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閑話 ミレイの気まぐれ

「ミレイ様、ありがとうございました。作戦会議の場で、エトウが意見を言うことができたのは、ミレイ様の導きのおかげです」

 ラナが頭を下げる。

「ラナ、あなたには分かって頂けましたか。ラナに何度も言われていましたから、あれくらいはなんでもありません。しかし、エトウさんも、目線でお礼くらいしてくれてもいいですのに。恩知らずなのかしら」

「ふふ、エトウも分かっていると思いますよ」


 あのとき、エトウの直接的な物言いに、司令官は怒りを隠そうともしなかった。あれでは冷静な話し合いなどできる訳がない。


 エトウは昔から、こうと決めたら後に引かないところがあった。

 このままでは喧嘩別れをしてしまうとラナが気をもんでいたときに、文句だけではなくて案があるなら披露しなさいとミレイがエトウを促したのだ。


 捕虜の安全を優先させるというエトウの提案は、最終的には司令官に反対されてしまったが、少なくともロナウドの意識を変えるだけの効果はあった。

 あの日の晩、夕食の席で、ロナウドはエトウの冷静な分析力を認めていたのだ。


「ラナの言うように、ときには人の話をゆっくりと聞くのも必要ですわね」


 勇者一行の主だった者を集めた作戦会議において、ミレイはしばしば騎士や魔道士の話を途中でさえぎって、自分の意見を話し始めることがあった。

 ラナが、勇者パーティーの問題について意見を集めたとき、そのミレイの態度に不満を持っている者は少なくなかったのだ。

 そこで、ラナは機会を設けてミレイに疑問をぶつけてみた。


「ミレイ様は私の話をいつも聞いてくれます。それなのに、ときどき他人の話をさえぎったり、まったく聞かなくなったりしますよね。失礼を承知で言わせてもらいますが、あれはミレイ様にとっていいことではないと思います」

「だって話が長いのですもの。彼らがなにを言おうとしているのかも、想定の範囲内ですし」

「それでも無視された側は、ミレイ様をうらむかもしれませんよ。人の上に立とうとする者は、しかも王国という組織の中で上を目指しているミレイ様は、そのときの気分で敵を作ってしまうのは損ではありませんか?」

「うーん、まぁ、ラナの言うことは分かりますけど……」

「ミレイ様は頭がいいので、見切りがすごく早いですよね。この人はダメ、この意見はダメとなれば、それ以上聞かない。でも、誰もが話し上手な訳じゃありません。話しているうちに緊張がほぐれてきて、やっと自分の意見が言えるようになる人もいるんです。見切りを早くしてしまうと、そういった人の意見は全部切り捨てることになりますよ。これはもったいないです」

「もったいないと言えば、そうなのでしょうね……」


 ラナは辛抱強くミレイに訴えかけた。

 作戦会議の場は、ロナウドやミレイが上から命令を下すだけでなくて、騎士や魔道士たちから意見をすくい上げる場所でもある。

 一方的に命令するだけでは、これまでとなにも変わらない。

 双方のやりとりを増やすことで、誤解や勘違いが起こりにくい、風通しのいい関係性を作れればとラナは考えていた。

 かつてエトウに関する嘘が広がってしまったような勇者一行の閉鎖性を変えたかったのだ。


 今回、ミレイはエトウの意見をすくい上げる方向で話をまとめようとしていた。以前ならば考えられないことである。

 エトウはもはや魔法師団の団長を争うライバルではないということも影響しているだろうが、それでも大きな変化だった。


 ラナは紅茶を飲んでいるミレイを見つめる。

 エトウへの気遣いがただの気まぐれだったとしても、ミレイの意識が少しずつ変化しているのを感じることができた。


「ミレイ様、私も変わりたいです」

「はい? ラナは今のままでも十分かわいらしいと思いますけど、変わりたいのであれば、砦を落とした後にでも新作のドレスをプレゼントしますわ」

「いえいえ、内面の話ですよ」

「内面? そんな見えないものに神経を使っていては疲れるだけですわ。ラナ、人間は見えている部分だけでも苦労するものです。魔法技術の向上、良好な人間関係、駆け上がるべき出世の階段。すべて時間と労力をかけなければなりません。内面がどうだとか考えるのは、なにかを成し遂げた後にしておきなさい」

「ふふふ」

「なにを笑っているのです? 私は真剣に――」

「ミレイ様、分かっています。ミレイ様に相談すると、いつも明確な答えを頂けるので、すごいと思います。でも、以前は『良好な人間関係』なんて、意識しているようには見えませんでしたけど」

「……私もいろいろと思うところがあったのです」

「変わっていくミレイ様も素敵ですよ」

「あら、うれしいことを言ってくれますのね。分かりました。新作のドレスを二着プレゼントします」

「ドレスは着るのが大変なんですよね」

「ラナ、あなたに足りないのは淑女としての嗜みですわ。このまま剣聖として活動していけば、いずれ貴族の仲間入りをすることになります。いつまでも平民気分でいると、後になって苦労するのはあなたですよ。まずは――」


 ラナはミレイの小言に苦笑いしながら、自分がどう変わっていけばいいのかを考えていた。

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