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11. 膠着状態

 エトウは司令官との面会を願ったが、多忙だという理由で断られてしまった。

 三度目に断られた後で、ナルに相談した。

 彼は「分かった」と一言だけ残して出かけていき、その日の夜、エトウが司令官と会えるように話をまとめてくれた。


 ナルとニーも含めたエトウたち六人が司令官のもとを訪ねると、テントの中には勇者パーティーもいた。

 エトウは頭を下げてあいさつをした後、騎士団の戦いぶりを見ていて感じた疑問点を司令官に質問していった。


「司令官殿、第一の門を破るのに苦労されているようですが、魔法で防御された門を破るための秘策はあるのですか?」

「もちろんだ! 城門の敵兵さえ殲滅できれば、破城槌隊によって門を破壊できよう」

「門の前に待機していた破城槌ではあの門を破るのは難しいかと思います。せめて破城槌を補強して、人員を増やさないと厳しいかと」

 司令官は早くも顔を赤くして怒りだした。

「なぜお前にそんなことが分かる! 我が騎士団は精鋭揃いだ。あんな門の破壊などたやすい!」

「あの破城槌隊以外の手段は用意していないのですね」

「だから、必要ないと言っているだろうが!」

 司令官はとうとう大声で叫びだした。


「分かりました。騎士団の精鋭により、第一の門を破ったとします。その後、連絡橋を渡るときに、第二の門に布陣している敵の弓兵と魔道士の攻撃をどう防ぐつもりでしょうか?」

「あやつらは人質を盾にして、こちらからの攻撃を封じておるのだ」

「ええ、存じ上げています。このままだと連絡橋を渡る攻め手側は、まったく無防備な状態で敵の攻撃を受けることになりますね」

「うむ、そのとおりじゃ。しかし我が騎士団は敵の卑劣な行為に尻込みしたりせんぞ。敵の弓矢や魔法など盾ですべて防いでくれるわ」

「盾には魔法付与をしているのですか?」

「そんなものはない!」

「では、その盾は魔道具なんですか?」

「魔道具の盾のような高価な防具を、こんなところで使えるか!」

「普通の盾で弓矢と魔法の集中砲火を防ぐのは困難です。大きな被害が出ますよ」

「お前は……臆病風に吹かれて、我が騎士団の誇りを汚すのか!」


 司令官の額には青筋が浮き上がり、真っ赤になった顔をぷるぷると震わせている。

 彼の心には騎士団としての誇りがあるのかもしれないが、想定される問題に対して対処法を考えるための知性や冷静さは欠けているようだった。


「最後の質問です。第一の門を見事破り、連絡橋も被害を最小限に抑えて渡り切ったとしましょう」

「そうなると言っておろうが!」

「第二の門にいる人質を救出するための方法はありますか?」

「……」

「司令官殿?」

 ちょびひげ司令官は、エトウを憎らしげににらみつけているが、なにも答えようとしなかった。

「司令官殿、人質を救出する方法はないのですね?」

「我が騎士団は人質救出のために最善を尽くす。それだけだ! そもそもお前のような部外者に、そのようなことをぺらぺらと話せるはずがないだろうが!」

 司令官の怒りは頂点に達したようで、今にもエトウたちをテントの外に追い出す勢いだった。


 エトウは司令官の回答から、南の砦攻略と人質救出には作戦らしいものがほとんどなくて、どこまでも力押しでいこうとしていることが分かった。

 味方の数が多いため、それも有効な作戦の一つではある。

 たとえ砦の攻略には至らなくても、このまま膠着状態を続けていれば敵の物資が先に尽きるはずだ。補給がない中で籠城戦を長期間続けることはできない。

 そうした視点から戦場を眺めると、司令官のやり方はそこまで大きく間違ってはいないのだ。


 ただし、このまま戦闘が長引けば味方の被害は確実に大きくなる。そして、最大の問題は、人質が助かる確率がかぎりなく低くなるということだ。

 戦闘に巻き込まれて命を落とす危険だけではない。砦内の物資が減っていけば、最初に切り捨てられるのは人質となるだろう。

 体力や精神力を消耗している人質たちが、この状態をどこまで耐えられるのかは分からなかった。

 人質の被害を最小限に抑えるには、時間をかけた攻め方を続けるのは悪手なのだ。


「エトウさん。あなたには案がおありですの? 文句をつけるだけではなにも改善しませんわ」


 それまで黙って話を聞いていた魔聖ミレイが話しかけてきた。

 もったいぶった言い方は彼女らしいが、どうやら対話する気持ちはあるようだ。

 ミレイの質問に答える流れで作戦の提案ができないか、そうすれば司令官も聞いてくれるかもしれないとエトウは考えた。


「そうですね。まず現在は膠着状態であることは認めてもらえますね」

 エトウがそう言うと、司令官はすぐさま反論しようとする。

 しかし、驚いたことに勇者ロナウドがそれを制止したのだ。

「ああ、それは認めよう。続けてくれ」

 ロナウドの表情は、エトウの話を本当に聞こうとしているように見える。

 この際、どんな裏があっても構わないとエトウは思った。自分の意見を言う機会が与えられたことが大きいのだ。


「リーゼンボルト領主代理は、この砦から打って出るようなまねはできないでしょう。数が少なく、援軍の当てもない彼らは、すぐに包囲殲滅されてしまいます。彼らが砦から動けないのであれば、優先すべきは人質の命です」


 エトウはそう言って司令官やロナウドたちを見回した。どうやらここまでは価値観を共有できそうだった。


「そこで私は一旦停戦協定を結んで、人質の解放を求めることを提案します。敵がそれを受け入れる可能性は低いでしょう。人質がいなくなれば、こちらは第二の門に攻撃ができるようになりますから。そこで二つ目の提案を行います。こちらから医療班を送るから、人質の健康状態を確認させてほしいと打診するのです」


 ロナウドはあごに手を置いて考え始める。

 司令官はエトウを怖い目でにらみつけながら、ロナウドの反応をちらちらと確認していた。


「健康状態が著しく悪い人質については、こちらで引き取って手当てができないかお伺いを立てるのがいいですね。人質向けということで、食糧を持たせるのも選択肢の一つです。このまま人質が衰弱すれば敵も困ります。これならば双方が受け入れ可能な提案になるのではないでしょうか。戦の趨勢はすでについています。できるだけ被害が少なくなる方法を選択すべきです」


 エトウは司令官を見つめた。この戦場で決定権を持っているのは、ロナウドではなくこのちょびひげ小男なのである。


 しかしエトウの提案に司令官は猛反発した。

 敵に食糧を送ると言ったエトウを内通者かと罵り、人質に関しては敵側に全面的な責任があると主張し、こちらが弱みを見せれば敵はつけ込んでくるだけだとわめき立てた。

 そして、そんな軟弱な提案など聞きたくないと激昂する司令官に、エトウたちはテントを追い出されてしまった。

 エトウの提案は失敗に終わったのだ。

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