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9. 古城

 エトウはデントたちとともに、王都西門近くの貸倉庫にいた。

 デントが人足の手配をしており、商館の馬車には次々と木箱が乗せられていく。それらはすべて野菜や肉、小麦粉などの食料品だという。


「お前は手伝わなくていい。そのためにあいつらを雇ったんだ。それにしてもクチナシ。お前本当に体力があるようだな。なにか武術でもやってたのか?」


 デントはなにかを確かめるように目を細めてエトウを見た。

 エトウはここで嘘をつくのは余計な疑いを生むと判断した。右手で手刀を作り、上段から振り下ろす。


「剣術か? なるほど、足捌きや腕力は剣術のものだったか」

 デントは納得したようにうなずいた。


 足捌きか、とエトウは思った。

 どんなに気をつけていても、咄嗟のときに反応してしまうことがある。勘のいい人にそうした姿を見られると、警戒心を高めてしまうようだ。

 セーラにもいろいろとバレているようだし、この潜入捜査もそろそろ限界なのかもしれない。


 馬車に荷物を積み込んだ後は、西門を出て街道を進んだ。

 専門の御者は雇わずに、商館の者が御者台に二人乗っている。デントとエトウは幌のついた荷台に座っていた。

 昼過ぎに仮眠を取らせてもらったエトウは、それほど疲れを感じていない。

 荷台から外を眺めながら、やっと潜入捜査らしい展開になってきたと思っていた。


 エトウの乗る馬車は、街道から南の脇道へと入っていった。その脇道は、知っている者しか使わないような細い林道だった。

 しばらく進むと、道が石畳に変わる。そのまま小川を渡る石造りの橋へとつながり、すぐに城門にたどり着いた。


 馬車が門の前で停車すると、中から門番らしい二人の男が出てきた。

 武装している訳でもなく、ズボンのポケットに手を突っ込んで人相の悪い顔をしかめている。

 デントの後に続いて、エトウも荷台から降りる。初めての人間を警戒しているのか、二人の男はじろじろとエトウを見てきた。


「こいつはチュールさんの命令でここにいるから心配いらない。それと台風の影響で人手が足りないんだ。あんたたちにも荷物の搬入を手伝ってもらいたい」

 デントが門番の男に言った。

「はぁ、それはお前らの仕事だろ? 俺たちは知らねぇな」

 男の一人が吐き捨てるように言う。

「……これがチュールさんからの書状だ。今、俺が言ったことも書いてある。兄貴分に見せてくれ」

「チッ! そんなもんがあるなら、さっさと寄越せ!」

 もう一人の男がデントから書状を乱暴に奪って読み始める。

「分かった。いつもどおり裏手に回れ。こっちからも人手を出してやる」

 書状を読み終えた男は渋々といった様子で言った。

「ああ。よろしく頼む」

「ふん! 通れ」


 二人の門番は脇によって馬車を通らせた。一人の男はなにが腹立たしいのか、盛大な舌打ちをするとつばを吐く。


「いいか。あいつらが誰かなんてことは考えるな。うちの旦那や、お前のご主人であるタマラさんが考えればいいことだ。分かったな?」

 荷台にもどったデントはエトウに言った。


 デントの言葉にエトウはうなずく。

 門番の二人が裏社会の人間だとして、チュール商館の者たちとは溝がありそうだった。

 そのことが今後どういった展開をもたらすのかは分からない。

 ただ、しっかりと連携していないのなら、それが彼らの隙になりそうである。


 古城は、お城というよりは石造りの立派な邸宅といった趣だった。

 外観を見ると三階建てのようで、それほど高さがないために森の木に隠れて建物が見えなかったのだ。

 隠さなければならないものがある場合には、ちょうどいいアジトかもしれない。


 馬車を城の裏手につけて、木箱の搬入が始まった。

 建物の中から、がっしりとした体つきの五人の男があらわれて作業を手伝う。

 一見して男たちの戦闘力が高いことが分かった。彼らがどんな武器を使うのかは分からないが、城内での近接戦闘で力を発揮しそうだ。


「おい、小僧。肉はこっちだ、ついてこい」

 男の一人がエトウに声をかけた。


 エトウはうなずいて後をついていく。

 口がきけないことはデントから伝わっているため、その男は不審にも思わず、先に立って歩き始めた。

 階段を降りていくと、気温がぐっと下がったような気がした。腐りやすいものは、温度が上がりにくい地下に保管しているのだろう。


「この中に入れろ。余計なものにはさわるなよ」


 男は自分の荷物を置くと、さっさと部屋を出ていってしまった。

 エトウも木箱を下ろして、上への階段に向かう。

 そのとき、地下室の奥から馬のいななきが聞こえてきた。ガッガッと石の床を踏みつけるような音も響いている。


 エトウは階段の方に誰もいないことを確認すると、音が聞こえる方へと進んでいく。

 角を曲がって最初に見えたのは、片側に牢屋が並ぶ長い通路だった。馬のいなないきはそこから聞こえてくる。

 近づいていくと、八本脚の軍馬スレイプニルが二頭、牢屋の中で鎖に繋がれていた。


 肌を覆う毛やたてがみは、地下室の闇と同化してしまうほどの漆黒だった。ひずめで床を引っかきながら、エトウになにかを訴えている。

 きっとこのスレイプニルは盗品かなにかなのだろう。正規の取り引きで扱えない商品のため、売り先が見つかるまで牢屋に入れているに違いない。


「そいつらはきれい好きなんだ。掃除もろくにしていない牢屋の中に、長いこと押し込めておいたら暴れだすぞ」


 離れた牢屋から男の声が聞こえた。

 そちらに足を向けたエトウは、想像と違ったものを見て思わず声を出してしまう。


「獣人……」

「なんだ兄ちゃん、獣人がめずらしいのか?」

 獅子獣人の男は不敵に笑った。

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