とされればまず助からない。もし命を拾ったとしても、大ケガをしたまま放置されたらいずれ命を落とすことになる。
これで騎士団には二つの選択肢が与えられた。
人質を見捨ててエルフ弓兵隊の力を存分に発揮してもらうか、それともエルフ弓兵隊を封印するかだ。
司令官は後者を選択して、午後からの戦闘は中止になった。
作戦指令のためのテントには、司令官、勇者一行、騎士団の部隊長たち、エトウ、ナル、サニーが呼ばれて作戦会議が開かれていた。
部隊長の一人が会議の冒頭で立ち上がった。細面で二枚目の舞台俳優のような男である。
「現在、人質を盾にされ、エルフ弓兵隊が参戦できない状態です。それならば、当初の作戦どおり、私たち騎士団だけで第一の門を突破してみせましょう!」
その男は自分の言葉に酔ったように右腕を振り上げた。
それに同調する者も数人いたが、大多数の者は苦虫をかみつぶしたような顔で話を聞いている。
さすがの司令官も部隊長の言葉に同意することはなかった。
人質の安全を図りながら二つの城門を突破する方法がないと、砦の攻略は見えてこないのだ。
人質たちの体力を考えれば、何度も作戦を試せるほどの猶予はないだろう。
「勇者様、城門を破壊できるような技をお持ちではありませんか?」
司令官は恐縮しながら尋ねた。
「私とミレイには城門を一撃で破壊できる方法があります」
「おお! それでは、是非その技を使って城門を――」
「ただし、その方法を使えば、城壁に連れて来られている人質の命も危険になります。せめて人質が一カ所に集まっていれば対処できそうですが、手足を縛られて吊り下げられていてはそれも無理です」
「そうですか……」
「ええ。私たちが力を振るうのは最終手段にした方がよいかと。私が言っていること、理解して頂けますね」
ロナウドは強い視線で司令官を見た。
「は、はい。確かに承知いたしました」
勇者ロナウドは、司令官が人質を犠牲にする決断をしたとき、自分たちの力を解放すると言っているのだ。
エトウは驚いていた。彼にそんな厳しい判断ができるとは思っていなかったのだ。
さらに、物理耐性と魔法耐性にすぐれた城門を、ロナウドとミレイは技で破壊できると言った。
つまり、スキルなり魔法なりを使って一撃で破壊できるということだ。
エトウが勇者パーティーに所属していたときには、二人にそれほどの力はなかったはずだ。ラナを見ると、軽くうなずきを返した。
へぇー、本当にそんな技があるんだとエトウは思った。
勇者たちも漫然と過ごしていた訳ではないらしい。
人質を犠牲にする決断は、おいそれとできるものではない。議論の場は停滞していた。
「エトウ、なにか提案はないのか?」
場が静まりかけたとき、ロナウドが尋ねてきた。その表情は真剣そのものである。
だが、エトウはどうしてもなにか裏があるのではないかと疑ってしまう。
この男が自分の意見など必要としている訳がない、揚げ足でも取って恥をかかせるつもりなのだろうと。
それにこの男、いつから俺を呼び捨てにしていたかな? 別にいいんだが、言葉使いも変わったような気がするな、などとエトウが考えていると、司令官がエトウを怒鳴りつけた。
「勇者様が冒険者風情に意見を求めておられるんだ! すぐにお答えしろ!」
司令官は顔を真っ赤にして本気で怒っている。
冒険者風情ね、ずいぶんと格下げになったものだと、エトウはまじまじと司令官を見つめた。
その視線が不愉快だったのか、「き、貴様っ!」と司令官が再び叫びだしそうになる。
ロナウドは片手を司令官の前に出していさめた。
「それでどうなんだ、エトウ?」
どうあってもロナウドはエトウの意見を聞きたいらしい。エトウは心の中で最大級のため息をついた。
「それでは勇者様とミレイ様は先程城門を破る技があると言いましたが、差し支えなければどんな技なのか教えてもらえませんか? もし城門の破壊が確実に行えるならば、試してみたい作戦があります」
エトウは気を取り直して自らの提案を話し始めた。




