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14. 急報

 食事処を出たカブスは、奴隷の世話をまかせている部下たちの様子を見にいった。

 王都に入る前に、奴隷を身ぎれいにして、馬車の掃除も済ませておく必要がある。そのためにチュール商館の倉庫を一晩借りていた。


 カブスが倉庫の中へ入っていくと、檻に入れられた奴隷たちが目に入った。

 髪と体を洗わせて、清潔な貫頭衣を着せている。こちらの支度は終わったようだった。

 部下たちは奥で幌を取った馬車に水を撒いていた。


「おい、迎えに来る者たちから連絡はあったのか?」

 カブスが大声を出すと、部下たちが慌てて近づいてくる。

「カブス様、いらしてたのですか」

「今来たところだ。それでどうなのだ?」

「迎えの者はまだ姿を見せません。妙なのは、チュール商館の人間も見当たらないことです。いつもでしたら、一人や二人、あいさつに来るのですが」

「そうか」

「なにかあったのでしょうか?」

「うむ……明日の昼まで待って、それでも迎えが来なければ出発する。朝、城門が開いたら、誰か一人先行させて古城にいる連中に連絡をつけておけ」

「分かりました」

「それと、ベールで奴隷にした女エルフのことなのだが――」


 そのとき、倉庫の扉が音を立てて開いた。カブスたちは何事かとそちらに視線を向ける。

 すると、迎えに来るはずだった部下の一人が、ぜぇぜぇと息を切らして中腰のまま動けずにいた。


「お前……タールか?」

 カブスは疑わしそうな顔で尋ねた。


 その男の服は汚れが目立ち、あちこち破れて中に着ている肌着が見えていた。顔にも細かな傷が目立つ。


「カブス様、よかった。お会いできました」

 タールはひざからくずれ落ちる。

「タール、一体なにがあったのだ?」

 タールは手渡されたグラスの水を一気に飲み干すと、険しい表情でカブスを見た。


「カブス様、古城のアジトがダメになりました」

「なんだと? ダメになったとは、どういうことだ?」

「街道から古城に入る脇道には、騎士団の検問が敷かれています。私は一度知らぬふりで通り過ぎ、森の中を大回りして古城に向かいました。古城の敷地内は騎士が警戒に当たっていて、物々しい雰囲気でした」

「なぜ騎士団が古城にいるのだ!」

「……分かりません。私は古くなった城壁がくずれて、中に入っていける場所を知っていました。そこから侵入して、しばらく周囲の様子を観察したのです。建物の中にはとても入れませんでしたが……」

「そうか。城壁の中の様子はどうだったのだ」

「地下室に閉じ込めていたスレイプニルと獅子獣人、それからさらってきた子供らを見ました。騎士団に保護されたようです」

「なんだと! 古城に詰めていた者たちはどうした!」

「分かりません。無事に逃げられたのか、それとも騎士団に捕まったのか……。私はそれだけを確認した後、カブス様にお伝えしなければと思い、夜の森を抜けてきたのです。町に入るときには、例の裏ルートを使いました。外で男が待っているので、通行料を払って頂けますか?」

「うむ、すぐに払ってやれ。タールもよく知らせてくれた。少し休め」

「はい、ありがとうございます」


 カブスは騎士団のねらいについて考えた。

 リーゼンボルト領主代理が健在であるかぎり、ベールで行った誘拐や奴隷売買が明るみに出る可能性は少ない。

 それならば、騎士団はなぜ動いているのか。


 古城を利用していたのは、カブスの部下数人の他には、チュール商館の者たちと警備をまかせていた裏社会の者たちだった。


「王都スラム街のゴロツキどもは、都合のよいときに使い捨てにできる。つながりを作っておいて損はないと思っていたが、足がつくと言えば奴らのところからか……」

 カブスはつぶやいた。いくら考えても現時点では情報が少なすぎる。


 夜が明けると、カブスは部下たちを王都に向かわせて情報収集を始めた。この状況で奴隷を運ぶのはリスクが高すぎたのだ。

 

 日が暮れる頃、王都まで行っていた部下たちが帰ってきた。集めてきた情報がカブスに伝えられる。


「チュール奴隷商館は閉まっていました。店員が出入りしている様子もありません。倉庫の方へと回ってみましたが、そちらも鍵がかかっていて、呼びかけても返事がありませんでした」

「チュールの居場所はつかめなかったのか?」

「つき合いのある商人から聞いたのですが、チュール商館が台風の被害を受けたようです。それでしばらく店を閉めているのではないかと」

「台風だと?」

「はい。数日前に大型の台風が王都を通過しています。あちこちに被害が出たようで、今、王都は復旧作業がピークのようでした」

「そんな慌ただしい状況の中で、騎士団が古城の制圧に動いた理由はなんだ?」

「……騎士団が動くだけの確かな理由があったと、カブス様は思われますか?」

「ううむ……」


 部下たちが集めてきた情報は芳しいものではなかった。

 なによりもチュールと連絡がつかないのは、カブスにとって誤算だったのだ。


 チュールは騎士団に拘束されているのか、それとも逃亡中なのか。あれほどの商人が台風ぐらいで店を閉めたままにしておくのはおかしい。


 カブスは、ここは慎重にならなければならないと考えていた。

 この先の選択を間違えると、自分の身にも火の粉が降りかかってきそうだったのだ。

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