17. 後日譚
「ソラノ、カブスとはちゃんと話せたか?」
エトウは騎士団詰め所から出てきたソラノに尋ねた。
「うん。これでウチのケジメは済んだ」
「そうか。よかったな」
「うん」
「なに話したの?」
コハクはソラノに訊く。
「ウチを奴隷にした理由」
ソラノはコハクに訊かれるままに、カブスとの対話の内容を説明していった。
すると、コハクが段々と怒りの表情へと変わっていく。
「なによ、それ! 最後の最後までぐちぐちと! 結局はそれだけの人間だったってことね!」
コハクは声を荒げた。
「ソラノの態度は立派だな」
アモーはソラノの態度を褒めると、コハクの肩に手を乗せる。
「これでもう会うこともないと思う」
いつも表情にとぼしいソラノだが、どこかすっきりしているように見えた。
ギルドマスターのサイドレイクによると、カブスの罪状はほぼ間違いなく死刑だという話だった。
そのカブスと提携していたチュールだが、どうやら死刑だけは免れそうだ。
今回、カブスが連れていた奴隷たちが、誘拐被害者の第一陣だったらしい。チュールは不法に奴隷にされた者たちをまだ売ってはいなかったのだ。
唯一の例外がソラノだったが、そのときにはカブスとチュールは提携を結んでいただけで、共同事業の話は出ていなかった。
そのため、チュールの立場はエトウにソラノを売ったタマラと同じになり、罪に問われることはなかったのだ。
チュールの具体的な罪状は、誘拐された子供たちや獣人を古城のアジトに監禁していたことと、カブスの協力者として不法な人身売買に関わろうとしていたことである。
後者が未遂で終わったため、十年以内の懲役刑や奴隷に落とされての労働などが課せられる可能性が高い。
奉公人に関しては、ある程度の状況を把握していたデントやベテラン店員などは罪が重くなる。懲役刑が妥当だろうとの話だった。
直接犯罪に関わっていなかった者は罪を問われないようだ。
ベールで誘拐された親子は再会を果たした。
父親はソルトガル近郊の鉱山に奴隷として送られそうになっていたが、カブスを監視していた騎士団の手によって保護された。
ソルトガルで再会した三人は、監禁されていた他の子供たちともども騎士団が責任を持って家まで送り届けるそうだ。
獅子獣人ガイオスは祖国へと強制送還されるところだった。
獣人の国々との関係を考慮に入れると、ギャンブル場で大暴れするようなやっかいな人物は、王国から追い出すにかぎるという結論になりかけていたのだ。
サイドレイクからその話を聞かされたエトウは、ガイオスが情報を提供してくれたから、古城の制圧を早期に終えることができたと報告した。
それに加えて、エトウが戦っている間、ガイオスが子供たちの護衛を務めていたことも話した。
その功績により、ガイオスは国への強制送還という不名誉な扱いは免れ、王国内での自由な行動が保証された。
先日、エトウは南の港町へもどるというガイオスを見送った。顔に布をまきつけ、その上からローブを被ったガイオスは、エトウに握手を求めた。
「エトウさん、いろいろと世話になったな。あんたがいなかったら、俺はどうなっていたか分からない。国に強制送還されそうになったのも、エトウさんが助けてくれたらしいな」
「古城のアジトではガイオスさんに助けてもらいましたからね。お互い様ですよ」
「俺はしばらく南の町を見て回ろうと思っている。そっちの方へ用事があるなら、俺を探してくれ。案内ぐらいならできるだろうからな。ギルドに言付けしてくれれば、俺に伝わるようにしておく」
「そのときはお願いします。でも、ガイオスさん、連絡を取ろうと思ったら、すでに強制送還された後なんてのは嫌ですよ」
「ははは、そうならないように、ギャンブルはほどほどにしておくさ」
ガイオスはそう言うと、南へ向かう乗り合い馬車に飛び乗った。
チュールが商館で抱えていた奴隷たちは、すべてタマラが買い取ることになった。
エトウはパーティーメンバーと一緒に、奴隷をタマラの商館へ移送するときの護衛を請け負った。
奴隷たちは馬車に乗せられて、タマラの所有する商館や倉庫に向かうことになる。
倉庫の出入口から二等級奴隷のセーラが出てきた。エトウの姿を見かけると、笑顔を向けながら近づいてくる。
「クチナシさん、あなたの本当のお名前を聞かせてくださる?」
「エトウといいます」
「エトウ……もしかして、英雄エトウ?」
「はぁ、そんなふうに言ってくれる人もいますね」
「……ふふふ、あははは。面白い! こういうことがあるから、この世界も悪くないって思えるのよね。そう、あなたがエトウさんなの」
セーラはエトウをじっと見つめた。それまで自分を抑えていた枷が外れて、一気に解放されたような強い視線だった。
「私ね、タマラ様の商館で働くことにしたの。エトウさんが情報提供者として報告してくれたおかげよ」
その話はタマラから聞いていた。
ベールで誘拐された兄妹を目撃したとエトウに伝えたのはセーラだった。その情報があったからこそ、その兄妹が古城のアジトで監禁されている可能性が高くなったのだ。
タマラはエトウの話に興味を持ち、セーラを奉公人として雇いたいという意向を示した。給金で自分の身を買いもどすつもりはあるかとセーラに尋ねたらしい。
セーラはその話を了承したようである。
「それはよかったです。セーラさんの情報には助けられましたから。それに俺がなんらかの目的を持っていたこともバレていましたよね。その感覚の鋭さはきっと商売向きですよ」
「ふふふ。ありがとう、エトウさん」
セーラはエトウのすぐ近くまでやって来ると、頬に軽い口づけをした。
そして戸惑うエトウを尻目に、「また、どこかで会えたらいいわね」と言って、タマラが用意した馬車に乗り込んでいった。
「エートーウー、今のなに? 私たちが仕事している間に、あなたはなにをしていたの!」コハクが怖い顔をしてエトウに迫った。
「なにもしてないぞ! あれはだな……訳が分からん」
「訳が分からないのはこっちよ! ずっと心配してたんだから! それで、さっきの女の人は誰なのよ?」
「セーラさんていう二等級の奴隷で――」
「奴隷? あなた、奴隷商館に潜入して、奴隷に手を出したの? 最低!」
「いや、違うからな。手なんか出してないぞ」
「じゃあ、さっきのあれはなんなのよ。随分仲がよさそうだったけれど」
「さぁ?」
「さぁって! 女性の口づけをどう考えているの!」
「もう知らないよ」
コハクの厳しい追求に対して、エトウは白旗を上げたのだった。




