閑話 勇者一行の課題
これまで勇者一行と行動をともにしていた者たちは、騎士団、魔法師団、王城への連絡係を務める官僚、教会とのつなぎを務める聖職者など、それぞれの帰属組織が明確だった。
そのためもあってか、お互いの領域をおかさず、自分たちの組織の利益が最大化するように動くのが当然となっており、その境界を越えて協力しあうような雰囲気は希薄だったのだ。
勇者ロナウドがエトウの力を評価せず、露骨な態度を取り始めた頃から、エトウへの扱いは差別的なものへと変わっていった。
食事や宿の提供もなくなっていき、エトウが王城への連絡係に報酬を渡してほしいと訴える姿も目撃されている。
それでも護衛の騎士や魔道士は動かなかった。
勇者や魔聖の態度にならったところもあるだろうが、エトウに対する嘘に踊らされ、自分たちには関係のないことと、見て見ぬ振りを決め込んでいたのだ。
エトウは神託によって選ばれた賢者である。
本来であれば、自分たちの身をなげうってでも助けなければならない相手だった。
それなのに理不尽な対応を繰り返して、最後にはパーティーから追い出してしまったのである。
その行為は王都にもどったエトウによって告発されて大問題となった。
エトウがゴブリン・スタンピードを解決に導いたことにより、その実力を証明したことも大きかった。
それほどの実力者を王国はみすみす手放してしまったのである。
模擬戦においてエトウがロナウドを完膚なきまでに叩きのめした後、勇者一行を非難する声は最高潮に達した。
こうした状況の中で、それぞれの組織の上層部は危機感をつのらせた。
自分たちの存在価値が疑われたこともあるが、世界の危機に唯一対抗できるとされている勇者の価値までもおとしめてしまったのだ。
勇者が人々の支持を失ってしまえば、いざというときに旗頭を務めて危機に立ち向かう者がいなくなってしまう。
そこで勇者に帯同する者たちの刷新が図られた。組織における実力者や次世代の幹部候補が、勇者一行のサポートメンバーとして送り込まれてきたのだ。
勇者たちにも自らを変えていこうとする意志が感じられた。それがもっとも顕著だったのは剣聖ラナである。
剣聖は勇者一行のチーム力を高めるため、身分や立場、職業などの例外なく、勇者パーティーの課題を聞いて回ったのだ。
これは平民出身の剣聖だからこそできたことかもしれない。
剣聖に質問されたために、身分のある者でも無視できなかった。そして身分の低い者は、同じ平民出身の彼女だからこそ、本音の部分を語ってくれたのだ。
戦闘面の課題としては、ロナウドが突っ込みすぎるため、全体のバランスが乱れてしまうことが挙げられた。
状況によっては、ロナウドに切り札として後ろに控えてもらった方が、戦力が安定し、別の方角から魔物の襲撃を受けたときのリスクも減らすことができた。
また、戦闘面以外では、魔物討伐を行う上で、地域勢力との連携があまり図れていないことも問題だった。
地域勢力とは、各地に派遣されている王国騎士団や貴族の私兵団、冒険者などである。
群れからはぐれた魔物が暴れまわっているような状況は、勇者パーティーだけでも十分に対応できる。
だが、村や町の近くに魔物の群れが巣を作っている場合などは、いくら規格外の力を持つロナウドたちでも一気に殲滅することは難しい。
そのため、その地域の騎士団に協力を求めたり、冒険者を雇うなどの対策をとったりと、その都度対処してきた。
一旦はそれで問題が解決しても、勇者一行が現場を離れた後、魔物の中長期的な監視体制を維持するのは困難だった。
責任者は誰なのか。それはどんな肩書となるのか。費用はどの組織が負担するのか。問題が起こったときに責任をとるのは誰なのか。
勇者という大きな存在がいなくなってしまうと、そうした問題が浮き彫りになるのだ。
その結果、勇者一行は場当たり的に魔物の討伐を繰り返すことが多くなる。
ある程度の情報の共有は図られているが、もっと効率がいいやり方があるはずだと感じている者は多かった。
ラナはこうした意見を匿名にして、ロナウドやミレイを始め、戦闘に参加することを許された騎士や魔道士たちに相談していった。
話し合いが持たれてからは、徐々にではあるが問題の解消が図られるようになる。
ロナウドは、本当にそれが必要なとき以外、強引な突撃を控えるようになった。
全体の戦闘を俯瞰でとらえ、勇者という自分の戦力をどう使うのが適当かを意識するようになったのだ。
地域勢力との連携については、個人的なつながりを築いていくことで解決の糸口を図ろうとしている。
勇者一行が各地の地域勢力をつなぐ役割を果たせれば、今よりも情報の共有が進むだろう。
そうなれば、ロナウドたちは無駄の少ない移動で最大限の力を発揮できるようになる。
そうした取り組みの中で、勇者一行はエーベン辺境伯領の前領主代理が南の砦に立てこもったことを知り、いち早く現場に駆けつけたのである。




