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3. 料理教室

「はい、それでは、これから皆さんと作っていくのはホローバードの油揚げです。油揚げは王都近郊の村々では一般的な料理方法で、熱した油に衣をつけた肉や野菜を入れて、表面をカリッと、中は火を通しながらも柔らかく揚げていきます。油揚げの中でもホローバードは人気ですので、是非覚えて帰ってくださいね」


 集まった女性たちを前にして、エトウは料理の調理方法をコハクとソラノの助けを借りながら説明していった。


 数日前、被害者が気分転換できるようなことはないかとエトウたちは意見を出し合った。その結果、料理教室を開くのはどうかという話になったのだ。

 コハクがどこから聞いてきたのか、男性を引き寄せるには胃袋を押さえるのが一番だと言い始めたのがきっかけだった。

 故郷に帰った女性たちに恋人ができれば彼女たちは幸せになれるとコハクは力説したのだが、ちょっと理由が露骨過ぎないかとエトウは心配だった。


 ところが馬車での移動中、コハクとソラノが女性たちに料理教室の話をすると、かなりの食いつきだったらしい。

 騎士たちにも相談し、被害者たちの気分転換になるのならと許可ももらえた。

 料理については決まっていなかったが、野外での昼休憩の間に、エトウたちが森の中に分け入って仕留めてきたのがホローバードだった。

 それだけでは食材が足りなかったため、この町で十分な量を買い足している。


 ホローバードの油揚げは、本来ならば鍋にたっぷりの油を熱して作るものだ。王国では食用油が豊富にとれるため、それほど費用をかけずに家庭でも作ることができる。

 だが、普段油揚げを作り慣れてない者たちは、調理後の油の処理に困るかもしれない。

 そこでフライパンを使って、油の量を減らした調理法を紹介することにした。


 このアイデアを出してくれたのは御者のトミーだった。彼は料理が趣味なのだという。

 御者という定職に就いていて、料理もできる。多少愚痴っぽいところはあるが、一途な性格で人柄もそれほど悪くなさそうだ。サリーはなぜ彼を振ったのだろうか。

 恋愛は難しいとエトウは思った。


 宿の主人に無理を言って借りた厨房には、十五人の女性全員がそろっていた。彼女たちはいくつかのグループに分かれて協力しながら調理を行った。


 調理の指導役にはトミーにも参加してもらった。

 トミーが失恋話を垂れ流していたとき、女性たちも近くで昼食をとっていた。そのときのトミーは、騎士たちでさえ止めるのを躊躇するほど憐れな様子だった。

 女性たちがトミーを男性としてどう見たのかは分からないが、彼への警戒心はかなり下がったようである。


「油で揚げる前に、肉に下味をつけておくんです。そうすると味がしみておいしくなります。香り付けにはニンニクを使うのが一般的ですね。皆さんの中にはニンニクが苦手な人はいないようですが、もしそういう人がいたら塩とコショウだけでも十分においしいですよ」


 トミーは御者をやっているくらいだから、本来は人付き合いが苦手ではないのだろう。好きな料理について語る彼は生き生きとしているように見えた。


「鍋で揚げるよりも油の量が少なくて済むので、おいらはいつもこうやって油揚げを作っています」


 トミーは小麦粉をまぶした一口サイズのホローバードを、油を溜めたフライパンに入れていった。ジューという食欲を誘う小気味よい音が聞こえてくる。


 コハクもフライパンを使ってホローバードを揚げていく。

「油がはねるので気をつけてね」

 小さい頃から病気の母親の代わりに料理をしていたコハクは、包丁の扱いにも慣れたものだった。


 ソラノはコハクの補助をしながら調理を手伝っていた。ソラノにしても故郷ではほぼ自給自足の生活だったことから、獲物を狩ってから食べるまで一通りのことはできた。


 エトウは二人に比べれば料理経験は少ないが、勇者パーティーに所属して魔物討伐の旅に出ていた間は、魔物や動物の解体・調理を行っていた。

 トミーの補助に入り、彼が気持ちよく調理が行えるように気遣っていた。


 一人残されたアモーは、女性たちの後ろから大きな体で調理を見つめている。ホローバードを絞めるときには、冒険者歴が長いアモーの手つきは確かだった。


 女性たちの中で町育ちの者は、食べるために動物を絞めた経験がなかったそうだ。

 逆さ吊りにされたホローバードが首を落とされても動いているのを見て、なんともいえない顔をしていた。

 そんな彼女たちが今は調理に真剣になり、新しい料理を覚えることを楽しんでいるようだった。


 やがて厨房全体に香ばしいにおいが広がり、大量のホローバードの油揚げができあがる。

 その後、騎士や男性被害者、場所を貸してくれた宿の主人夫婦なども呼んで実食となった。女性たちは協力しあって作った料理を食べながら笑顔になっていた。

 それまで周りとあまり話をしなかった者も、料理の話をきっかけに会話が続いているようだ。

 騎士たちも女性の表情が変わったことに驚き、こんなやり方もあるのかと感心していた。


 好評だった料理教室は定期的に開催されるようになり、被害者の男性たちも狩りに参加するなどそれぞれの気分転換に一役買っていた。


 キリルの町への受け入れ態勢も見直され、女性被害者に安心感を与えるために女性騎士が待機しているという。

 また、希望者には家族への説明のときに騎士が同席してくれるそうだ。自分一人ですべてを説明するよりも、騎士が話してくれた方が負担も少なくなるだろう。

 コハクとソラノは馬車の中の会話で、こういった情報を被害者たちと共有していった。


 エトウは女性たちにはまだまだ不安があるだろうと思っていた。

 彼女たちの生活はまだなにも改善していない。すべては町にもどり、通常の暮らしを取りもどしてからのことだ。


 だが、馬車の中では自分が誘拐された状況や、これから家族の元に帰ることへの不安など、他人に言いにくいことなども相談しあえる環境になってきたという。

 なんでも一人で抱え込んでしまっていた状況は抜け出すことができたのかもしれない。

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